ダンディ部長が小動物系バイトくんに土下座ですがりつく様を見て、思川みどりはみだりな尊さが留まるところを知らない! ~「思川みどりのみだりな妄想」シリーズ~

椎名富比路@ツクールゲーム原案コン大賞

広報きってのダンディな部長が、バイトに土下座していた

「頼むよ浜中はまなかくん、キミしかいないんだ!」


 広報の鈴谷すずや部長が若い男性に土下座している現場を、~思川おもいがわみどりは目撃した。


 広報部のエリートで、社内でもダンディな男として慕われているあの鈴谷部長が、である。


 まさか、昼食前にトイレに向かっていたら、こんな現場に出くわすなんて。


 このスペースは、重役以外は特に用事がない。

 あるとすれば、トイレがキレイなくらい。だから、利用したい人が使う。

 みどりも、そのタイプだった。というか、「女子トイレが狭すぎる」と散々議題にしているのだが、一向に改善しない社内が悪い。

 


 それにしても、部長が土下座している相手は、広報のバイトくんではないか。

 たしか、浜中と言ったっけ。

 みどりが直接会ったことは少ない。

 が、絵がやたら上手なために重宝されていたのを思い出す。

 顔が小動物系で、モテていたのは覚えている。

 

 みどり直属の上司が、バイトに土下座なんて、何があったのだろう?

 しかも、限られた関係者しか入ってこないスペースで。


「キミにしか、頼めないことなんだ」

「そんなコト言われても、無理なモノは無理ッスよ」


 バイトの浜中くんは、部長の頼みも引き受けない。


 

「頼む。私と付き合ってくれ」



 はあああああああああああ!?


 ダイレクトメッセージとは!?


 ダイイング・メッセージだ。これは「喪女を殺すワード」である!


「いや、だから無理ッス。オレ結婚してるんで! 本業のイラストレーターだって、頑張りたいんス」


 相手はノンケか。しかも、あの若さで既婚者とは。


 その妻帯者をなおも口説こうとするとは、相当本気度が高い!


 しかし、部長だってJKの娘がいたはずだ。奥方との仲もよいと聞く。


 火遊びにしては、リスキーすぎないか?

 

「時間の融通はする! キミには、重要なポストを用意しよう! 給料も弾むぞ!」

「そう言われましても、責任重大ですよ? お役に立てるかどうか」



 

(あれ? 相手もやる気になってきたわ? ヤルのかしら?)



 みだりには、相手の真意が読めない。



「そうと決まれば、今晩食事でもどうだ? 二人きりで話がしたい」

「いいッスよ。妻と話を付けておくッス」

「まだ企業秘密でな」

「もちろんッス」

 


 もう少し様子を見たいが、腹の虫がなってしまう。


「おー、思川くんじゃないか!」


 

(うわ、やっちまった。さっさと退散するんだった! BLの間に挟まれるべからずと、自戒しているではないか!)

 

 

「キミも広報だし、どうだろう。三人で昼飯でも食いながら、話し合おう」

「いえいえ。こういうのはお二方で話し合った方が……」


 冗談ではない。これ以上BLに挟まれるわけにはいかなかった。

 

「ディスカッションルームを借り切って、これよりプロジェクトの説明をする。思川くん、出前を頼む」 


「……は?」

 


              ◇ * ◇ * ◇ * ◇



――二週間後。


『はあ~い。バーチャルアイドルのぉ、『小鈴(こすず)』よぉ~』



 鈴谷部長が涙目になりながら、カメラに語りかける。

 全身を、モーションキャプチャーでがんじがらめにされながら。


「浜中くん、思川くん、どうだろうか? ボクはうまく、『バ美肉』できているだろうか?」


 バイトくんは、青ざめていた。


 いくらボイスチェンジャーで声を変えているからって、元々はオッサンである。

 目の前のオヤジがしゃべっているとわかれば、引くのは当然。

 

 部長はバイトくんに、「社内の看板娘となる、バーチャル配信者」のデザインを依頼していたのだ。

 拘束されるのを嫌ったバイトくんは、最初の方こそ断っていた。しかし、部長の頼みとあって押し切られてしまう。


「本当は、声優志望の娘がアバターに声を入れる予定だったんだ。けれど、ケンカになってしまってね。社長が怒っちゃって。『お前が責任を持って中に入れ!』って言われてしまったんだ」


 業務命令だったのか。


 それで、カワイイイラストが描けるバイトくんに、アバターデザインを頼んだのである。


「思川くんは、やはりコメントなしかい?」


「いいえ。尊いと思います」


 中年男性が無理矢理バ美肉させられて、ボイスチェンジャーで声まで変えられる。

 これ以上、おいしいシチュエーションはあるだろうか。

「強制的に」というのが、実に尊かった。

 

「思川くん、やはりこれは女性が演じた方が」

「結構です」

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ダンディ部長が小動物系バイトくんに土下座ですがりつく様を見て、思川みどりはみだりな尊さが留まるところを知らない! ~「思川みどりのみだりな妄想」シリーズ~ 椎名富比路@ツクールゲーム原案コン大賞 @meshitero2

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