【閲覧注意】やがて土に還るその日まで【UNKネタあり】

kanegon

【閲覧注意】やがて土に還るその日まで【UNKネタあり】

【起】


「時速165キロの剛速球を投げる大谷投手は、日本人一億人に一人の天才だ」

「そうですね博士」

 俺の意見にイマイチ萌えない女性助手が同意した。

「話は変わるが、人間とゴリラ、どっちが強いと思う?」

「本当に大転換ですね」

「どう思うのかね?」

「そりゃゴリラの方が強いでしょ」

「そう。ゴリラの方が人間よりも強い。ところで日本人が一億人いれば、その中から大谷投手のような165キロの剛速球を投げられる天才が一人出現する」

「それとゴリラに何の関係が?」

「ゴリラは人間よりも強い。ということは、ゴリラが一億頭いれば、その中の一頭くらいは超天才が出現して、時速165キロどころか時速400キロくらいの速さでウンコを投げることができるんじゃないか」

「ウ、、、、、コですか」

「ゴリラといえば、投げるものはUNKだ。君も動物園に行った時にウンコを投げつけられた経験は無いかね」

「子どもの頃にあったような」

「その、一億頭に一頭の天才ゴリラは、ゴールドフロントと呼ばれている」

「何ですか、それ」

「シルバーバックと呼ばれるのは知っているだろう。バック、つまり背中の毛が銀色に輝くからだ。一億分の一の天才ゴリラは銀色ではなく金色に輝いている。それも、背中ではなく前側の股間なのでフロント」

「イヤなゴリラですね」

「400キロで投げたウンコは、もう普通のウンコじゃない。あまりにも剛速球すぎて、相対性理論じゃないけど、素材の価値が逆方向へ進み始める」

「博士の言うこと、支離滅裂になってきました」

「時速400キロに到達したウンコは、賢者の領域に突入する。つまり、中世西洋でよく言われていた賢者の石になるのだ。黄金に変化し新しい生命を育む」

 助手は呆れていた。

「明らかに証明されたわけではない。だけど分かっていないからこそ、南米アマゾンの現地で確かめるべきだ」

「アマゾンにはゴリラは生息していないですよね。ネットで調べたらアフリカに三十六万頭いるみたいですけど」

「ネット情報をアテにしている時点で甘いな。地球上に三十六万頭しかいないのだったら、一億頭に一頭の天才が出現できないではないか」

「やっぱりデマですよね」

「いや、発想の転換が必要だ。地球上のゴリラは一億頭。アフリカのゴリラは三十六万頭。ということはアマゾンには残りの九千九百六十四万頭のゴリラがいるのだ」

「そんなに生息しているなら、とっくに存在が報告されているはずです」

「だからそれを確認するために、アマゾンへ行くのだ」




【承】


 かくして博士の俺は一人で南米アマゾンの秘境、奥地の更に奥地に足を踏み入れた。助手は呆れて留守番だ。

 足元に生えているなんかゴツい葉っぱの草を踏みつけ、極彩色の花を咲かせている木の根に躓きながら、先へ先へ進む。これ、自分の現在地はどの辺りなのだろうか。帰り道は分かるのだろうか。

 そもそもの話。こんなアマゾンの密林の奥地に、アフリカにしかいないはずのゴリラが本当に生息しているのだろうか。それも九千九百万頭。要は、日本の人口よりもちょっと少ない程度の数のゴリラがいるというのだ。

 鬱蒼と木々が茂っているので、視界は当然悪い。

 その時、空気を切る音と共に、視界の隅に黒っぽい物体が高速で動いているのが一瞬見えた。

 すわ、UFOか、と思った次の瞬間には、その黒っぽく見えた物が顔面に命中してびちゃっと飛び散った。

 同時にクサイニオイが鼻孔の奥を突く。

 これウンコだ。

 ウンコが飛んできた。

 飛んできた方に目をやると、居た。一頭のゴリラが木の陰に隠れるようにして、こちらに向かって次のウンコを投げつけようとしている。ゴリラに右利きとか左利きとかあるのか分からないが、左手で投げようとしていたのでサウスポーらしい。

 逃げよう。と思っても、足場は悪いし、周囲には木や草が茂っていて身動きが取りにくい。かといってそれらの草木は、身を隠す役に立つでも無さそうだ。敵のゴリラが、いいポジションからウンコを投げてきているのだ。

 びちゃっ!

 二発目も顔に命中した。

 クサイ。

 剛速球ではない。人間の野球未経験の素人がキャッチボールする程度の速度だ。というか、剛速球を顔に当てられたら下手したら死ぬわ。とにかく、投げているのは普通のゴリラだ。アフリカじゃなくアマゾンに生息しているけど。本当にいたのだ。

 サウスポーゴリラは次のウンコを左手に持って投げつけようとしている。ウンコは水分が多く柔らかかったので、命中した瞬間にびちゃっと飛び散ったのだ。もしかしたらアイツ下痢気味なのかもな。でも、水分含有量が多い割には、ニオイは一人前だ。理不尽だ。

