第1章 妖精の愛し子と聖女③

 もう八年も前になるけれど、私が七歳の時に王宮でガーデンパーティーがかいさいされた。そして、私はそのガーデンパーティーでの出来事が、いまだに忘れられないでいる。そのパーティーはキース殿下のおが目的だったので、国中の貴族だけではなく、キース殿下と年の近い子ども達も招待された国をあげての大規模なものだった。

 当日は、お母さまが私のために選んでくれたクリーム色のドレスを着て、お母さまと私のひとみと同じ青い色のくつとアクセサリーを身につけた。そして、じよのシャーロットにかみをキレイにってもらった。シャーロットはまだ若かったけれど、とてもゆうしゆうな侍女だとお母さまがよく言っていた。それに、私にもいつもやさしくしてくれた。私はシャーロットのキレイな黄色い髪が大好きだった。


 でも、きっとだからこそお母さまが亡くなった後で義母はシャーロットを真っ先に首にした。……私に優しくすると首にするという他の使用人達への見せしめのように。


「マーガレットとても可愛かわいいわ」

 お母さまはそう言って私の大好きな優しい笑顔を向けてくれた。私もとてもうれしくてお母さまと一緒にいる間中ずっと笑っていた。


(すっごくかわいいねー)

(おひめさまみたいー)

(ドレスをミント色に変えてやろうか)


 妖精さん達にもめられて私はとっても幸せだった。ガーデンパーティーが始まると、子ども達は自然と子ども用のビュッフェコーナーに集まっていた。

 私もお母さまと離れて子ども達の方に向かおうとした。


(きれいなお花があるよー)

(マーガレットの好きな青いお花だよー)

(パーティー会場を青い花でまみれさせてやろうか)


 だけど、妖精さん達にさそわれて私はガーデンパーティーの輪から外れた中庭の池の近くのだんに向かった。


 わー! きれいだねー!


 そこには妖精さん達の言っていたとおり青い花がたくさんいていた。キレイなお花に囲まれて私は夢中になって妖精さん達とお話をしていた。


貴女あなたこんなところで何をしてらっしゃるの?」

 だから、いつの間にか近くに同じ年くらいの女の子がいたことにまったく気付いていなかった。

「一人でニヤニヤと笑っていてとても気持ち悪いですわ」

 いつもお母さまの優しいがおに守られていた私は、とつぜん向けられた悪意にどうしていいかわからなくなってしまった。

「気味が悪いから友達もいなくて一人ぼっちでこんなところにいるのですわね」

 たたみかけるように言われて私はパニックになってしまった。


 こわい! この子きらい!


 思わず、私が心の中で思ってしまったその時だった。


(いじわるさんはきらいー)

(マーガレットをいじめるなー)

(物理的に頭を冷やさせてやろう)


「きゃーっ!」

 その女の子は空を飛んで池に落ちて、あっという間に苦しそうにおぼれていた。幸いガーデンパーティーの場所からそんなに離れていなかったので、悲鳴を聞いた護衛がすぐに駆けつけてくれてその子は救出された。私は池からは少し離れた場所にいたので、まったく疑われることはなかった。

 だけど、その子の悲鳴が、苦しそうな顔が、ずっと頭から離れなくて、怖くて怖くてたまらなかった。


 くっきー、しょこら、みんと。お願いね。お願いだから人間を傷つけないで。


 だから、私はその日からずっといのり続けた。

 どうか妖精さん達が私のために人間を傷つけることがありませんように。そのために『私は絶対に何かをにくんだりしてはいけない』とずっと思っていた。私が憎んでしまうと妖精さん達はその人を傷つけてしまうから。だから私は絶対に憎んだり、あるいは望んだりしてはいけないのだ、と。

 ルイス様と初めてお話をしたあの日までずっと。私はそう思っていた。


(マーガレットどうしたのー?)

(おなかすいたのー?)

