ヤンキー男子と薄幸女子の異世界珍道中

小砂糖たこさぶろう

ヤンキー大暴れ

幼い頃から喧嘩に明け暮れた日々を過ごし続けて、碌な死に方はしねぇだろうなぁとは思っていた。だけどその生き方に後悔は無かった。地獄に堕ちても構わないと思いながらオレなりにできる事をして生きてきた。だけどまさか空から女の子が降って来るとは思わなかった。


助けないと腕を伸ばして必死に受け止めようとした。オレは喧嘩で負け知らずで勝ち続けるために色んな奴と戦い鍛え上げた。だけど現実はそう都合が良いことができる事もなく、落ちて来た女の子諸共死んでしまった。


そして目を覚ますと都会のコンクリートジャングルから一転大自然の森、見渡す限りの緑、そしておまけに緑色のチビ共が嫌な目でこちらを見ていた。




「誰やテメェら──いや、ええわ言葉通じへんやろな」




「う、う……!」




「な……」




しかも落っこちて来た女の子も一緒にいた。





「……今度こそ助けねぇとな」




構えて緑色のチビ達を睨む、喧嘩は千から数えるのをやめた。言葉を通じる奴、言葉の通じない戦闘狂、自分と同じガキからジジイやババァも相手をした。素手も武器も相手をした。野良犬の喧嘩がいつの間にか膨大な金が飛び交うようになった。


そして今、熊や虎では無く得体の知れない怪物を相手にする。




「──かかって来い」




誰が相手でも戦う、それが"龍"の冠を戴いた者としての役目なのだから






「────あれ、私」




「よっ」




「ひっ!?」




少女の目の前に広がる惨状、否、惨状と呼ぶには生易しい光景に思わず飛び上がり後ずさった。




「……目覚めは最悪だけど許してくれ、オレも目が覚めたらこの緑色の連中に囲まれて襲われたんだ。」




目の前にいる少年、額から鼻付近までの火傷跡や左目の傷は少女が死ぬ間際に助けようとしてくれた少年だと気付いた少女は安心した。

しかし少年の椅子になっているのは2メートル以上はあろう緑色の巨体の怪物は顔面が陥没し、首があらぬ方向に曲がり白目を剥いて泡を吹いている。


それだけでは無く、周りにいる数百の怪物も皆似たような状態で息絶えているのだ。




(たぶん、ゴブリンだよね?この数を一人で……? )




「……嫌な事を思い出させる様で悪い、だけど確認しておきたいのはオレ達はさくら港のショッピングモールの駐車場で会ったよな? 」




「は、はい……そのっ! 」




「……着いて来て、この先に川があるから顔を洗ったらすっきりするだろ」




「っ! 」




少女は肩を抱いて警戒するような目で少年を見た。




「襲うならとっくに襲う、オレは善人じゃないんでね」




「も、もしかしたら反応ある方が好きだから起きるまで待ってたって可能性もあるかもしれないから……」




「………………」




「ご、ごめんなさい……」



少年は自分のリュックを背負い、少女と向かい合う




「……はじめまして、オレは龍司、アンタは? 」




「…………美咲」




「じゃ、行こうか美咲」




森を歩く2人、片方は厳ついヤンキー、もう片方は薄幸そうで清楚な美少女、お互い接点が死ぬ間際で会っただけなので会話のきっかけも無く、黙々と歩いていた美咲は前を歩く龍司の背中を見ていた。




(……おっきな背中)




あっ、と美咲は立ち止まると龍司も立ち止まると怪訝そうな表情で美咲を見た。




「その……龍司、さんの背負ってるリュックは」




「さんはいらない」




「あ、うん……」




「……こいつは急な誘いで一週間ぐらい山や森や無人島に籠って喧嘩するからその時用の水と食料、着替えとか衛生用品を詰め込んでる」




(私の知ってる不良の人の喧嘩と違うな……)