「何をぼんやりしている。こっちに来い!」

 何者かの声、それも女の声が背後から聞こえた。

 振り向くと同時に、手を引っ張られた。体勢をくずした瞬間、俺の顔があった場所をUFOならぬUNKが通り過ぎた。



【転】


 地面に倒れ込んだ、と思ったら、小舟の上に乗って泥水の川の上に浮かんでいた。

 大きな壷を幾つも載せた小舟を操っているのは、褐色の肌の美女だった。まるで、ファンタジーマンガに登場するダークエルフのような肌だ。ただし耳は尖っていないので人間なのだろう。

 褐色の肌が見えるということは、露出が多いということ。彼女は豊満な胸を、金色に輝く小さなビキニアーマーで覆っていた。

「ここまで逃げればもう安心だ。あ、だけど川には落ちるなよ。ここのピラニアは生きた人間の躍り食いが好物なんだぞ」

 ダークエルフ、ならぬビキニアーマーの美女が言った。

「助けていただき、ありがとうございます。あなたのような美女が、なぜ、こんなアマゾンのジャングルにいるんですか」

「私はアマゾネスだからだ」

 アマゾネスって、本来はギリシア神話に登場する女戦士の一族で、それに由来して南米の密林がアマゾンと呼ばれるようになったんじゃなかったっけ。

 でもまあ、アマゾンにいる女戦士だから、アマゾネスで間違いはないのだろう。

「ところでこの舟、どこに向かっているんですか」

「世界の中心たる天牙岳に、壷の中身を捨てに行くのだ」

 壷の中身は何が入っているのだろう、と、つい、壷の蓋を開けてしまった。アマゾネスが制止しようとしたけど間に合わなかった。

 ぷーん。

「クサイ。これウンコのニオイだ」

 臭い物に蓋。先人が伝える慣用句のありがたみを実感したのは生まれて初めてだった。

「これは全部、ゴリラのウンコなんだ。ゴリラのウンコを天牙岳の火口に捨てて焼却処分するのが、先祖代々アマゾネスの役割なのだ」

 アマゾネスの説明によると、この地には一億頭近くのゴリラが生息しているという。それだけ大量にいると、ウンコの量もハンパない。ウンコでアマゾン川の水質が汚染されるという環境問題が起きてしまうのを防ぐために、アマゾネスがこうして運び屋として働いているのだという。

「でも、この壷を全部山の頂上まで運ぶんですか」

「いや、ここまででいい。見ていてくれ」

 川の本流に対して、左右から三本ずつ、合計六本の支流が集まっている真ん中で、小舟は止まった。そしてアマゾネスは次々と壷の中身をドボドボと川に投入する。当然ユーエヌケーのニオイが漂いまくる。

 おいおい、これじゃあ水質汚濁まっしぐらじゃないか。



【結】


 と思ったら、小舟の上でアマゾネスが舞い始めた。何かの儀式か。

 天を翔ける太陽に向かって情熱的に両手を差し上げ、激しく腰を振る。両目を閉じ、艶やかな唇を半開けにして恍惚としながら踊る。

 あまりに激しく踊るので、胸の大きさに対して小さめの金色のブラがぷるんと取れてしまい、俺の手の中に飛んできた。

 慌てて、金色のブラを尻ポケットにしまう。

 アマゾネスはトップレスになっても情熱的に踊り続けた。

 するとその儀式の効果か、ウンコを投げ入れた川の中央部分から、間欠泉のように盛大に噴水が湧いた。噴水は天まで高く高く吹き上がった。

 噴水の光景も凄いが、それを喚び出す儀式もまた尊い。

「はぁ、はぁ。これでウンコは、天牙岳の火口まで飛ばされて行く。ところでアタシのブラが外れちゃったけど、どこにあるか知らないかい」

 腕で胸を隠しながら彼女は尋ねた。川に落ちて流されてしまった、と嘘を言った。

 アマゾネスって女だけの一族だ。どうやって子どもを作るんだっけ。もしかして、俺のような外部の男と交尾して、なんて淡い期待を抱いた時だった。

「あっ、ゴールドフロント」

 腕で胸を隠したアマゾネスが、もう片方の手で川岸を指さした。

 そこには、股間が金色に輝く、普通よりも大きなゴリラが、今まさに右手でウンコを投げつけようとしているところだった。

 投げたウンコは時速441キロを計測し、小舟の上で人の形をとった。金色のビキニで豊満な肉体を辛うじて覆っている美女。

「ア、アマゾネスがもう一人?」

 新しく生まれたアマゾネスは不敵に笑った。

「そうさ。アタシたちアマゾネスの新しい個体はゴールドフロントのウンコから生まれるのさ。そして古い個体は土に還る」

 新しいアマゾネスが言ったその時、ブラが取れた古いアマゾネスの体が泥人形のように崩れ始めた。泥ではない。ゴリラのウンコだ。

 ゴールドフロントのウンコは生命を育む賢者の石。アマゾネスは、元々ゴリラのウンコだったのだ。

 妖艶な踊りを見せてくれた古いアマゾネスは、完全に崩れ去り、全て川の中に落ちてしまった。

「ああ、世話になったお礼も言っていないのに」

「ここはゴリラとアマゾネスの国だ。余所者はとっとと帰りな」

 既に目的を果たしたので、俺は日本へ帰った。

 だけど、起きた事実を説明しても、助手は全く信じてくれなかった。

 俺自身、あれは夢だったのではないかと思うこともある。でも、金色のブラを見ると、あの時のアマゾネスの尊いトップレスダンスを懐かしく思い出すのだ。

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