FPSソロプレイヤーちゃん、マルチで皆に愛されています。

黒銘菓(クロメイカ/kuromeika)

第1話

 ファンタジー有り、SF有り、現代有り、オリジナル武器作成有り兎に角全部乗せ欲張りフルダイブFPS、『アナザーワールドシューターズ(AWS)』は、有りがちななんやかんやの事件で、プレイヤーはフルダイブしたまま現実に戻れなくなっていた。

 今、彼&彼女らはゲーム攻略に勤しんでいた。


 「『期間限定イベント:奈落の行進』けってーい!

 以前、『奈落の覇王』で倒された不死者カルデウスが奈落の底から舞い戻って来たー!

 今回はカルデウスは多数の配下を連れて進行してくるので、籠城して猛攻を耐え凌ぐ耐久戦。その後、カルデウス本体とのレイド戦となりまーす。

 さぁ、皆仲良くレッツ耐久!&レッツレイド!

 以上、運営AIちゃんからの、おっ知らせでーした。」


 (遂に、来てしまった……。)

 プレイヤーの一人、ミキは絶望に打ちひしがれていた。

 ミキは『AWS』をプレイして一年。未だルーキーで、挙句にずっとソロプレイを貫いていた。

 彼女がソロな理由。それは、恥ずかしがり屋だから。

 (カルデウスはそもそも高耐久でステージギミックが多いマルチ向け。この前はドローン軍団を用意してギリギリ倒せたけど、今回はその前の籠城戦もあるから多分ソロじゃ無理!)

 今まではゴリ押し戦法で何とかやって来れたけど、流石にアイテムや資金も限界が近い。

 私も、マルチ…やらないと

 あ、でも、このタイミングでグループとかに入ろうとしたら露骨にイベント意識して利用しようとしているって思われるし、実際の所そう言われても文句言えないというか、そもそもマルチ経験0な私に需要があるとは思えないし、そもそもプレイスキルが低いというか、そもそも…………)

 「ねぇ君、ウチのグループに入らない?」

 (…………兎?)

 そんな私の脳内反省会を遮って話しかけてきたのは、タキシードにシルクハット、鎖の付いた時計を首から下げた兎だった。


 グループ『コンT(トン)』。

 VRに閉じ込められてから、プレイや日常生活を共にする為に各々で結成する『グループ』というモノがある。

 『コンT』はその内の一つだった。

 「いや今、マルチプレイをするのに人手が欲しくてさ、

 『あの人はソロだ。』って仲間が言うから、ちょっとスカウトさせて貰ったんだけど、如何かな?」

 そう言って兎の人(?)は近くに居た虚無僧スタイルのプレイヤーを指差す。

 「………どうして?」

 「え?あぁ、ソロって解った理由?

 彼に聞いたんだけど、その背中に背負った武器、『ミリトゥーキロ505000』だよね?」

 私が背負った一見すると大型狙撃銃を見てそう言う。

 「『ミリトゥーキロ5005000』。

 一見すると狙撃用の銃に見えるが、その実近接射撃、打撃も可能とする全距離対応型の高水準万能銃。

 が、チームプレイをするのであれば狙撃特化型、支援型、近距離型の銃として最適解は他にもある。

 その銃は製作難易度も高い事から、高性能だがあまり使われる機会は無い。

 故に、ソロと判断した。相違無いか?」

 虚無僧の人が近寄ってそう言って来た。

 「この虚無僧はリン。

 アイテムとか武器とか超好きマン。怖い見た目だけど、割と良識人だぞ。」

 ポカンとする私の前で兎の人がおどけて見せる。

 それに対して虚無僧さんは頭を横に振って呆れていた。

 「お前、さっきから聞き耳を立てていれば相手に挨拶も無しに絡んでいって、挙句俺の見た目をディスるな。

 コイツはアリス。俺はリン。

 来る者拒まず去る者追わずのなんちゃってグループ『コンT(トン)』のメンバーだ。

 グループに一回だけ入って後はさようならしてもいいし、グループ拠点はメンバーで無くても入り浸っていい。

 そんな所で良ければ、一緒に来てくれないか?」

 虚無僧さんがそう言って手を差し出す。

 恥ずかしがり屋な私だけど、その時は息が切れる事も、顔が熱くなる事も無かった。

 「お願い、します。私は、ミキって言います。」

 私は『コンT』の一員になった。




 (とか言って勢いで来ちゃったけど、イベント本番でマルチの練習するって聞いていない!

 私結局怖くて今までマルチした事一度も無いし、武器もソロ向けしか持ってないから何時もので来ちゃったし、だから動き方も解らない、どうしようどうしようどうしよう!)

