第3話 パーティ加入

 魔法の実演は失敗した。俺は3人の方を向いて頭を下げる。


「申し訳ない。土像にダメージを与えられなかった」


「いちいち謝る必要ないでしょ、こんなこと」


 初めてエルサが口を開く。その声音は美しいが威圧感がある。


「ローザンヌ、今の魔法どうだった?」


 聞かれたローザンヌの眼鏡がキラリと光る。


II類の風霊魔法ですね。風の操作がおおざっぱですが、風速や魔力消費量は標準的だと思います」


 会議室での沈黙はどこへやら、急に饒舌にしゃべり始めた。さらにローザンヌが続ける。


「風霊魔法は基本的に破壊力がありません。〈風霊の投槍フィード・ピルム〉の威力を測る場合は人が立って受けるのが良いかと」 


「僕の知り合いが風霊魔法で岩とか爆散させてたから、それ基準で考えちゃったな……」


 アレクが恐ろしいことを言っている。風を吹かせる魔法でどうすれば岩を破壊できるのか。


「じゃ、もう一回実演ね。アレクがまとで」


「え、僕が?ちょっとやだな~」


 口では嫌がって見せるアレクだが、すぐに土像の前に移動した。


「それじゃあジョー、もう一回僕に向けて〈風霊の投槍フィード・ピルム〉を撃ってみてよ」


「魔法なんて受けて大丈夫なのか?」


 他人に向けて魔法を撃ったことは一度もない。土像へのダメージこそ皆無だったが、人間相手はかなり不安だ。


「平気、平気。僕、結構頑丈だから」


 笑顔で手を振るアレク。それなら手加減しつつ、撃たせてもらおう。


「よし、それじゃあいくぞ」


 魔石ナイフをアレクに向ける。一度魔法を唱えておけば別の魔法あるいは魔石からの魔力を遮断する休止呪語を唱えない限り、再詠唱することなく効果を使い続けることができる。


 土像に撃ったときと同じように空気を集め、突風を放つ。大きな風切り音と共に猛烈な空気の流れがアレクに殺到する。


 風圧を受けたアレクの顔が歪み、扁平へんぺいになる。一瞬、大型扇風機で変顔になるバラエティ番組を想起した。


 アレクは背後の土像を支えにしばらく暴風に耐えていたが、ブホフッと息を吐いて訓練場から吹っ飛ばされていった。


 俺は急いで駆け寄ってアレクを助け起こした。


「結構効いたね~。息できないし、目も開けられなかったよ」


 涙目で立ち上がるアレクは土埃にまみれている。結構な距離を転がっていたが意外にも怪我は無さそうだ。


「実際に受けてみて風霊魔法の有用性がよく分かったよ。敵の攪乱かくらんや妨害に使えるね。他に使える魔法にはどんなものがあるかな?」


「移動を補助する魔法だとか、物を上に巻き上げるあたりだな。急接近したり離脱の支援ができると思う」


 腕組みをしてアレクが頷く。再度の実演はうまくいったようだ。


「それじゃ、ジョーをパーティに入れるかどうか多数決をとろうか。賛成なら挙手よろしく」


 まずアレクが率先して手を挙げる。


「僕は賛成。風霊魔法を使える人間が今パーティにはいないし、あの挨拶を見る限りジョーは人格的に問題なさそうだからね」


 次にローザンヌが小さく手を挙げる。


「風霊魔法の実戦運用について知りたいので私は賛成です。後でナイフ見せてください!」


 はきはきとした口調。俺よりも魔法関連のことに興味があるらしい。この子は魔法オタクという手合いなのだろう。


 エルサは手を挙げなかった。パーティの頭数あたまかずが揃う誰でもいいとのことだった。他人への興味があまりないようだ。


「全員賛成ということでジョーの加入決定だ。おめでとう」


 まばらな拍手。やや不安なパーティではあるが、これで報酬の良い依頼クエストを受注できるようになった。とりあえず前進だ。

 息を吐き、緊張を解く。


「〈去りゆけリプティオ〉」


 俺は休止呪語を唱えた。魔石からの魔力を遮断して魔法の暴発を防ぐために必要な手順だ。


「ありがとう。ところでこのパーティって名前はあるのか?」


「僕らは暫定的に”烏合の衆”と名乗ってる。理由はまる分かりだと思うけど……」


 急造パーティらしいのは何となく分かっていたから驚きはない。やられ役のような名前が少し気になるが……。


「これからよろしく頼む」


 改めてアレクと握手を交わす。異世界での新たな一歩だ。

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勇者のコミュニケーション術 ~パーティから追放されないための方法~ 羅仙 敬 @RasenKei

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