(シンシアのおやつをうばってこようか)


 くっきー、しょこら、みんと。わっ、私って……。


 ルイス様の言葉を思い出してうなっていた私を心配してくれたようせいさん達に私は『学園のみなさまは私のことをどう思っているの?』と反則なことを聞こうとしてしまった。だけどその時、いつものようにカナン様達に机を取り囲まれた。


「マーガレット様! 成績がり出されておりましてよ! 十位だなんて、やはりマーガレット様は、キース殿でんこんやく者に相応ふさわしくないですわ」

「カナン様、仕方ないですわ。だってマーガレット様は、ねぇ?」

「えぇ、同じこうしやく家とはいえ、お母様がくなられてすぐに愛人が家にやってくるくらいですもの」

「あらぁ? 半分血のつながった一つちがいの妹がいたことの方が問題ではなくって?」

 うふふふふ、といやらしい笑い声に取り囲まれる前に私は立ち上がった。

「カナン様は何位でしたの?」

 私の質問が思いもよらなかったのか、カナン様はいつしゆんフリーズした後で、顔を真っ赤にされた。


(五十三位だよー)

(成績表みてキーキー言ってたよー)

(一生数式が覚えられない体にしてやろうか)


「わっ、私のことは良いのです!」

「「「そっその通りですわ!」」」

「ルナ・ターナーはくしやくれいじよう、ミラ・マーシャル伯爵令嬢、サナ・ランドマークしやく令嬢」

 私は、カナン様のお友達の名前を初めて呼んだ。今度はお三人の顔が真っ赤に染まった。

「私、これからはしっかり皆様と向き合います。皆様のお言葉は一言一句決して忘れませんわ」

「……マーガレット様、それはどういう……」

「私達は決してマーガレット様を……その……」

「かっ、カナン様っ」

 三人の視線を受けたカナン様は、

「何をおっしゃいますの? 貴女達は貴女達の信念にもとづいて行動しているのでしょう? 私には関係ございませんわ」

 と言ってきびすを返してしまわれた。

「そっそんなっ! お待ちください!」

「私達、カナン様がお喜びになると思って!」

「何かあってもカナン様が守ってくださると思っていたのです!」

 三人はあわててカナン様を追いかけていかれた。一応私に申し訳なさそうに頭を下げながら。

 ……これで良かったのかしら? 不安に思いながらも席に着こうとした時に、ふと視線を感じた。

「うるさくしてしまってごめんなさい」

 休み時間のじやをしてしまったわよね。

「いえっ! とんでもございません」

 私に視線を向けていたのは、ソフィアだんしやく令嬢だった。

「あっ、あのっ、マーガレット様」

「いかがされましたか?」

 私が微笑ほほえむと、ソフィア様はとてもうれしそうなお顔をされた。

「とってもてきでした!」

「……へっ?」

 ソフィア様の思わぬ発言に、キース殿下の婚約者に相応しくない間のけた声を出してしまった。

「いつも何を言われても全く動じず、クールなところもとてもあこがれていたのですが、今日の、たった一言でげき退たいされたところもとても素敵でした! ……あっ!」

 ご自分の発言がカナン様達に不敬にあたるかもと気づいたのか、ソフィア様は口に手を当ててうつむいた。

「私はだれにも言いませんわ」

「マーガレット様」

「とても嬉しかったので、私だけの宝物の言葉にします」

「……あのっ、本当はずっとマーガレット様とお話しさせていただきたかったのです。……またお話しさせて頂いてもよろしいでしょうか?」

「えぇっ! もちろんですわ」

 こっこれはもしかして、十五年間で初めてのお友達が出来たのではないかしら?


(マーガレットにお友だちがふえたー)

(いじわるさんたちと違ってソフィアの周りの空気はきれいー)

(祝福のシャンパンでおぼれさせてやろう)


 前言てつかい。私にはずっと妖精さん達がいてくれたもの。十五年間で初めてお友達が出来たのではないかしら?