「一応喧嘩するなら事務所通してくれって話なんだけど、中々話が通じねぇんだよ」




(喧嘩に事務所? )



美咲は自分の常識とは違うナニかに頭に?を浮かべながら歩いていると龍司は立ち止まり指差す。




「あそこに川がある。もしかしたら野宿になるかもしれないし、大きいタオルを渡すから身体も拭いとくといい」






「んっ……! ……ひぃ! 」




「何でオレまで連れてきたんだよ」




「水、冷たい……」



「話聞いてよ」



龍司は早く済むようにと祈りながら待っていると、美咲が小さい悲鳴をあげてしがみつき、突然背中を襲った柔らかさに龍司は驚き立ち上がった。




「うぉ!?な、なんだよ!? 」




「あ、あれ……」




震える手で指差した先には緑色の怪物、ゴブリンの群れが2人を品定めするかのようにニタリと笑いながら様子を伺っていた。




「……悪いけど服を着てくれ、いや、オレ

のジャケットを貸すから落ち着くまでそれで我慢してくれ」




龍司はジャケットを脱いで美咲に掛けて立ち上がる。





「第二ラウンドってところか」




ゴブリンの群れは奇声をあげて川を飛び越えながら龍司に棍棒を振るう──しかし棍棒が届く前に龍司の拳がゴブリンの顔面を捉えた。




「まずは一匹」



一瞬ゴブリン達は怯んだが、数の多さでこちらが有利と判断して龍司に再び襲いかかる。しかし結果は龍司に指一本触れる事無く絶命して地に伏せた。




「こ、来ないで! 」




龍司に敵わないと判断したゴブリンは標的を美咲に変えてジリジリと近づこうとした。その判断はゴブリン達に更なる地獄に叩きつけられる事になった。







「彼氏の条件で頼りになる男の人がいいって言ってた人の気持ちがわかった」



「じゃあ彼氏に立候補しようかな」




美咲は喧嘩どころか格闘技を知らない、しかし龍司の戦い方を見て美しいと思った。一見荒々しく見えても一匹のゴブリンを殺す動作で次の二匹目三匹目を続けて殺せるようにまるで計算され尽くした動きである。



(ゴブリンが誘導されてる?)




「剣持ち……サイズ的には人間の物か」




『キキィィィッッ!!!』



龍司がゴブリンの右手に収まりきらなかった柄を蹴ると剣はすっぽ抜け、武器を失い空中で身動きがとれなくなったゴブリンを待っていた結末は一つだった。




「今のうちに服着な」




「…………あ」




「どうした? 」




「私の服とブラが無くなった」



乱戦で知らない内にゴブリンに盗まれた。生き残って逃げた奴がいると、そう仮定した龍司は第三派のゴブリンの襲撃が頭をよぎった。



「とりあえず立ってくれ! いつまでもここにいても埒があかない! 」



龍司はリュックを背負い、美咲を守るように川上に向かって走り出した。




「まだいるか!! 」




ゴブリンが撃ってきた矢を弾きながら走り続ける。馬が嘶きが前方から聴こえてくると同時に矢が次々とゴブリンを襲った。




(敵じゃない事を祈るしかねぇな)




「ま、またゴブリンが来た……!」




木々や草木を掻き分けて現れる百数匹のゴブリン、龍司にとって小学生程度の子供とそう変わらない強さで、苦戦を強いられる事も疲れる事も無いが数の多さとあまりのしつこさに苛立ちが募る。




「後ろに下がっててくれ」




「う、うん! 」




龍司は服を投げ捨て静かに構える。美咲をあまり怖がらせないようにある程度は抑えた戦い方だったが、これ以上付き纏われると美咲の負担が凄まじい、そう考えた龍司は遠慮する事の無い非常識な戦闘狂相手と同じように対応するのが吉だと考えた。


