なりたいものと成る者

水てっぽう

1.生きていくため…

鳥のさえずりが聞こえる。

眩しい日差し雲ひとつかからない空を見上げ、ふと気がついた。


歌声だ。釣られるように歩きだす。

歌声は段々と近くなる。姿を捉え、手を伸ばし…


「 ねぇ…… 」


顔に強い衝撃しょうげきを受ける。


「起きなさい!ゴウ!」

「あれ……ここ…?俺は?」

「何を…バカみたいに…あなたはここ、アーテル山地の市街地で撤退中

瓦礫がれきが直撃。今の今まで戦闘不能だったのよ!ほら立って!!」


少し遠くからは鈍い着弾音、鳴り響く銃声、

そこら中にうおびただしい血。自身の手には銃が。

そうしてやっと自分が置かれている状況を思い出す。


「イア、戦況は?」

「だからさっき言った通りの…!」

「状況ではなく

「ああ…そっちね。戦況は芳しくないわ。敵反乱軍の奇襲攻撃きしゅうこうげき

OASISオアシスは対応できず司令部が占拠されたわ。小隊(dollドール.)は

死亡者負傷者ともに無し」

「そうか。ひとまず隊と合流し、撤退する」

「了解」


イアは少しかしこまり、一礼してから背中を向けた。

奇襲攻撃か…。今後の動きを模索もさくする必要がある。

俺達doll.ドールは本作戦では独断行動を許可されている。

その後、隊員と合流、撤退。ゴウ少し落ち着きを取り戻していた。


「ゴウ、指示を待つのか?」

「カラッソか。いや…俺達は本軍をおとりに。そのかんに後ろから奴らを叩く。

何か意義はあるか?」

「何もないな。俺は命令に従うよ」

「私も意義はないわ。あなたには実績があるもの」


イア、カラッソの言質げんちも取ることができ、俺は隊員の一人を見つめた。


「私も意義なんてありませんよ!隊長!」


この雰囲気に不釣り合いなぐらいの明るい声で気運きうんが高まるようだった。

dollドール.はゴウを隊長とし、イア、カラッソそしてアメリアこの4人で構成された

特殊部隊である。


「進軍!!」その号令とともに本軍の司令部奪還のための行動が開始された。

奇襲攻撃からわずか一刻の出来事であった。


本軍が市街地戦に展開しようとしている最中さなかdoll.はアーテル山地の山頂付近に移動をしていた。


「隊長!このまま行くと司令部の真上に位置する地点に到着します!」

「わかった。作戦通りに行くぞ」

「了解」隊員全員の空気がより一層張り付いたように感じる。


ハンドサインでアメリアに指示を出す。

作戦開始の合図だ。


「しっかりつかまってくださいね。先輩」


声と共にアメリアは小悪魔のような笑みを浮かべ、勢いよくカラッソを持ち上げ地面を蹴り上げ山を下って行った。

作戦は主に改造【肌】を有するカラッソの隠密行動だ。

アメリアは移動を。俺とイアは上で待機、臨機応変に対応。


『こちらカラッソ。司令部に到着』


改造【筋肉】の機動力はお墨付きのものだ。


「了解。戦況に変化なし。そのまま作戦続行を」

『了解。何かあり次第逐一報告する』


目標は奪還ではなくあくまでも攪乱かくらんだ。

OASISオアシス】にもある要請をしておいた。


「そろそろだな」


ゴウは何も。ただ戦火の煙だけが上がる。すさんだ空を見上げた。






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なりたいものと成る者 水てっぽう @santori

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