 ●●●


「お父様、お母様、私、キース様にデートにさそわれましたわ!」

 ディナーの席で大声でとんでもないことを言い出したシンシアに私はぎょっとしたけれど、義母はかんい上がった。

「まぁっ! シンシア! よくやったわね!」

「私は、お姉様とは違いますもの!」

「シンシア、デートに誘われたとはどういうことだい?」

 お父様は、いつものようにとてもやさしくシンシアに話しかけた。

「えへへっ。今日ね、キース様が来ていて、たくさんお話ししたの!」

 シンシアは、チラッと私を見て意地悪そうに口のはしをあげて笑った。今日は学園もおう教育もお休みだったので、ずっと家にいたのだけど、キース殿でんがいらしてたなんて全く知らなかったわ。しつやメイドが声をかけてくれないのはいつものことだけれど……。私は妖精さん達を見た。妖精さん達は不自然に私から目をらしたり、口笛をいたりして飛んでいた。

 さては、キース殿下がきらいだからわざと教えなかったのね。


「それでねっ、お姉様は、いつも学園か王宮だし家にいてもお部屋に閉じこもってばかりで、私はさびしいんですってお伝えしたら、今度、私のことも王宮に招待するから一度お姉様が学んでる姿を見てごらんって言ってくれたの!」

 ……それってデートなのかしら??

 私と同じ疑問を感じたらしいお父様は気まずそうな顔をしてシンシアから目を逸らした。それから私にいつものごとく冷たい目線を向けた。

「キース殿下にごあいさつも出来ないのか。いつもシンシアがキース殿下をもてなしていると報告を受けてるぞ」

「えぇ! えぇ! だん様! そうなんですの! マーガレットったらキース殿下にご挨拶一つしないで、本当に可愛かわいげのない子なんです!」

「キース様も私とこんやくした方が絶対に幸せになれるのに、婚約者がお姉様で可哀かわいそう!」

 いつものように義母とシンシアが私をあざわらってにらみ付けた。そしてお父様がまゆを寄せながらめくくった。

「マーガレットの母親のいところはオルタナていこくはくしやく家の血だけだったからな。だからマーガレットがキース殿下の婚約者に選ばれた。血だけの存在だ」

 いつものように私は一言も発しなかったので、いつもならこのままシンシアのおねだりタイムになって、私はひたすら貝のように何も話さずもくもくとディナーを食べるのみ。なのだけど、昨日初めてお友達が出来た(多分)私は、いつもとはちがっていた。

「私には、キース殿下にご挨拶することは出来ません」

 このおしきの中で私が言葉を発することはほとんどないので、とつぜんの私の言葉に食堂がせいじやくに包まれた。

「なぜか、キース殿下がいらっしゃっても、誰も私に伝えてはくださらないので」


 ガシャン!

 メイドがスプーンを落として、お父様の後ろにひかえていた執事はこうちよくしていた。


「いっ! 言いがかりよ! まったく!」

 義母が、さっきのシンシアと同じくらいの大声でさけんだ。もしかしてお父様はさすがにそこまでは知らないのかしら?

「私、いつか問題になるのではないかと心配していますの。学園にも王妃教育にも問題なく毎日通えているのに、キース殿下がこうしやく家にいらっしゃった時だけ毎回体調不良になるなんて明らかに不自然ですもの」

だまりなさいっ!」

「それに、学園や王宮で、もし何かの機会に背中を見られたらと思うと、不安です。だって、私の背中には、人に見られると困るような理由のきずあとがありますから」

 私の言葉にさっきまでいかり心頭だった義母はいつしゆんで真っ青になった。外からは見えない場所をたたくことで安心していて、私の背中に傷痕が残っているかもしれないことに初めて思いあたったのだろう。

 いや、本当は痕なんて残ってないけど。物差しで叩かれた後ですぐにようせいさん達に治してもらってるから。でも妖精さん達がいなかったら、何年にもわたって毎回毎回赤くれ上がるまで叩かれ続けた私の背中には確実に傷痕が残っていただろうから、これは決してうそではないわ……多分。


「……ほかに言いたいことはあるか?」

 お父様が私に何か聞くなんて初めてね。今まで言われたのは命令だけだったから。

「ございません」

「もう部屋にもどりなさい」

「失礼いたします」

 私はそのまま部屋に戻った。

(クッキーとってきたよー)

(ショコラタルトもあるよー)

(今度料理長にミントを使ったオリジナルスイーツを作らせてやろう)


 くっきー、しょこら、みんと! ありがとう!


