貧乏くじの家系

turtle

第1話

 ......また不採用通知か。画面を見て、ため息をつく。本当だったら東京オリンピックに沸いているはずだった。そこでうまくいかなかったら返済不要の大学院に行って大阪万博のの段階で再就職するはずだった。

 と、落ち込みつつもコピペしながら次の会社に同じ志望理由を加工している自分がいる。たくましいのは、母譲りだ。

 母は、21歳の時が就職氷河期でやむを得ず非正規雇用となり、公務員の父と結婚するものの姑とうまくいかず、当時扶養手当が義務化しない状況でシングルマザーとなり、私を養ってくれている。

 おばあちゃんの21歳の時は大学紛争の真っただ中で熱心に活動しちゃったから退学となった。知人の縫製工場でこれまた非正規で働いたが、同級生で本当に頭がいい人は上手に足ぬけして商社とかに入って、今頃は潤沢な年金暮らしをしているそうだ。

 なんで我が家ってこんなに運が悪いんだろう。


とかブツブツ言っていたら、なにか黒い重たいものが体を覆い、視界が遮られた。

 再び視界が開けると、そこは薄暗い洞窟のようだった。モンペを着て防災頭巾をかぶった人が一塊になって、息をひそめている。

「皆、生きるのに必死なのだ」

 右肩から声が聞こえる。ぎょっとして振り向こうにも、体が硬直して動かない。

「私はお前のひいおばあちゃんだ。この頃は関東大空襲があって、10万人もの人間が亡くなったのだ」

 そんな昔のことをいわれても.....という私の心を見透かしたようにひいおばあちゃんは続ける。

「おまえのおばあちゃんは縫製工場で働いて収入は悪かった。しかしミシンの腕が認められ工場では頼りにされ、今でも地域のいきいきプラザで若いママたちの幼稚園グッズ作りを指導しているよ。時々委託も受けているそうじょ。それに引き換え、商社に入った同級生は左遷され定年までずっと窓際族だった。家族のために辞められなかったのさ。今では認知症らしい」

 ひいおばあちゃんは続ける。

「お母さんだってそうだ。なまじっかあの時期に正社員で入社した子、おっとお前にいうなら人というべきだな、必死で入ったからこそ辞められず、過労死や精神疾患で入院しとる。」

わかるよ、ひいおばあちゃん、人生それぞれと言いたいんでしょう。でもさあ、やっぱり。。

「まあ、そう思い詰めずに外の空気でも吸いに行ったらどうだ?玄関ぐらいならマスクなしでうろついても白い目では見られまい。」

目の前の霧のようなものが消え、パソコン画面が再び現れた。首が自由に動くようになったはいいが、ものすごく凝っている事が分かった。軽くストレッチをすると、ゴリゴリ言う。

ちょっと外に出てみよう。

 いつの間にか青空が広がり、花粉の季節。と悪いことばかりではない、桜も咲くし。ちょっとコンビニでも行こうかと玄関を出て、習慣的に郵便受けを見た。

と、そこには......。


「書類選考通過」の封書が!大慌てで部屋に戻る。封を開ける、どこの会社だろう。どこでもいい。

「何よ玄関開けっ放しにして、危ないじゃない」

パート帰りの母の言葉も耳に入らず、必死で封を開ける。



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