本来ならケモ耳は尊いはず!はずなんだ……
揣 仁希(低浮上)
異世界交流なんて誰が始めたんだ?
ピンポーン。
とチャイムの音。
リビングの壁掛時計は夕方の6時を少し回った頃。
当方、
本日はカレー也。
「やれやれ……匂いに釣られてきたな」
俺はコンロの火を弱火にして玄関へと向かう。
ピンポーン。ピンポーン!ピポピポピポン!!
「うっさいわっ!開いてるから勝手に入れ!」
玄関の前まで行き、そう声をあげて俺は再びキッチンへと戻る。
「お邪魔しまーす」
ドアを開ける音といつもの聴き慣れた、いや聴き慣れすぎた声を無視して鍋をかき混ぜる。
「いやぁ、総士くんがひとり寂しく晩御飯を食べてるんじゃぁないか、と思って仕方な〜く来てあげたよ!」
「……誰か来てくれと頼んだか?」
「ひとりぼっちの晩御飯は寂しいんじゃないかなぁ、と気を利かしてあげたんだよ?」
「ふぅん?……で本音は?」
「お腹空きましたっ!!テヘッ」
この部屋に引っ越してきて3年になるが、ほぼ毎日こいつが部屋にいるのは俺の気のせいだろうか。
「今日の晩御飯はカレーだよね!ボクはカレー大好きなのさ!あ、出来れば甘口でお願い」
「残念ながら激辛だ」
「な、な、な、総士くん!カレーは飲み物だよ!?辛かったら飲めないじゃないか!」
しっかりと炬燵の定位置に座ってスプーン(持参)片手にドンドンとテーブルを叩くこの残念な女の子は隣の部屋に住むフェリルという狼の獣人だ。
見た目だけなら間違いなく美少女の部類に入るだろう、サラサラの銀の髪にフサフサの耳と尻尾がもれなくついてくるとなればケモナーの皆さんにバカ受け間違いなしだ。
ああ、先に言っておくがここは別に異世界でもなければファンタジーの世界でもないぞ。
もう何十年も前になるらしいが、違う世界との交流が始まり今ではこうして人間以外の種族も普通に暮らしている。
かくいう俺の勤め先の店長も吸血鬼だったりするし。
「おーなーかーすいたぁー」
「俺はお前のおかんでもなければ彼氏でもないぞ?待てないなら帰れ」
「待ちます!いくらでも待ちます! ……あ、お茶もらえるかい?」
「水でも飲んでろ!駄犬」
「ボクは狼だっ!犬じゃないっていつも言ってるだろ!」
「嫌なら帰れ」
「はい。犬です。わんわん」
腹を空かした狼は犬になる件。
駄犬は放置して俺はカレーを盛り付けて渋々とテーブルへと運んでやる。
因みにさっきは激辛だとは言ったが本当は中辛だ。
総士くんのツンデレさん、と呟く駄犬はスルーで。
「うわぁい!いただきまー」
「待て」
「……総士くん、それは何のプレイなんだい?ご飯を目の前にして待てとは?ははぁん、さては総士くんはドSだねっ?」
「お前の頭の中はバラ色か?ここは俺の部屋だぞ?俺のがまだなのに何食おうとしてんだよ」
「ボクはお客さんだよ?」
「呼んだ覚えのない客なんざ客じゃねーよっ!」
日常となりつつあるしょうもない言い合いをしつつ俺もカレーを運んでテーブルにつく。
「「いただきます」」
「あちっ!」
「お前な、猫舌なんだから冷ましてから食えよ。学習能力はないのか?」
「ふふん、狼のボクが猫舌なわけないだろ?これは狼舌さ」
「狼ってのは熱いのが苦手なのか?」
「知らない」
「はぁ……もういい」
ほんと一体誰だよ?異世界交流なんてものを言い出したヤツは。
確かに異世界の文化や技術、こっちにはなかった魔法やら何やらは有効だとは思うけどさ……
そりゃあ俺だって異世界人との交流を夢見てた時期もあったけど、幻想と現実の違いには愕然とするね。
ただ単に俺の周りの異世界人がこんなのばかりなのかもしれないけどよ、もうちょっとマシなんじゃないか?異世界人。
「ごちそうさまで……ゲップ」
「汚えなぁ……」
「総士くん、レディにそう言うのは言わないお約束だよ」
「レディは人前でゲップなんてしねーよ」
「総士くん、お茶」
「……帰れ」
おい、何テレビ見ながら寛いでんだ?
