魔法の言葉

薮坂

お約束


「はぁー、尊い。ほんま尊いわ。あぁ、尊い」


「どうしたん、スマホ眺めて。ほんでさっきからチートイ、チートイ言うて。スマホで麻雀やってんのか、お前」


「アホか、麻雀ちゃうわ。尊いや、トートイ。チートイちゃうわ。毎回思うんやけど、あんたどんな耳してんねん。あのなぁ、ウチは推し神作家の新作小説読んでんの。麻雀ちゃうわ、断じてチートイツとちゃうわ。あ、先言うとくけどトイトイともちゃうからな」


「トイトイよりはチートイやろ」


「……それ悔しいけど全面的に賛成やわ。ダマでチートイドラドラ。これ最強やんな」


「お前、渋い手ぇ推すなぁ。対子トイツ場やったらオレもそれ一択やわ。チートイドラドラツモあがり。満貫や」


「リーチ乗せるよりタンヤオ狙いやんな。タン乗ったらこれハネる手ぇやで」


「ようわかってるやん。チートイでリーチ掛けるなんか、オレから言わしたら愚の骨頂やで。チートイは必然、単騎タンキ待ちになるからな。柔軟に待ちを変えられる方が絶対ええわ」


「でもさぁ、配牌ハイパイの時に三元牌サンゲンパイが対子やったら迷わん? それも2種類ある時。チートイで行くかトイトイで行くか」


「2種類やったとしたら、とりあえず鳴くやろ。局の序盤で他家ターチャから出たら間違いなく鳴くわ、オレやったら。場に明刻ミンコーハクハツならんでみぃや、みんな警戒してチュン切られへんやろ。その固まった場ァで、白と發だけで和了アガったらまぁ気持ちええよな。周りからの『チュンいらへんのかい!』って視線がたまらんわ」


「うっわ、人間性でてる和了り方やなぁ。あんたとは絶対、打ちたないわ。たぶんあんた、他風牌タカゼハイの地獄待ちとか好きそうやもんな」


「何言うてんねん、お前もやろが。絶対に単騎待ちになるチートイ推しのヤツが、地獄待ちせーへんワケないやん。お前なんかあえてスジで待ってそうやもんな」


「うっさいな、人を性格悪いみたいに言うて。ほんでなんで麻雀のハナシになってんのよ。なんのハナシしてたか忘れたやんか」


「ていうかお前が麻雀打てるんがまず衝撃やけどな。あぁ、ハナシはチートイのハナシやで」


「ハナシ戻ってるやん。あぁ思い出した、尊いのハナシや、尊い。あんな、ほんま尊いねん。あんたの影響でウチ、web小説詠むようになってんよ」


「ほうほう、ほんでほんで?」


「ほんで。いろんなweb小説読んだんやけど玉石混淆でさ、たまに書籍よりおもろいんちゃう? みたいな小説に出会えるんがええよね。で、ウチはついに出会ったワケよ。魂を揺さぶられるような素晴らしい作品に」


