別れ
「えっ?・・・・いる?」
驚いたように、ユミちゃんが顔をあげ、私のいる方を見て目を凝らしている。
と。
「・・・・アヤさんっ?!」
「お久しぶり、ユミちゃん。」
我ながらおかしな挨拶だと思いながらも、私は小さくユミちゃんに手を振る。
私にはずっとユミちゃんが見えていたけど、ユミちゃんはケイタさんのことしか見ていなかったのだから、私の事が見えていなくても仕方ない。
「ごめんね、ユミちゃん。私がここに残っちゃったから、余計な心配かけちゃったね。」
「・・・・ははっ、なんだ。そっか、そーゆーことだったのか。」
はぁ~あ、と。
脱力したように、ユミちゃんは笑う。
「お兄ちゃんがおかしくなった訳じゃなかったのか。良かった・・・・」
心の底から安堵したようなユミちゃんの姿に、改めて、ケイタさんへの愛を感じる。
その愛の大きさに、脱帽。
「まったく、何なんだよ。突然変な事言い出して。勝手にアヤを殺すなよな。」
そして、ケイタさんの記憶力に、脱力。
思わずユミちゃんと顔を見合わせ、肩を落とした。
人は、見たいものしか見ないし、イヤな事は忘れるようになっている。
それはもう、本能のようなものだ。仕方がない。
それでも、ケイタさんにはこの先幸せに生きて欲しいから。
ユミちゃんと私で必死に事故の説明をして、何とか記憶を取り戻してもらった。
ケイタさんには、辛い事だったと思う。
頑なに認めなかったケイタさんだったけれども、徐々に思い出してきたのだろう。
最後には、泣きながら受け入れてくれた。
「ごめん・・・・ごめんな、俺だけ生き残って。」
事故の直後に繰り返していた言葉を、ケイタさんはまた口にした。
ユミちゃんが、辛そうに顔を背ける。
私はケイタさんの両頬を、両手で軽くパチンと叩いたあとに、優しく包み込んだ。
「そんなこと言っちゃ、ダメ。ユミちゃんが必死に助けてくれた命だよ。」
ハッとしたように、ユミちゃんが顔をあげる。
ケイタさんから離した両手で、ユミちゃんの両手を握り、私は言った。
「ユミちゃん、ありがとう。ケイタさんを助けてくれて。」
ユミちゃんの両目から、涙がこぼれ落ちていた。
「・・・・無理だったの。2人は、無理だったの。だから・・・・ごめんなさい。」
辛かったのだ、ユミちゃんもずっと。
だから、余計にケイタさんを心配して、残ってしまったのだろう。
ユミちゃんだって、本当はもう、とっくに亡くなっているのに。
ケイタさんと私が結婚するよりも、もっと前に。
でも、やっぱりユミちゃんも私も、もうここにいてはいけない。
ケイタさんのためにならない。
疲れ果てて眠ってしまったケイタさんをじっと見つめるユミちゃんの手を取って、私は言った。
「もう、行かなきゃね。」
随分時間をおいて、やっとユミちゃんは頷いた。
「バイバイ、お兄ちゃん。」
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