第10話 日常

「翔太~、お風呂に入るわよー」


「おー!」


 詩子の声に、弟の翔太は元気よく返事をした。


 二人は揃って脱衣所へ入り、服を脱ぎはじめた。


 ────あれから二ヶ月。


 詩子と翔太はいつもの生活に戻っていた。


 翔太を狙っていたドランクはすでに逮捕・拘束されているため問題はないが、力に目覚めた詩子と翔太はいろいろと大変だった。


 夜気ヨキを使う能力、タタカイノキオクにつながる能力をもった詩子は、魔法を取り締まる警察ともいうべき探理官たんりかんによって霊体に能力の使用が記録される処置を施され、管理されることになった。


 ひと月に一度、探理局へ出向き、不正な使用がないことを証明しなければならなくなったが、それ以外は簡単な聴取を受けただけですんだ。


 翔太は、ドランクに狙われるだけの魔法的な力について、探理官の精密な検査を受けたが、特殊な力の存在が認められなかったため、そのまま様子をみることになった。


 あっさり済んだのは探理官が都市神とししんから裏付けをとったところも大きかった。


 守る神は害になるようなことはしない。


 ────とにかく、日常が戻ったのだ。


「……」


 ふと翔太を見る詩子。


 以前のように変わらない弟。


 助けるためにいろんなものに助けられて見守られていた気がする。


 そう、いろんなものに……。


「ねえ、翔太。あの時、あの場所で誰かに見られてる感じ、なかった?」


「え、わかんないよ。だって俺、眠ってるかんじで音とかは声はなんとなく分かったけど、見えてるわけじゃなかったし」


「そ、そうよね」


 言われてみれば確かにそうだ。


 それを感じられるのは詩子しかいない。


 都市神はまず間違いないだろう。


 街を守るためにあるのだから。


 そしてイブとヤエ、二人の少女。


 だが、それ以外の存在による感覚もあった。


 たぶん、弟がいる姉のような、自分によく似たもの……。


「姉ちゃん」


「?」


「こうすれば見えるかなー?」


「!!」


 振り向くと、翔太は詩子のブラをメガネにしてかけていた。


「どう? 似合う?」


「まったく……、あんたは……」


 顔を真っ赤にして震える詩子。


「いい加減にしなさい!」


 振り下ろされた強烈なゲンコツの音が家中に鳴り響いた。

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雨と夜と詩子! 一陽吉 @ninomae_youkich

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