第1章 妖精の愛し子と聖女②
十五歳になった今も、ずっと
(マーガレットだいじょうぶー?)
(僕たちが治してあげるー)
(痛いのはあいつらに飛ばしてやろう)
くっきー、しょこら、みんと、いつもありがとう。
(この家の人みんなきらいー)
(みんなマーガレットにひどいことするー)
(あいつら顔中虫さされにしてやろう)
でも、痛いのは
妖精さん達がいなかったら、私はこの家で、
詩的に言うならば、彼らは私にとって、【パンドラの箱の最後に残った希望】のような、かけがえのない存在だ。
(マーガレットの
(マーガレットの部屋から時々宝石とか持ってってるー)
(髪を宝石みたいに固くして砕いてやろうか)
えっ? 義母の指示だと思うけれど、私の部屋にはメイドも来ない。だから、
メイド長が私の部屋から宝石とか持っていっているの? お
(ちがうー売ってたー)
(たまに持ってってるよー)
(宝石で急所を打ち付けてやろう)
いつもシンシアに何かしら盗られてるから、まさかメイド長も
(料理長もきらいー)
(わざとマーガレットにだけ苦い草入れてるー)
(料理長も
えっ? やっぱりあれも
(でもあの草すっごく体にいいよー)
(人間は気づいてないけど体にいいよー)
(苦みだけ料理長に流し込んでやろう)
そうなの? 確かに体の調子は
今まで知らなかった嫌がらせの数々を一気に知らされて、気が遠くなりかけた私は、
(あとねあとねー)
と、まだまだ続けそうなくっきーを見て遠い目になった。妖精さんは、私の強い味方、よね?
●●●
ソルト王国には、納税等の義務の他にも二つ、国民に定められていることがある。
一つ目は、貴族の子息
『ソルト王国では聖女が誕生すると国が豊かになると言い伝えられている。聖女の力が
聖女が手をかざした時にだけ、聖なる水晶は七色に光り輝くのである』
今年十五歳になった私も一つ目の義務である王立学園に通っている。学園には
「マーガレット様は、キース殿下の
学園では、カナン・キーファ公爵令嬢が、ことあるごとにお友達を引き連れて私のもとに苦言を
「カナン様、仕方ないですわ。だってマーガレット様は、ねぇ?」
「えぇ、カナン様と同じ公爵家とはいえ、マーガレット様のお母様は
「あらぁ? それは、愛人だった方でしょう?」
うふふふふ、と
いままでは、シンシアが一番性格が悪いと思っていたけれど……。私の世間はやっぱり
(学園もきらいー)
(みんなマーガレットに意地悪するからきらいー)
(学園ごと
みんと、爆破だけはやめて。
思わずくすっと笑ってしまったのがカナン様の
「何が
私はそのまま皆様に囲まれて学園の裏庭に連行されてしまった。今までは、絡まれていても教室や食堂とか人目があったけれど、さすがに
私が
……だけど、そんな私の心配はまったく無用なものだった。
「っ!?」
なんとキース殿下は確かにこちらに気付いたのに、そのまま見ないふりをして引き返してしまわれた。……私がキース殿下に気付いていたことに、気付かなかったんだわ。
(王子様にげたー)
(やっぱりきらいー助けなきゃよかったー)
(今度こそ
妖精さん達の言葉も、カナン様達の言葉も頭の上を流れていった。まさかこの
「聞いているんですの!?」
上の空の私に
「きゃーっ!」
「なんですのー?」
同じタイミングで、
いっ、今のは?
(あいつらきらいー)
(僕たちのマーガレットに調子乗りすぎー)
(次はあの水に
ありがとう。でも、もうしちゃだめよ。
(なんで?)
(物差しおばさんにも仕返ししたいのにマーガレットがだめって言うのー)
(メジャーでぐるぐるに巻いてやろうか)
人を傷つけることをしてはだめよ。私は
お願いだから、人間を傷つける妖精さんにはならないでね。
不満そうな妖精さん達はそれでも、
(((わかったー)))
と言ってくれた。
だけど、逃げたキース殿下の背中を思い出して、私はお母さまが
「マーガレット。昨日、カナン公爵令嬢達に囲まれていたという
翌日、何事もなかったかのように心配そうに聞いてきたキース殿下に
カナン様達はさすがに『マーガレットを池に
「キース殿下。ありがとうございます。少しお話をしただけなので問題ありませんわ」
私の答えに満足したのか、キース殿下は
「それなら良かった。何か困ったことがあったらいつでも僕に言ってほしい。僕はいつだってマーガレットの味方だからね」
その笑顔は、初めて出会った時と全く同じ笑顔だった。あんなに
自分の中のキース
キース殿下が去った後でも、
「ルイス様? いかがされましたか?」
「マーガレット様、少しお話をさせて頂いてもよろしいでしょうか?」
「えぇ。もちろんですわ」
「……どうして以前のように笑わないのですか?」
「……えっ?」
「いえ。今のは忘れてください」
「はぁ……」
「
「……なぜ、と言われましても……」
「同じ
ルイス様は、一息ついて、眼鏡をくいっと持ち上げた後で、一気に
「公爵令嬢である貴女には、それを正してやる責任があるのではないですか? 彼女達はこのままでは、まともな
ルイス様の言葉は、私の頭に、精神に、ガツーンと来た。
(私、このめがねもきらいー)
(マーガレットに
(眼鏡を七色に照らしてやろうか)
「……ルイス様は、それをなぜ私だけに言うのですか?」
「……えっ?」
「本来でしたら、彼女達と一緒になって苦言を
「あっ、貴女は何を言っているんだっ!」
「もしもカナン様に、ご友人をなだめろなどと苦言を呈したら、きっと彼女や彼女のご実家であるキーファ公爵家の
私の言葉にルイス様は、とても
「……僕はただ貴女に……」
私に? だけど、ルイス様はそこでそのまま言葉を切った。
「いえ。すみませんでした。僕が自分自身を見直します」
それだけ言い残して、私から
(マーガレットかっこいいー)
(めがねにげてったよー)
(眼鏡の度を
パタパタと飛んで喜ぶ
私は確かに他の
(マーガレットどーしたのー?)
(この調子で物差しおばさんにも仕返しするー?)
(顔中
意識が遠くなりかけた私は、なんとか最後の気力を
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます