5年後

「絶対、アヤさんの方が美人だと思うなー。」

「そんなこと、言わないの。」

見たい人の姿が見える池をユミちゃんと2人で覗き込みながら、私はケイタさんの幸せそうな姿に安堵していた。

お兄ちゃん大好きなユミちゃんは、相変わらず、ケイタさんの新しい奥様に厳しくダメ出ししているけれど。

(懐かしい・・・・私もよく、ダメ出しされたなぁ。)

思わず、笑ってしまう。

結婚前の家族の顔合わせの席で、自分の写真が置かれた席に座って、ユミちゃんは最初から最後まで私を睨みつけていた。

亡くなった時のまま、高校の制服姿で。

妹がいたが、高校に入って間もなく交通事故に巻き込まれて亡くなったと、ケイタさんから聞かされてはいたけれど、ケイタさんと会う度に姿を見せる女の子の姿を見ていたから、写真を見るまでもなく、私はすぐにその子がユミちゃんだと分かった。

ユミちゃんが、ケイタさんの事が大好き過ぎて、心配で、現世に留まってしまっているのだろうということも、痛いほど分かった。

だから、私はそんなユミちゃんが、可愛くて仕方が無かった。

顔合わせの後、ケイタさんとのデートの時には、必ず間に割り込んできて。

電話をしていても、突然会話に入ってきたり。

そのうちに、3人でいることが、もう当たり前のようになっていたっけ。

「なに?どうしたの?」

「なんでもない。ちょっと、色々思い出しただけ。」

「あー、私が嫌がらせとかしたことでしょ?!」

「ふふふっ。」

ちょっと気まずそうな顔をした後、ユミちゃんも笑いだす。

「でも、なんか楽しかったよね。」

「そうね。」

「お兄ちゃん、幸せになるといいね。」

「うん。」

2人でまた、池の中を覗き込む。

と、突然、ユミちゃんが目を見開いて私を見た。

「来たかもっ!」

「えっ?」

驚く私の前で、ユミちゃんの姿が少しずつ薄くなり始めた。

あぁ、また行くのね。あちら側に。

「行ってらっしゃい、ユミちゃん。」

「うん。またね、アヤさん!」

会ったとしても、お互いの記憶は無くなっているだろう。

わかってはいるけど、ユミちゃんらしい言葉。

そう思った時。

消え際に、ユミちゃんはニヤっと笑って、言った。

「お兄ちゃんの事は、私に任せて。」

・・・・まさか。

思い当たることは、ただ1つ。

急いで池を覗き込むと。

そこには、奥様から妊娠を告げられて喜ぶケイタさんの姿があった。

さすが、ユミちゃん。

ケイタさんへの大きすぎる愛に、脱帽。

でも、私だって負けてないんだから。

私はもう少しここでケイタさんを見守って、また彼と同じ時代を生きたい。

また出会って、今度こそ一緒に幸せになるために。


それにしても。

あの新しい奥様、大丈夫かな。

産まれてくる子はきっと、かなりのファザコンになると思うのだけれど・・・・。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

また会う日まで 平 遊 @taira_yuu

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