爪楊枝で、しーしーってやるんじゃねーよ。居酒屋のおっさんか?お前は。
「そうだね〜ご飯も食べたし……じゃあボクはそろそろ」
「おう、帰れ帰れ。さっさと帰れ、すぐさま帰れ、疾く帰れ」
「……お風呂まだ?」
「帰るんじゃねーのかよっ!」
「え?だってお風呂入ってないよ?ボク」
「お前な、風呂くらい自分とこで入れよ!」
「いやいや、考えても見ておくれよ。ボクのような美少女が独身で彼女もいない総士くんの家のお風呂に入るんだよ?全裸だよ、全裸!すっぽんぽんのつんつるてんだよ!」
「やかましいわ!ただつんつるてんのとこだけは全面的に肯定する」
「くっ、そこはスルーするところじゃないかい?」
フェリルは確かに美少女だ。そこは認めよう、だがしかし!駄目っぷりがそれを遥かに上回るのもまた事実。
ついでにつんつるてんだ。
俺はどちらかと言えばグラマラスな女性が好みなんだ、ボンキュボンなやつだな。
スレンダーなのも悪くはないがフェリルの場合は完全にぺったんこだからな。
……っていねーし!あいつマジで風呂入りに行きやがった。
はぁ……もういいや。
風呂場で絶好調に演歌なんて歌ってるし。
隣に引越して来てからというもの、ほとんど毎日にようにメシを食いにくるフェリル。
そりゃあな最初の頃は思ったさ。
『銀髪ケモ耳美少女が毎日俺の部屋にっ!?』てな。
でもな3日経った頃には『いいから帰れよ!』に早変わりしてたよ。
見た目だけならとんでもない美少女なんだけどな……あのアホ犬は。
「総士くーん!総士くーん!シャンプーがないよー!」
「石鹸で洗えっ!アホ犬!」
「ぷはぁっ。お風呂上がりのコーヒー牛乳は宇宙だねぇ」
「ったく、俺はお前のおかんか!」
「またまたぁ、照れ屋さんなんだから総士くんは!彼女でいいっていつも言ってるじゃないか!ボクはいつでもウェルカムだよ」
「もうちょっと成長したら考えるわ」
風呂上りにパンツ一枚にTシャツだけでコーヒー牛乳を飲む美少女。
ノーブラなのにあまりの平面具合が残念すぎるぞ。
「おっ!そんなにボクをじろじろと見てようやくその気になったのかい?」
「いや、壊滅的にぺったんこだなと思ってな」
「う、うるさいやいっ!ボクはまだまだ成長期なんだ!今に総士くんがびっくりするくらいのナイスバディになるんだから!」
「ほう?その割には3年間全く成長しとらん気がするのは俺の気のせいか?」
「聞こえなーい、なんにも聞こえなーい」
獣人は人間より長生きで寿命はおよそ200年ほどだそうだ。
フェリルはまだ20歳だから可能性としてはあるのかもしれない。
あくまで可能性だ。
因みに俺はないと思っている。
「今、すごく失礼なことを考えてなかったかい?」
「いいや、そんなことはないぞ」
口の周りにコーヒー牛乳でヒゲを作ったフェリルはジト目を俺に向ける。
「ほら、もうこんな時間だぞ?明日も早いんじゃないのか?」
「おや?ホントだね、じゃあボクはそろそろお暇するよ!総士くん、また明日」
「……明日もメシ食いに来るのかよ」
「カレーは2日目が一番美味しいんじゃないか!あ、明後日はカレーうどんで明々後日はカレー南蛮で頼むよ!」
「知らんわっ!」
「じゃ!おやすみ、総士くん」
俺の頬にささっとキスをして尻尾をふりふり帰っていくフェリル。
やれやれ、どうにも憎めないやつなんだよな……ってあいつパンツ一枚で帰ったのか?
まあ隣だし別にいいか。
ガチャ。
「あ、総士くん。洗濯よろしく」
ガチャ、パタン。
「……俺はお前のおかんか?」
本来ならケモ耳は尊いはず!はずなんだ…… 揣 仁希(低浮上) @hakariniki
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