第四話、哀しみ
「うん。……そうだよ」
と彼女はうつむいた。
僕は、この時、少しだけ期待していたんだ。違うよ、どっちかと言えばショタ系の彼かな、なんて言葉を。もちろん僕は彼女に告白されていない。それでもショタ系ならば僕にも可能性があったのかな、なんて思っちゃって。自分でも馬鹿だと思う。
心底ね。
「でもね」
自分が恥ずかしくなり、いくらかの汗をかいた僕に彼女は言う。
「ダンディな時もあればヘタレな時もあるの。だから面白いの、彼。だからモデルにして絵を描いた。それでね。その絵を魅せて、モデルは君だよって言ったの」
聞きたくない。聞きたくないけどさ。
聞かなくちゃいけない気がしていた。
「そしたら信じられないって顔されて」
そっか。
それで、そのあと……、困った顔をされたと、そういうわけか。
でも、それじゃ、まだ断れたわけじゃない。フラれたわけじゃない。単に絵にされて困ったという可能性もある。もちろん僕にとっては彼女が創り出す世界は尊い。でも、そのモデルの彼にとっては絵にされた事自体が問題だったのかもしれない。
「だったら、だったらさ、まだ大丈夫」
僕が、もっと大間抜けになってゆく。
眼前にいる好きな女の子の恋を応援して自滅しようとしている。
「大丈夫って? 大丈夫ってなにが?」
うつむき、ふさいでいた彼女の頬に少しだけ赤みが差してくる。
「それは絵にされて困っただけかもしれないでしょ。モデルになって言ってから描いたわけじゃないんでしょ? 写真を無断で撮られたら困るってアレと一緒だよ」
「そっかな? それだけ、なのかな?」
哀しみ暮れていた顔が、明るくなる。
うん。僕はこの顔が見られれば……。
これは、僕のウソだ。
一世一代の大ウソだ。
「ハッキリと気持ちを聞いてないんだったらさ。まだ大丈夫だよ」
「本当?」
彼女は、
ウソつきで想像力が豊かだから余計な心配をするんだ。大丈夫。
大丈夫だ。安心して。
対して、
僕の心は悲鳴をあげて叫んでいて今にも涙が零れそうにもなる。
でも、彼女が、笑ってくれれば……。
それでいい。それでいいんだ。うん。
「本当だよ。ちゃんと気持ちを伝えてハッキリと答えをもらうまでは、まだ分からないよ。チャンスあるよ。だって、君は、そんなにも可愛いんだからさ。大丈夫」
可愛い。
しまった。余計な事を、とも思った。
思ったが、もう後の祭りで、後悔だけが僕の心に深く刺さった。
もちろん彼女の告白を応援するという意味での余計な言葉という意味と、この後に及んでも自分の気持ちを優先させてしまった僕の愚かさにだ。僕は、溢れて零れてくる哀しみを堪える為に天を見上げて、静かに、ただ静かに、そっと目を閉じた。
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