ゴブリンの心をへし折り砕き二度と立ち上がる事が出来なくなるまでボコボコにする。そうと決まれば行動は早く一番近くにいたゴブリンの頭を掴んだ。




「───────ッッッッラァッッ!! 」




地面に叩きつけてまず一匹、叩きつけたゴブリンの身体を蹴り飛ばして数匹巻き込み、動揺したゴブリンの群れに突撃して嵐のように暴れ回った。



──迫り来る棍棒ごとゴブリンを殴り殺す──


──剣を振り下ろしてきたゴブリンを掴み振り回して他のゴブリンを斬り殺す──


──矢を撃つゴブリンの矢を掴み投げ返す──



覆い被さり動きを止めようと飛びかかるが、身動きの取れない空中に跳んだことによって龍司の回し蹴りの餌食となった。




(……凄い、でも、背中や胸の周りのあの傷は喧嘩じゃ無いよね、不良同士の喧嘩でわざわざ人目がつかない場所を痛ぶる真似はしない、はず)




腕にも多少の傷はあるが、それ以上に不自然に背中や胸周りに集中している何かで叩かれたような痛々しい痕や火傷痕、不良同士の喧嘩、ましてや龍司のような人外の域に片足を突っ込んでいるような強さの人間とそれに近い強さ、またはそれ以上に強い人間が見るだけで陰鬱となるような痛めつけ方をするのかと美咲は考えていた。




(──虐待)




ゴブリンが龍司に恐れ始めてジリジリと後退りをしはじめた瞬間、ゴブリン達の頭上に円状の陣が浮かび上がる。




「────ッッ!? 」




龍司は一気に下がると美咲を抱えて伏せた。




「な、何? 」




「喋るな、舌を噛むぞ!」




「えっ……」




衝撃と熱風、それから異性に抱きしめられて美咲の頭の中は軽くパニック状態になっていた。




(男の人ってこんなに逞しくて、温かいんだ……)




「何故抱きしめた!? さっさと起きろ!! 」




「あっ……ごめん」





「大丈夫か君達!? 」




馬に乗った兵士達が慌てた様子でやって来た。兵士達の装備と身なりからして龍司は味方と判断して肩の力を抜いた。




「……怪我は無いんですけど、僕も彼女も気がついたらここに居て何が何だかわからない状態でして」




「隊長、まさかこの二人は」




「あぁ、異世界の民か」




(異世界の)




(民?)




「私はローラ、この先にある街の駐在軍の隊長をやっている者だ。詳しい事は街についてから落ち着いて話そう」




「お願いします」




「うむ、では私と兵十人でこの二人を街に連れて行く、他の者は残存するゴブリン達を討て」




『了解』







「凄い」




「日本じゃない……か、これだけの規模のセットを作る土地も金もないだろう」




ローラ達と共に森を抜けるとそこにあったのは巨大な壁、その高さは十メートルほど、その頂上には武装した兵士達が見張りをし、小窓のような物が点々と存在して軍で働いているあろう人達が慌ただしく働いていた。


壁の高さもさながらその広さから壁の中は相当広いと想像できるほどである。




「私だ! 異世界の民を保護をした。部屋を用意してくれ!! 」




巨大な門を潜ると街が広がっていた。日本のようなビルでは無くRPGのような世界がそのまま飛び出して来た建物の数々に活気にあふれる人々、この街に住む人達を見て龍司達は日本ではないどこかの国だと改めて実感していると、街の人達がローラ達を讃える歓声をあげるとローラ達はそれに応えた。




(美人でそれでいて達人と見た。腰の剣を見るに相当な剣士だな)




手合わせを願いたいな、と考えていると様子のおかしい美咲に気づいた龍司はこそっと声を掛けた。




「どうした? 」




「人に見られるのが、怖くて」




龍司はリュックから帽子を渡して美咲に被せる。




「深く被ってたら少しは隠れるだろ? 」




「う、うん……ありがとう」




「気にするなよ、こんな時こそお互い人助けだからな」

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