リベンジ・オブ・ゴリラ ~質量は世界を救う~
蒼天 隼輝
密林一本勝負、見届けるでごわす!
ジャングルの中に鳴き声が響く。何かに怯えて後ずさるそれらは、メスのマントヒヒたちだった。逃げ出せばハーレムの主にかみ殺される事すらあるため、後ずさりはすれどメスたちはそれ以上動けなかった。そのハーレムの主はというと、牙をむき出し毛を逆立て、尻だこを揺らし始めていた。現地のガイドたちに
乱入者は、マントヒヒの顔からチラ見えする尻にも臆さずどっしりと構えていた。怒りのこもった眼で見据えてくるその影は、
だが、目の前にいるそいつはどうだ。ゴリラという種に生まれたことで与えられた十分すぎる筋肉も脅威だが、それだけではない。そのゴリラは、他のゴリラにはあるまじきことに……心なしかふくよかだった。ほぼ筋肉の塊のはずのゴリラのシルエットの間に、柔らかな脂肪がまたがっていた。その分増える体積は、空気を押しのけ代わりに威圧感を置いていく。ゴリラでありながら、ゴリラではない。ジャングルに生きたために正常な生態系に慣れ親しんだマントヒヒ達には、この脂肪こそが恐怖の象徴となっていた。
恐怖と興奮で、
メスが一斉にゴリラリキシに注目したのが気に入らない
パァン!ポイン!ペイン!
しかしその手は皮膚と共に脂肪にからめとられ、全く効いていない。ただでさえ体格のいいゴリラの大胸筋に余すことなく乗った柔らかな脂肪は、その大きさから乳房と呼んでも差し支えない。乳腺がないことを加味すると、ジェネリック乳房である。タイフーンと呼ばれる所以である高速移動を駆使して他の場所も殴りかかるも体の全方位を覆う脂肪の前に生半可な攻撃はなすすべがない。細いマントヒヒの腕、揺れるジェネリック乳房、訳の分からなさに波打つメスたちの顔、焦る赤い尻。地味な展開ではあるが、猿たちのボルテージは頂点に達しようとしていた。
**********
ゴリラリキシと
「いいでごわす……そのままその時が来るまで耐えるでごわす」
史上最高のちゃんこ鍋を求めてジャングルに入った珍味丸が、ぐったりしているゴリラを見たのが事の発端であった。
幼いメスを引きずっていくマントヒヒにボロボロのゴリラが食い下がるも、見かけに反して攻撃性の低いゴリラはマントヒヒの牙に怯えてしまって取り残されてしまった。その後に響く鳴き声は、まるで泣いているよう……感性豊かな珍味丸は号泣し、ゴリラの元に駆け寄った。何とかしてメスを連れ去られないようにあがいた姿に感銘を受けた珍味丸は、ゴリラへの稽古を行わずにはいられなかったのだ。なお稽古とは、具体的には打ち込みと油分と糖分を多く含んだフルーツを使ったゴリラ専用冷製ちゃんこ鍋の爆食わせである。
本来取らない脂肪分が大量に来れば、体内の微生物が処理しきれない。そうして皮下脂肪としてたまっていった結果、攻撃と防御を兼ね備えたゴリラリキシが誕生した。全てはこの時……
一方的に取った弟子の晴れ舞台をそっと遠くから、時々ジャングルで仕留めた獣肉をかじりながら珍味丸が見つめる。ちなみにこの獣、専門家の間では新種と騒がれた貴重な動物であるのだが、珍味丸が今かじっている肉が最後の1頭となる。今まさに一つの種が滅びている瞬間なのだが、そのうまさとカロリーを差し出されては、珍味丸を止める者がいないのである。
「……ごっつあんです」
**********
ジャブではどうにもならないと気が付いたのか、
その瞬間を、ゴリラリキシは見逃さない。一歩踏み込んだのち伸ばされた手は、
ポコポコポコポコポコポコポコポコポコポコポコポコポコポコポコポコ!!
ゴリラリキシの高速ドラミングに、
「さすがでごわす!これこそ純粋な勝敗をつけるためだけの慈悲の決まり手、叩き胸でごわすぅぅぅぅぅ!!」
感極まり、意味不明な独自の決まり手を叫びながら珍味丸が号泣する。メンタルがやられたのか案外吼えないゴリラリキシの代わりに、一人の力士の嗚咽が数時間ジャングルの中に響いていた。
なお、ゴリラリキシが
**********
この戦いの後、自分よりも強いものが出てきてしまった影響で
そして珍味丸はというと、入国審査を突っ張りで押し通った不法入国罪と、正規の発見のはずだった新生物を(ちゃんこ鍋の材料にして)絶滅させた疑惑から、この決戦の三日後、ついに日本へ強制送還されたのであった。
リベンジ・オブ・ゴリラ ~質量は世界を救う~ 蒼天 隼輝 @S_Souten
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