 苦いソースのかかった前菜をまだ一口食べただけだったから、おなかが空いていた私は、妖精さん達がちゆうぼうから持ってきてくれたおをありがたくほおった。


 ねぇ、食堂はどんな空気だった?


(マーガレットのパパがおこってたよー)

(物差しおばさんやメイド長たちが怒られてたー)

(全員の急所をかいめつさせてやろう)


 やっぱりお父様は、さすがにキース殿下と会うのをしていたことや、傷痕が残るようなぎやくたいをしていたことまでは知らなかったのね。……告げ口したのをさかうらみされて明日から、もっと激しくなったらどうしようかしら……。


 だけど、私の心配とは裏腹に次の日からいやがらせがおさまった。朝食の席でお義母かあ様は私を睨み付けていたけど、後で呼び出されることはなかった。メイド長にかみわれても痛くなかった。そして、料理が苦くなかった。

 だけど、その日は一日なんだか体の調子が悪くって、王宮から戻った後で私は厨房に行った。今まで嫌がらせをしてきた(どうやらはんげきを開始したと思われているらしい)私が初めて厨房に来たものだから、シェフ達が仕込み中のじゃがいもを手から落としたり料理長はそうはくになったりと、厨房がそうぜんとしてしまった。

おどろかせてしまってごめんなさい。一つだけお願いがあって。……今までの苦い草、これからも、私の料理に入れてほしいの」

 騒然としていた厨房が今度は静寂に包まれた。

「「「今まで、大変申し訳ありませんでした!!」」」

 一同総出で土下座されそうになったのをあわてて止めて、なんとかこれからも私だけ苦い草が提供されることになった。とてつもなく苦いけど、すっごく体にいいのよね。草。


 ●●●


 今日はおう教育がお休みなので、私は放課後、図書館に来ていた。実は私は『妖精のいとし子』についてお母さまの言葉でしか知らなかった。今までお母さま以外の人から『妖精の愛し子』というワードが出たことはなかったから。ソルト王国では、王妃教育でも学園の授業でも、出てくるのは『聖女』の伝説だけだった。『聖女』の存在はソルト王国が豊かであるしようちようのようね。でも、『聖女』だからといって生き方をソルト王国に決められることはない。もちろん『聖女』だからといって必ず王族にとつぐ必要もない。ただ、三つだけ『聖女』には制約が課せられる。一つ目は、いつしようがいソルト王国で過ごすこと。他の国に移り住むことは出来ない。二つ目は、ソルト王国からけんされた護衛に守られること。三つ目は、月に一度国民のためにいのること。

 ソルト王国での歴代の聖女達は、ソルト王国すべての国民から愛され、国中から守られる存在であったようね。


 もしかしたらと思ってお母さまの出身であるオルタナ帝国の歴史書を読んでいたら『妖精の愛し子』という言葉がさいされていた。『妖精の愛し子が現れると国が豊かになる』という伝説だ。起こしたせき等に関するしようさいな記載はないわね。ソルト王国の『聖女のしき』のような発見のための儀式とかも無いようだし。……ソルト王国の『聖女』と、オルタナ帝国の『妖精の愛し子』は、一体何がちがうのかしら?


 私がオルタナ帝国の歴史書を読んでいると、先ほどまで読んでいて開きっぱなしになっていたソルト王国の歴史書のし絵にえがかれていた『聖なるすいしよう』に妖精さん達が反応した。


(この玉しってるー)

(サーシャの時に光らせたー)

(ただの玉を七色に染めてやったな)


 えっ? えっ? サーシャって、確か百年前の聖女様よね?


 くっきー、しょこら、みんと。サーシャ様って……。


(マーガレットの前の私たちの友だちー)

(僕たちは愛し子が生まれた国にいくのー)

(サーシャが死んだ時は国中に黒い雨を降らせてやったな)


 それって、オルタナていこくの『妖精の愛し子』と、この国の『聖女』は同じ存在で、すべての奇跡は妖精さん達のほうということ?


(マーガレットの時も玉を光らせてあげるねー)

(他の色もできるよー何色がいいー?)