 現在、イベントミッション中。

 最初に会った二人ともう一人のメンバーさん、そして私で参加している。

 『奈落の行進』は失敗しても罰則が一切無い。何度挑戦しても何もリスクは無いから動きの確認は容易だ。

 でも、逆に言えば難易度は高い。何度も挑戦する事前提だから罰則がない。

 アリス:「じゃ、リン、ミキ、あとキョーヤ。

 軽くこの面子で様子見って事で、いっくぞー。」

 時計の針の様な剣と時計型の盾を携えて走っていく。

 リン:「解った。」

 虚無僧スタイルに尺八。そのまま走っていく。

 キョーヤ「うっせぇ!サッサと暴れさせろや!」

 ロボスーツを纏ってキャタピラ装甲で突撃する。

 ミキ:「ひゃひ!お願いしまう!」

 兎改めアリスさんが呼びかけると同時にイベントミッションが始まる。


 奈落の行進の前半の耐久戦は城壁に囲まれた要塞の中心部に迫るエネミーを一定時間退けるというモノだ。

 今回私は試運転という事で、好きにやっていいと言われている。

 銃を構えて、スコープを覗く。

 迫りくるエネミーの群れ。

 骸骨、壊れかけのロボ、腐乱した竜……………。

 地面を、空を、エネミーが覆う。

 エネミーの、波。

 (マルチのやり方、マルチのやり方、どうすれば、協調するには…………………)

 頭の中で考えがグルグルグルグル回って、渦を巻いて、そうして、頭の底で答えが出た。

 あぁ、そうだ。

 余計な事は考えずに。

 一番良い方法を。

 しゃらくさい事は考えずに。

 『撃ち、当てれば良い。』

 自分の声とは思えない声が聞こえた。

 引き金を引く。

 聞き慣れた重い爆音と共に弾丸が放たれ、エネミーの波に。


 ゴッ!


 炸裂音と爆炎を伴い風穴を開けた。

 『業炎弾インフェルノ

 着弾と同時に爆発。一定領域を炎上させてスリップダメージを与える特殊弾。

 巻き添えを考えると撃ち辛いが、3人は未だ要塞付近。序盤はこれで削る。

 ただ、これだけだと上空にはダメージがいかないから………

 『轟雷弾ケラウノス

 上空のエネミーに向けて放つ弾丸。

 着弾と同時に閃光が走り、周囲のエネミーが地面に落ちる。

 これは着弾と同時に放電して周囲を感電させる。

 『さぁ、ゆこう。』




 アリス:「派手だねぇ。」

 リン:「矢張り…出来る。」

 キョーヤ:「俺らも行くぞ!」

 3人が波に突撃していく。


 エネミーの間を跳び、走り、兎の剣技が冴える。

 『6時を告げる時計アリス・タイム

 一定時間、自身の身体能力(特に跳躍)を上昇させる魔法。

 エネミーが光と共に消えていく。


 虚無僧の演奏と共に尺八から散弾銃が撒き散らされる。

 『尺八乱射ガガクトリング

 古来の楽器を武器にするという狂気の発想と共に銃撃音が響き渡る。


 ロボスーツが唸りを上げて右腕に取り付けられたドリルを回転させ、左腕のハンマーを振り回す。

 『重機暴走特急メカニカルベルセルク

 ドリルが骨を削り砕き、ハンマーが屍肉を粉砕する。


 三者三様。世界観も武器種も使用技能も違うが、それぞれが確実に始末していく。それでも、この数を3人で相手取るのは矢張り無理があった。

 一体一体のエネミーが大した強さでなくとも、全方位から襲い来るそれは脅威。

 ジリジリと体力を削り取られていく……。


 『回復弾が撃ち込まれました。』

 3人の頭にアナウンスが流れる。

 アリス:「これって……」

 リン:「やるな………。」

 キョーヤ:「ウォオオオオラララララララ!」


 回復弾。飛び道具系の特殊な弾丸の一種で、被弾した者を回復させる効果が有る……が、ソロでは銃口をワザワザ自分に向けるロスがある為、原則使われない。

 故に3人共回復弾の使用は考えてもみなかった……。

 が、彼女は日頃から使っていた。

 上空に撃ち出し、落下場所とタイミングを予測して着弾→回復。

 高度な技能によってソロプレイヤーとして過ごしていた。

 更に、3人が暴れる間に回復弾が撃ち込まれる………だけでなく、3人にとっての脅威足り得るエネミーがピンポイントで狙撃されていく。



 アリス:「ホントにこの娘、」

 リン:「マルチプレイ」

 キョーヤ:「未経験者かよ⁉」


 ミリトゥーキロ505000。ミキの主武装をリンはそう断言した。

 ミキもそれを否定はしなかった。しかし、違う。

 『オムネス=プロポジター』

 それがミキの主武装。

 高難易度隠しミッションをクリアすることで手に入る超レア武器。

 攻略サイトでも都市伝説扱いのシロモノ。

 それが彼女の主武装。

 が、何より重要なのは、


 (………………この武器、ゲットするの大変だったな………。)

 AWS始めて1年の人間がそれをクリアした点、それが問題だ。

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