令和の大仏事業
古博かん
第八回お題作品「尊い」KAC20218
2020年12月7日。
日本全国、否、世界中で猛威を奮うコロナ禍の
「モビルスーツって、あのモビルスーツ?」
「そう。あのモビルスーツ」
「横浜で?」
「そう。横浜で」
正確には、横浜山下
「動く? 歩くんじゃなくて、動く?」
「現代の技術では、流石に自由に歩き回らせるのは無理だ。だが、かつて東京お台場に設置された仁王像○ンダム『RX -78-2』は、直立不動だったことを考えると、十分な進歩だと言える」
「とりあえず、仁王様とお不動様に謝ろうか」
「うむ。
寺院表門を
「RX -78F00は、片足を上げられるし、両腕も振り上げられるから、理論上、万歳三唱も可能だな」
「片足上げて両腕振り上げたら、それは
「そうとも言う。だが、それ以上はやめておけ。次に道頓堀に行ったら、グリコのおじさんがガ○ダムになっている可能性が、無きにしも
どうしてか、日本全国から見て「なんか、ちょっと変わってんな」と思われる大阪自治領には、イントネーション警察(覆面)が街中至る所に潜伏しており、エセ関西弁を口にしようものなら現行犯逮捕されると、もっぱらの噂だ。
「聞いたことねえよ。とりあえず、大阪府民と吉村知事に謝ろうか」
「すんま
コロナという目に見えない脅威を前に、世間では自粛自粛のニューノーマルを迫られる日々が、実に一年以上続いている。そろそろコロナ疲れが叫ばれて久しいが、果たして収束はいつになることやら。
「しっかし、コロナ禍でやることかね?」
「分かってないな。こんなご時世だからこそ、やる価値があるんじゃないか」
「モビルスーツの起動実験(というイベント)が?」
「そのとおり。日本の都が奈良にあった頃から、日本人の感性は変わっていないぞ」
「どういうことだ?」
今は昔、天平十三年(西暦741年)にまで遡る。
聖徳太子によって仏教が広く浸透し、奈良の都が藤原京から平城京へと
政変、政権抗争、疫病流行、天変地異と、様々な天災人災に見舞われ続けたという。
そこで、時の帝——のちの聖武天皇は、事態を治めるために
「こんなご時世だ。とにかく仏像造ろうZE ☆」
日本各地に仏像と七重の塔を建立し、仏の力で何とかしようと試みた。それが、『国分寺創建の詔』である。
「なんか、各都道府県に先進医療施設作って、コロナ患者に対応しようって掛け声に似てるな」
「ああ。当時は大陸伝来の仏教が、時代の最先端だったってことだな」
かくして日本は、大手ゼネコンうはうはの寺院建設ラッシュに突入するのである。いつの時代も、公共事業が経済活性化のカンフル剤なのだ。
そして一方で、こんな一大プロジェクトも発動する。
「世界一でっかい仏像造りたい(はぁと)」
それが、こんにち目にする奈良の大仏様こと、東大寺
「待て。ノリが『等身大ガン○ム作りたい』と同じじゃないか。国難だぞ?」
「でっかい仏像プロジェクトは、実質的に、聖武天皇と光明皇后の発願だったとする説がある。サイズの大小に関わらず、仏像がありがたいものであることに変わりはない。
情勢不安だから、自分たちの権威を誇示する目的もあったんだろうが、単純に、やりたかったんじゃないか?」
「時の権力者による、公私混同か……『ガンダ○作りたい』は、もっと純粋な思いであってほしいんだが」
「もちろん、純粋だろうさ。ただ、行政と企業が絡まなければ、そもそもファクトリーベースは実現しない」
「横浜市の公式観光サイトに載ってる時点で、ウィンウィンの関係目論んだってことか、なるほど」
ともあれ、天平勝宝四年(西暦752年)、インドから偉い僧侶を招致して、無事に東大寺盧舎那仏の
それが今から、ばっくりと千二百年以上前の日本で、実際に起こった話だ。
「○ンダムも、神主さん招いて上頭式してたな、そう言えば」
「ああ、当然だ。何事も初めが肝心だからな」
アニメ初のキャラクターを元にした観光イベント(しかも宇宙ロボット大戦系SFアニメ)に、現実宗教儀式を絡める光景には、海外から奇異の目を向けられたというから、この感覚は理解し難いものなのかもしれない。
何はともあれ、統括すると、こういうことだ。
奈良時代:疫病流行ってるからこそ、でっかい仏像造ろうZE ☆
現代日本:コロナ流行ってるからこそ、動くガ○ダム造ろうZE ☆ 日本元気になろうぜ!
「どうだ? 昔から、日本人は日本人だと思わないか?」
「うーん。こじつけ甚だしいとは思うが、完全に違うとも言い切れない感じがするのは、なぜだろう」
「苦難に直面すると、創造力が刺激されるからじゃないか? この殺伐としたご時世、夢があっていいじゃないか。動くガン○ムは現代の大仏事業と思えば、ありがたいことだろう?」
まあ、1970年代に子供だった大人たちにとって、動く等身大ガンダ○は、実際に心躍る技術の進歩だろう。今の子供たちにとっても、いずれ手足だけでなく自由に動き回る
「たまたま今回はコロナと重なってしまったが、いつの時代も人類が夢と希望を抱けるというなら、アニメも宗教も大差ないぞ。
「なんか、段々そんな気がしてきたわ」
以上、日本の片隅で交わされた他愛もない会話には、大いなる誤解と主観が織り混ざっていることを、最後に申し添えておく。
令和の大仏事業 古博かん @Planet-Eyes_03623
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