恋を知った君と恋に振り回された僕

りエラ☆

第1話 君の答えは

 咲きかけの桜から、花びらが早くもゆらゆらと舞っている。

 高校三年生の僕は今日この高校を旅立つ。

 合格発表を一昨日聞いた。僕の受験した大学は合格発表がかなり遅いところだった。

 合格したかどうか、家のパソコンを起動して弄りながら探したのが、もう一年は前の事のように思えてくる。

 そこで僕は見つけた。そう、僕の受験番号。僕は見事合格した。親にその知らせを教えたらとても喜んでくれた。

 受かったのは第一志望校。僕は第二・第三志望を選ばずに第一志望校一つだけに全力を捧げた。

 普通の人からすると志望校が一つだけというのはおかしい、と言われるかもしれない。

 しかし、その分一つの志望校にありったけの力を注げる。そこは大きなメリットであろう。

 僕は文系へ進んだ。

 そしてあろうことか、僕の思い人は理系で、さらにかなり遠くの大学に合格していた。

 否、合格したと友人が話していたのを小耳に挟んだ。小耳に挟んだ、というよりは盗み聞ぎしたという方がまだ正確かもしれない。


 それを聞いた僕は今日、今一度思い人こと由梨ゆりを、人がいつもより少ない図書室へ呼び出した。

 一足先に図書室で待っている僕。三月とはいえ寒さは残っているので、エアコンから出る暖かな空気は心地よい。

 そろそろ来ると思う。時間的にも、直感的にもそう感じた。


 一人勉強机に向かっていると、図書室の扉が開く音が。

 慌てて目を向けるが、ただ生徒が図書室から出て行っただけだった。

 人が一人出て行っただけで、こんなに汗が出るとは。

 緊張しているのが自分でも良くわかる。

 深呼吸して落ち着こうとするも虚しく、鼓動は加速していく。


 バクバク、バクバク。


 何回その音を聞いた後だっただろうか。それともその音を静めようと努力していたからか、最初その声には気付かなかった。耳元で聞こえたというのに。

「あの~、来ましたよ~」

「ふぇえっ!?」


 鳴りを潜めようとしていた心臓が、また存在を主張し始める。

 先よりもさらに大きな鼓動音が相手に聞こえてはいないか、びくびくしながら返事をする。

 取り合えず息を吸って。

「あ、あの卒業したら大学別々になるから、最後お話したいかなって」

 しどろもどろになりつつも問いかけると。

「そっか。うん、いいですよ~」

 ニコッとしながら肯定の意を貰えた。

 その微笑を見て心が安らぐというのはきっと由梨のことが好きなんだろうな。

 とぼんやり思いつつ今日呼び出した理由を遠回しに語る。

「由梨はあの大学へ行って何をするのかなって」

「ええっと、私はパティシエになりたいから。小さい頃にさ、お父さんが買ってきてくれた誕生日ケーキを見て、私もこんな美味しそうなケーキ作りたいなって」

 遠い昔の思い出を語るように、しみじみとした顔をする由梨。

 その自然な顔にドキリとしつつ――、

「そうなんだ。僕、由梨のそういう所好きだなあ」

 思わず本心が口をついて出てしまった。

 既に遅し。撤回しようとするも由梨にその言葉こくはくは聞こえていて。

 カアアっとイチゴのように真っ赤になってしまった。

「そ、その今のは…!!」

 既に遅いが一応訂正しておこうと口を開くと――、

「ま、ままま待って! ちょっと待って!!」

 手で機先を制された。頭から煙が出るぐらい真っ赤だ。

 そういう僕も真っ赤な自信がある。いや、自信というよりか自覚なのだろうが。


 手でパタパタ顔を扇いで落ち着こうとする由梨。

 深呼吸もして落ち着いたのか、僕にこう言葉を飛ばし、

「そう言えば、彰斗あきとに告白?、されるのは二回目だっけ」

 ふふふ、と笑みを覗かせた。

 その笑みについ見惚れてしまった僕はその呆け顔のまましっかり頷く。

「そっかあ、あの時からもう二年が経つんだねえ」

 嬉しそうに語る由梨。

 ここで初めて僕、彰斗は視線を前へ向ける。

 交差する視線と視線。片方は真剣みを帯びていて。もう片方は相手を待っているようで。

「僕の思い、由梨には受け入れてもらえないかな?」

 視線は絡めたまま本心を紡ぐ。

「二年前は振られてしまったけど、僕はそれでも由梨のことが好きだ」

 由梨は思わず視線を外し、顔を背けた。

 やはりダメなのか。そう思った刹那。

 鼻をすする者と、目元に手を持っていく者が。

「あなたって良く言えばだけど、悪く言えば往生際が悪いよ?」

 そう笑う由梨は両手で僕の頬を挟む。

「ぼ、僕はなんだ」

「こら、漢字が違うでしょ」

 互いの距離は僅かこぶし一個分。互いにかかる互いの息。

 それがくすぐったくて。

 この距離感が嬉しくて。

 何か注意をされたけどそれが何だったのか頭に入ってこない。

「そんなおバカをやらかす君が、いつも真剣な君が…カッコいいなって」

 ボソボソっと喋った由梨は、そこまで言って恥ずかしくなったのか、僕の顔をポイっと離した。

 と同時に手に握ったハンカチで顔を隠した。でも隠しきれてはいない。

 それは果たして意図的だったのか。

 その顔を覗き込んで、僕は最後返事を待った。

「じゃあ――」

「うん、私も君が好き」

 すると、由梨は満面の笑みでそう返してくれた。

 僕の気持ちは無事届いたようだ。

 しかし、話はそこで終わらない。

「でも」

「でも?」

 悪戯をしてやりたい! と言いたそうなニヤケ顔の彼女を、窓から差し込んだ陽が照らす。

 その眩しさに思わず顔を覆った僕は。

 彼女が今どういう表情をしているのかは分からないが――、

「いっぱい甘えちゃうぞ♪」

 破顔していることだけはわかった。

 そしてそれがわかっただけに僕も嬉しくなって。

「ほどほどにね」

 ちょっと焦りつつもそうこぼした。









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