(いっそ玉をきよだい化してやろうか)


「聖なる水晶」って、ただの玉なのね。妖精さん達の力で光らせてるだけだったなんて……。国宝の水晶がただの玉だなんて歴史がらぐんじゃないかしら。しようげきの事実を知ってしまったわ。


(マーガレットーめがねー)

(めがねがマーガレットを見てるー)

(あの眼鏡も巨大化してやろうか)


 混乱して頭をかかえていた私は、ようせいさん達の言葉に顔をあげた。そこには、机の前で気まずそうに立っているルイス様がいた。

「ルイス様? いかがされましたか?」

「マーガレット様。少しお話をさせていただいてよろしいでしょうか?」

「えぇ。もちろんですわ」

「マーガレット様に苦言をていしていたれいじよう達についに反論されたとうわさになっていました」

「……お名前をお呼びしただけですわ」

貴女あなたは僕の言葉など気にも留めないと思っていました」

「あの時の態度はともかくとして、ルイス様の言っていた言葉の内容、だけ、は心にみましたので」

「……今、『だけ』を強調しましたね」

「……今まで私は、自分がだまっているのが一番良いのだと思っていました。私が何かを言ったり願ったりすると、その、かなう可能性が……非常に……高いので……。だから、あらしが去るのを、私がえて待っていればそれが一番良いのだ、と。けれど、ルイス様に不敬を通りしてすがすがしいくらいに失礼な物言いでてきを受けて、自分をり返りました」

「……やはりこの間のことすごく怒ってますね?」

「黙っているだけではきっと何も解決しないのだと気づきました。だから、自分に言えることは伝えてみようと思ったのです。そのことに気づかせてくださいましたこと、だけ、は感謝しています」

「また、『だけ』を強調しましたね」

 ルイス様と私は目を合わせてほんの少しだけ笑った。


「……僕は祖母から聖女さまの話を聞いたことがあります」

 私の読んでいたソルト王国の歴史書に視線を落とした後で、ルイス様はぽつりと言った。

「祖母自身はさすがに聖女さまにお会いしたことはなかったようで母親から聞いた話とのことでしたが。……聖女さまは時々、上の空で、ほうけているような時があった、と」

 ……それって絶対当時の聖女様が、妖精さん達と脳内で会話してたからよね?

「それを聞いた僕は……」

「ルイス様?」

「祖母にげきしました」

「えぇっ?」

「僕は聖女さまにあこがれていたのです。きっとかんぺきで、美しく、らしいがみのような方だと想像していたのです。それなのに惚けていたなどと、『聖女さまはそのようなだらしなくてほうみたいな女性ではない!』と祖母に激怒しました」

「……それ遠回しに私のことを阿呆みたいって言ってますわよね?」

「いえ、聖女さまの話です」

 ルイス様は、眼鏡をくいっと整えた後で話を元にもどした。

「実は、祖母はその後すぐにくなりまして、僕はとてもこうかいしていたのです」

 お母さまがお亡くなりになった時のことを思い出して私の胸も痛んだ。

「マーガレット様がキース殿でんとお話しされている時に上の空になる様子を見ると、祖母に激怒したことを思い出してしまい……。先日言い過ぎてしまったことは、ただの八つ当たりもあったのだと分かっています。本当に申し訳ありませんでした」

 そう言ってルイス様は私に頭を下げた。

「ルイス様、お顔をあげてください」

 ルイス様はゆっくりと顔をあげた。

「おたがい成長出来たということで水に流します。私は自分を振り返ることが出来た、ルイス様はご自分の性格の悪さに気づくことが出来た、ということで」

「…マーガレット様は意外と良い性格をされていますね」

 そう言ってルイス様は笑った。

 あらっ? いつもの真面目まじめそうな顔が笑うと子どもっぽくなって意外とかわいいわ。いえ、そんなことはどうでも良いのだけれど……。ひとしきり笑った後でルイス様は真面目な顔に戻った。

「失礼を承知で一つ言わせて頂いてもよろしいでしょうか?」

「失礼なのは今さらなので、どうぞ」

「失礼ながら、マーガレット様はもっと殿下とお話をされた方が良いかと思います」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

義妹が聖女だからと婚約破棄されましたが、私は妖精の愛し子です 桜井ゆきな/角川ビーンズ文庫 @beans

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