21回目の推理
夜野 舞斗
21
「警部、今度こそ犯人が分かりましたよ!」
探偵、そう事件現場で胸を張って叫ぶももう誰も聞いてはおられない。警部と呼ばれた人物も溜息をつきながら、探偵の方を見やっていた。
「悪いけど、探偵くん。もう帰ってくれ」
「いや、今度こそ本物の犯人が分かったんですって」
「帰れ」
今まで物腰が柔らかかった警部ももう呆れと怒りの真っ只中。なんたって、20回の推理を聞かされているのだ。
20通りの推論が出て、それでも犯人が見つからないと言うのもこれまた珍しい話なのだが。
探偵は今までの過去を何もなかったかのように推理を語り始める。
「で、ですね。ついつい事件の真相が分かっちゃったんですよ」
「なぁ、さっきは8回目だと言って、やぁやぁ事件の真相が分かったとか言ってなかった? そういうダジャレはもういいから! ごほっ! ごほっ!」
強い力で声を出していたか、警部はむせ始めた。そんな彼の様子を見て、天然な探偵はぼんやりとした声で衝撃の言葉を放つ。
「そんな硬いこと言わずに! 誰ですか、この警部をここまで疲れさせたのは……」
捜査員達は開いた口が塞がらなかった。何故にここまで自分のせいでないと思えるのか。20回も推理した挙句、外れたことに対する罪悪感とか全くないのか。
皆、探偵の気ままな性格に羨ましさすら覚える程である。
警部は気を取り直して、探偵に告げる。
「あのなぁ、21回目の推理に何かあるのかね?」
「ええ。過去20回は全て犯人を油断させるための罠だったんですから」
「いや、こっちが容疑者に舐められて、だいぶ逃げられたけどな?」
「まぁまぁ、20回推理すればとお(10)とお(10)犯人も分かりますって」
「お前、油断させるって今言ってなかった? 一瞬で言葉が矛盾したぞ?」
「あら……」
警部はそれでも、彼の言葉に耳を傾ける。結局は警察も事件の真相は見えていない。猫の手でも役に立たない探偵の手でも借りたいものだったのだ。
「ううん……またも外れてるじゃないか」
それでも期待してしまう警部はがっかりとさせられる。肩を落として、探偵に嫌味を言うが彼は「にぃ(21)」なんて呟いて、何も応えちゃいない。
さて、と探偵は考える。
「……この事件はなかなか解けませんね。警部のプリン盗難事件……一体誰か持ちだしたのか……警察署の冷蔵庫は……21通りの容疑者を上げてみたけど、結局警視総監も警官になったばかりの人も違ったし……外部の線も試してみたけど、結局、そんな痕跡は見当たらなかったと……こういう、普通の事件こそ難解だよなぁ」
皆がいる場所でそう呟き、捜査員達の皆に聞かせることとなる。
その裏で探偵は考える。
こうやって、21回も推理しとけば分かるだろう。僕が役立たずの探偵であることを。たぶん、近々強制的に警察署を追い出されることになると思う。
そんな警部だったら一生気が付くこともないだろうな。
プリンをこっそりつまみ食いしたのが、僕だってこと。
だって、21回もプリンを自慢されたら、ついつい食べたくなっちゃうよね。誰か、分かるかな? この僕が凶行に走ってしまった理由を。理解してくれるかな?
21回目の推理 夜野 舞斗 @okoshino
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