「へぇー、なるほどな。それ喩えたらどんな感じよ」


「喩えるならそうやな。まるで残り一枚のカンチャン待ちを海底ハイテイでツモった、みたいな感じやね」


「ハナシ麻雀に戻ってるがな。ほんでハイテイツモ和了りとか気持ちええなそれ」


「せやろ? そういう感じの小説に出会ったワケ」


「ほんでそれどんなハナシなん」


「そうやな……喩えるなら」


「いや喩えんでええわ、内容そのまま教えてくれや」


「喩えさせてや。それに内容そのままやったら完全ネタバレになるやん。あんたにも読んで欲しいねん、ウチの推し作品を。ネタバレしたらおもろなくなるやろ?」


「まぁそうやな。わかった、ほな喩えでええわ」


「喩えるとな、あるモノを集めるハナシやねん」


「ほうほう、収集モンか」


「バラバラになってるそれを、グループごとに集めることが目的やねん。最終的なゴールは、その集めたモノの並びの美しさを競うことにあるねん」


「美しさ?」


「まぁ最後まで聞いてや。そのモノ集めはな、自分のチカラだけで集めるんが理想やねんけど、時には隣の人とか目の前の人とかから貰ったりもできるねん」


「え、誰かと集めてるん?」


「せや。でも仲間とちゃう。敵対関係やねん」


「一緒に集めてんのに敵対関係なん?」


「せやで。ほんで皆めいめいにソレを集めてるんやけど、目指すカタチに必要ないモノがどうしても出てくるやん? 並びの美しさを競うワケやから」


「まぁ、ようわからんけど」


「ほんでや。つまり無駄なソレがそれぞれで出てくるワケよ。で、他の人が要らんなって捨てたソレを、自分が必要や思たら貰えるシステムが導入されてるねん」


「リサイクルかいな。えらい合理的なハナシやな」


「左隣の人が捨てたモノが欲しなったら『チー』って掛け声出してな、対面トイメンの人が捨てたのを欲しなったら『ポン』って──」


「いやそれ麻雀やないか」


「……ほんまや。喩えるとまるで麻雀みたいやな」


「まるでとちゃうわ、完全に麻雀やろそれ。お前いま、『トイメン』言うたで?」


「イケメン言わんかった? ウチ」


「言うてへんわ。お前の耳こそどないなってんねん。いやクチか。仮にお前がイケメンって言うてたとして、『ポン』と『チー』はないやろ。イケメンとどう考えてもリンクせーへんやん。ハナシ盛りすぎやわ」


「えー、盛ってないんやけどなぁ」


「まぁ盛ってはないかもな。お前、乳も盛ってないもんな。己に正直なそこだけはほんま好感持てるわ」


「もう乳のハナシはええから。ていうかあんたはもうちょい盛れや、髪の毛的な意味で」


「うっさいわ、オレは着痩せするタイプやねん」


「その部位に着てるもんないやろ。ほんでそれどう考えてもウチ向けの言い訳やん。でもええな、今度それ使お。乳小さいなぁ言われても、『ウチ着痩せするタイプやねん』て言お」


「詐欺やんけ、ブラフやんけ。っていま思たけど、このブラフて言葉おもろいなぁ。ブラと書いて。お前にぴったりの言葉やな」


「うっさいわ、ズラフ」


「ズラ言うな、これ頭から直に生えてるヤツや。ズラちゃうねん、そやからズレることなんてないねん。あと、『人としてズレてる』ってツッコミももうええからな」


「言おう思たのに、先いうなや」


「ほんでオレら何のハナシしてるんやっけ。忘れてもうたわ」


「ウチの推しの尊い小説のハナシや」


「あぁそやったな。もうネタバレしてもええから、それどんな内容なんよ」


「イケメンが4人で組んず解れつの麻雀するハナシやねんねどな、」


「結局麻雀やないかい! お前、これどうやって収拾つけんねん。さんざんハナシ引っ張ってそれか。オチもへったくれもないやんか。今思えば何で『尊い』から『麻雀』になんねん」


「あんたがチートイとか言い始めたからやで」


「それは悪かったわ。でもイケメン4人が麻雀って、なんでそれが尊いねん」


「だってイケメン4人がだつ……」


「あー、やめやめ! それは言うたらあかんヤツや! いやオレもweb作者の端くれやからな、そういうジャンルに人気があるんは知ってる。でもあれは生半可な覚悟では手ぇ出されへんヤツやで」


「いや尊いで?」


「一理あるな、としかオレには言えんわ。ほんでマジでこれどないしてオチつけんねん。ハナシ散らかってもうとるやないか」


「確かにこのままじゃ終わられへんな。でもこんな時、ウチらには最強のカードがあるやろ? 魔法の言葉、と言い換えてもええヤツが。ある意味、ウチらにとっては尊すぎる言葉が」


「それってまさか、」


「そのまさかや。この言葉さえ会話の最後に出せば、大抵は解決できる素晴らしく尊い言葉やん」


「でもあれは一回しか使えへんやろ。ここで使たら終わり、次は使われへんのやで。たぶんもうないで。それでもええんか」


「ここで使わなどこで使うんよ。ほな頼むで」


「オレが言う流れなん?」


「そらそうやろ。ポジ的に今回はあんたやん。だってウチ、やっぱりあのイケメン小説はどうしても尊いと言わざるを得ぇへんねん。だってあの4人組がまさかの脱衣麻雀やで? 組んず解れつの。もう尊みが深すぎて直視できんわ」


「……深いんはお前の業やろ。






【完】



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