ヤンキー男子、薄幸女子を知る



私は歌うことが好き、私の双子の姉の美紗が褒めてくれたから、美紗達の願いで私が美紗となりアイドルをやった。


美紗を演じ、美紗より美紗を演じた。世界に名を轟かせた。だけど私は自分が何なのかわからなくなりアイドルを引退した。


その結果私が美紗を演じていた事がバレて、ファンはアンチと化して、私はとうとう殺された。





「……うぅ! ぐぅ……! 」




周りの人がみんな敵、そんな時に出会った龍司と名乗る人は落ちる私を助けようと手を伸ばしてくれた人、とても強くて、思いやりのある優しい人、だけど怖い夢を見ているのかうなされてる。




(大胆かな……だけどこの人は悪くなさそう、怖い夢を見た時はよく美紗と一緒に寝たらぐっすり眠れたな……)



アイドルが異性と同じベッドで寝るなんて、アイドル時代の私なら炎上どころの騒ぎじゃないけど、今の私はアイドルじゃないし、守ってもらっている代償としてできるのはこれぐらいしかないから









「……なんて事だ」




商業の街『クルス』の駐在軍の部隊長、ローラは他の部隊長達と共に美咲と龍司にこの世界の事と戦い方を教えていた。




「あのリュウジとか言う青年、男であれほどの強さとは」




「魔力での身体強化では無く素の実力でこんなに強いのか」




「騎士でも下手にやり合えば一方的に負ける……!! 」




駐在軍の兵百人を指揮する部隊長達はまず龍司の実力に圧倒される。


ゴブリン五百以上を殺したとの報告を受けた時、他の部隊長はそこまで驚く事はなかった。何故なら男女の実力では平均して女性の方が強いが男性が戦えないほど弱いわけではない、魔法や武器を駆使すれば問題なく戦える。


しかし龍司は素手、傷一つ負う事なくゴブリンを一方的に虐殺し、今行われている兵達との訓練でもその実力差は遺憾無く発揮され、武器に恐れる事なく間合いを詰め、鎧をつけて動きの鈍い者には一方的に殴る蹴るでノックアウトまで持っていく、その光景を二時間も見れば部隊長達は龍司の強さを認めるしか無かった。




「彼一人で我々駐在軍に勝るかもしれないな」




「あの少女、ミサキと言ったか」




「あぁ、彼女も凄まじい、本当ならこの街である程度生活をしてもらいたいとシロナ様は仰っていたがこの才能、この街に置いておくのは些か勿体ない」




部隊長達は龍司を見た時は鍛えられた肉体と覇気に思わず口笛を吹いた。しかし美咲を見た時は薄幸そうな容姿と胸はあるが頼りない華奢な身体に溜息を吐いたが、魔力を測る水晶を砕く常人離れの才能に加えて、魔法が無い世界から来たのにも関わらず赤、青、緑、白、黒の五属性の魔法を一度見ただけで理解して扱えるようになり、それ以上に模擬戦では兵士達を操られたかのように美咲にいいように弄ばれていた。




「……こう?」




「違う」




欠点があるとすれば、龍司は未だに魔法が使えず。また美咲はスタミナがあり、運動神経もあるが、戦い方は素人同然である。





「いやはや、とんでもない逸材が来たものだよ」




『貴女がそれほど言うなんてね』




「この街はあらゆる地方の物で発展してきた街だ。物が来なければこの街は死ぬ、この街に住む人達の生活と商人達が安全に行き来する為にあのゴブリンには悩まされていたからね」




『詳しい事が分かり次第私へ報告お願いするわね、姉として気になるのだけれども、貴女的にはどうなの?』




「正直言ってどっちもボク好みだよ、この街で過ごしてもらいたいし、特にあの彼の血は是非とも我がブーリュッシュ家に欲しい、だけどそれ以上にあの二人がどこまで強くなるのか見たいんだ」




『貴女もローラに似てきたわね、元から姉妹の中でもヤンチャだったけど、くれぐれも領主たる貴女が剣を持ち先頭で戦いに行かないでね』




「ボクは先祖達ほど愚かじゃない、戦うのは好きだけど、こうして街を守り民の生活を見守る事も好きだからね」




『ふふふ、私もリュウジとミサキとやらに会いたいからくれぐれも粗相のないようにね』




「危ういね……」




『は?』




「リュウジと直接話をしていないけど、兵達が言うには人懐っこくて距離感が近くて、その上いい肉体、そして薄着だ」




『………………』




「ボクが手を出さずとも他の者が手を出すかもね、ふふふ」




クルスの領主、ブーリッシュ家の貴公子と呼ばれる中性的な容姿のシロナはブロンドヘアを弄りながら淑女とは思えない笑みを浮かべ、その姉である国王のカリンは呆れた笑みを浮かべ、魔法通信を切った。




「むぅ、女としてのボクと領主としてのボク、これは揺れ動くなぁ」







訓練を終え、二人に与えられた部屋に戻った龍司達は椅子に座り息を吐いた。




「疲れたな」




「凄いね、ここの女の人」




「あぁ、全体的にパワフルと言うかな、まぁ男が少ないし女が戦うしかない世界なら強くなるしかないってのも納得だわ」




「これだけの物をくれるわけだね」




街から家を借り、行商人がゴブリン討伐のお礼だと食べ物から服、調度品や様々な物を部屋一杯にプレゼントをされ、男性が女性より少ないと聞き、確かな実力と、傷痕だらけの顔と言っても整った顔立ちの龍司にここぞとばかりにプレゼントしたくなる気持ちもわかると美咲は苦笑いを浮かべる。





「まるでアイドルのプレゼントボックスみたい」




「アイドル? 美咲はアイドルをやってたのか? 」




「これでも有名だったんだけどね、龍司が私の事を知らないって知った時はびっくりしちゃった」




「すまない、流行には疎い生き方をしていた」




「……でもよかったの、もし私の事を知っている人だったら──」




美咲の怯え具合に、龍司は訝しんだ。裏闘技場で喧嘩をし、叶えたい夢のために大企業の会長や医者、様々な施設の偉いさんなどと顔を合わせたり、身体を鍛える事が日常の龍司にとってアイドルと言うものを知らない、そして知らないなりにアイドルをやる者は皆こんなにも怯えなければならないのかと疑問を抱く




「……まさかとは思うが、美咲が落ちてきた事と関係しているのか? 」




「……」




「そうか」




気まずい沈黙、日が暮れはじめて部屋が茜色に染まるが部屋の空気は重く冷たかった。








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ヤンキー男子と薄幸女子の異世界珍道中 小砂糖たこさぶろう @n_003

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