第五話、一番、尊いもの
「うん。そうだね。分かった。今度はハッキリ気持ちを伝えるよ」
彼女が、ぐぐっといった音が聞こえるようなイキオイでホットミルクを飲み干す。
そして、
覚悟を決めて、言う。
「あたしが好きなのは君よ。あたしが愛しているのは君なんだよ」
とホットミルクが無くなったコップを見つめる。
信じられない。彼女が、僕を好きで、愛していると言いだした。
また、お得意のウソ?
急転直下の展開に心がついていかず、信じられない気持ちと嬉しいという気持ちが入り乱れてしまい困惑する。もちろんウソだと思う。お得意のウソだとは思う。今までの哀しい展開を笑って誤魔化す為のウソだ。そうに違いないと考える。
けど、それでも天にも昇る気持ちになってしまって浮ついた。地に足がつかない。
彼女が、また微笑む。
えへへ。
「これで二度目の告白」
いやいや、別に告白はされてないし。
告白された覚えもない。やっぱり、これは彼女、お得意のウソ?
「あたしが、君に告白する夢を見たんでしょ? だから、二回目」
そうか。
そうだったのか。あの夢の話をした時、否定してしまった事を気に病んでいたんだ。だから、あの時、一拍置いて繋いだんだ。そして彼女も、また恥ずかし紛れに否定した。本当は君から告白されて嬉しかったと僕に言って欲しかったんだ。そうか。
だから、フラれたなんて思って……。
「本当に僕が好きなの」
また間の抜けた言葉。
「うんッ」
彼女は、そこに花が咲いたよう笑う。
その笑顔にウソはないように思える。
僕は、ようやく信じて後ろ頭をかく。
乱暴に。
君に辛い思いをさせてしまったねと。
「そっか。そうだったのか。ごめんね。まったく気づかなくてさ」
「てか、答えは? ハッキリと言って。もう、こんな思いは、二度とごめんだから」
僕は不思議と零れた涙を我慢もせずに溢れさせるに任せて笑む。
「うん。僕も好きだ。君を愛している」
僕には、珍しく、恥ずかしげもなく、キッパリと彼女に伝えた。
答えを聞いた彼女は、また嬉しそうに微笑んだ。
そして、
「てか、フラれたなんて言ったのはウソよ。ウソ」
ほへっ?
「確かに、君から夢の話を聞いて、ずっと考えてたら哀しくなったのは本当。涙が出てきてチャンスないのかななんて思ったのも本当。あたしじゃ、ダメなのかなって」
でもね。
「一緒に泣いてくれて、あ、この人だったらって思えた。だからウソをついた。一芝居うったの。フラれたって言ったら、きっと勇気づけてくれるって分かってたから」
彼女は真っ赤になってからうつむく。
そっか。
「また騙されたわけか、君に。フフフ」
ウソをつく勝負じゃ君には勝てない。
勝てないんだって、よく分かったよ。
でも、そんな彼女も、すごく可愛い。
「君が勇気づけてくれたら、告白できるって思ったから。ごめん」
まあ、僕は、彼女のウソに振り回されるのが、役回りだからね。
そんな事で、いちいち腹を立てていたらもたないよ。そんな事よりも彼女を哀しい気持ちにさせて、その上、男の僕から告白できなかった事の方が問題だ。そう思ったら一つのウソを思いついた。悔し紛れっていうのかな、そんな思いからね。
「てかさ」
「なに?」
彼女は興味津々で僕を見つめてくる。
「僕が好きだって言ったのは君が描く絵だから。君の尊い絵だから。これマジだよ」
アハハ。
と笑い合う僕と彼女。
それはウソ。ウソだよね。アハハと。
そうして僕と彼女は、長い時間、付き合ったあと共に人生を歩く決意をした。結婚したんだ。本当の家族になった。その時も僕は号泣しちゃって彼女に苦笑いされた。でも、僕は知ってるよ。君は苦笑いしながらも密かに涙を一つ零した事をね。
そして、
可愛い子供ができた。僕と彼女のさ。
生まれてきた子供の笑顔を見た時、僕は、また泣いてしまった。
本当に、僕って涙もろいな、なんて自分で自分の事が恥ずかしくもなったけどさ。
そして、思ったんだ。
この子の笑顔は彼女が今まで創り出した世界の中でも、一番、尊い宝なんだって。
僕は、ベッドで笑う子にこう言った。
僕と彼女が一緒になって出来た結晶が君なんだ。
君はこの世で一番、尊いんだよって。
作品という名の世界 星埜銀杏 @iyo_hoshino
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