21回目の転生

篠騎シオン

第1話(?) 女神との出会い

私は新人女神のエア。

女神になるための研修期間は人一倍長かったけれど、そんな私も先日立派な女神になった。びっしばっしと大活躍して、早く女神階級を駆け上がってやるんだから!

それにしても今日私、実はとても緊張してる。

なぜかって今日は初めて、女神の花形仕事である『異世界転生の案内人』を経験するからね♪

危機に瀕している世界を救うために他世界から救世主を見出す、勇者システム。

そんな世界を救う重要なお仕事は、みんなに大人気!

だからなかなか順番が回ってこなかったんだけど、なんと今日腹痛でお休みになった先輩の代わりに担当させてもらえることになったんだ。

病気にならない女神が腹痛っていうのがちょっぴり気になるけど、これって私が期待されてるってことだよね!

よーし、頑張っちゃうぞ。


勇者候補の人間君は、転移によってこの空間に運ばれてくる。

私はっと、玉座の上で待機待機。

女神だもん、威厳たっぷりでいかないとね!


私が玉座に座ってすぐ、転移魔法陣が光りだす。

そしてたくさんの光に包まれて、一人の人間がそこに現れた。

私は、彼に向かって威厳たっぷりに言う!


「おめでとうございます、不慮の事故で死んでしまったあなたですが、なんと異世界の勇者に転生する権利を手に入れました。女神である我々にとってもそれは本当に思いがけない事故でした、あなたは寿命を全うする前に死んでしまった。だから私たちの偉大なる慈悲によりあなたに素敵な能力をも授けます」


名乗り口上はうまくいった!

さて、私の初仕事成功させちゃうんだからね。

そう思っていたけれど、人間君から反応がない。

あれ、私の説明、わかりにくかったかな?

それとも突然この空間に来てびっくりしてぼーっとしちゃってるのかな?

ちょっと焦って玉座から身を乗り出して聞いてみる。


「ね、大丈夫?」


私の言葉に人間君はかけていた眼鏡をくいっとあげて、にらんできた。


「はぁー、ユラはどうした?」


って、ええ!

いきなり女神に向かってため息、そしてため口?

それになんか別の女の名前呼んでるし……って、ユラってもしかして腹痛でおやすみのユラ先輩!?

ちょ、え。

女神の名前知ってるとか、コイツ何者?


「どうした、早く答えろ。こっちも時間が惜しいんだ」


「あ、ううんとユラせんぱ、ええ! ユラが出る幕ではないわ。私で十分かと思うのだけれど」


あぶないあぶない、思わず素が出ちゃうところだった。

女神らしく、エレガントに。身内のことはたとえ先輩でも呼び捨てって、私、女神学級で習ったんだから!


すると人間君、今度はわざとらしくため息をついて言ってきた。


「お前だと、こと足りないから言ってるんだ。そんなこともわからないなんて能無しか?」


た、たしかに女神学級ではちょっと出来ない方だったけれども! 少なくとも私は今女神になれているわけだし、能無しではっ。

って、女神を罵倒するとかコイツどういう神経しているのよ。

今、自分の状況わかってるのかしら、元の世界で死んだのよ? 次生き返れるかわからないのよ?

なんでこうも冷静でいられるわけ。


「君たち女神が勇者候補を殺したり消したり出来ないことを僕は知っている。つまり僕の転生は確定事項だ。だから、さっさとユラを出せ」


普通の人間が知らないような情報がポンポン出てくる。

ほんと何者なんだ?

私は思わず叫ぶ。


「な、なんでそんなことまで知ってるのよ!」


そんな私の問いに、彼はもう一度大きくため息をついてから言った。


「僕はこれがもう21回目の転生になるからだ」


その言葉に私の口はあんぐりと開けてしまう。

そんなに転生を繰り返した人なんて聞いたことない。

確かに転生で優秀な成績を残した人がもう一度転生をするっていうのはよくあるけど、でもそれだって2回くらいが限度のはず。

嘘を言っているとしか思えない。


「疑ってるみたいだな。僕を担当した女神を順々に言っていこうか? クリファ、サテル、マヤ、アリア……」


聞いてみるとそれは、療養が必要になったり早期退職をした女神の名前ばかりだった。

これは……信じざるを得ない、そしてこいつは女神を痛めつける諸悪の根源か!


「ねえ、あんたもしかして女神キラー?」


「キラーかどうかは知らないが、なぜだか最後には泣かれる。なんで女神である自分よりシステムや異世界に詳しいのか、とね。というか、ユラを出せっていってるだろ?」


またユラ先輩を要求されてしまう。

なんだかこの人間が怖くなった私は、本当のことを言うことにした。


「ユラ先輩は腹痛でお休みなので代わりに私が……」


「ふんっ、女神ともあろうものが体調不良とは情けない。おかげで余計な時間がかかる。勉強する時間がな!」


彼の言葉を聞いて、私はぽんって手を叩く。

あっ、そういうこと。

ユラ先輩が教え上手だったから、私じゃ異世界について学ぶ時間がかかるって心配したのか!


「それなら大丈夫! 私だって女神のはしくれ、ちゃーんとレクチャー……」


「何を言ってるんだ、勉強するのは女神、お前の方だ」


「へ?」


どこからともなく博士帽を取り出して被った彼に、私は気付くと正座させられていた。


「えっ?」


「僕の担当女神は一流でなくてはならないからな。担当者の評判が悪ければ僕の品位まで落ちる。まずは、女神学級の復習からだ。女神大原則①について、お前はどれくらい理解している——」


それはもう、永遠とも思える時間私は彼に女神とはなんたるかのレクチャーを受けた。地球と時間の流れの違うこの転生の間では本当に永遠に近い時間が経ったりするので、たぶん永遠というのは真実だ。うん。

し、死にそう……女神なのに死にそうだよ。

あまりに激しいスパルタのレクチャーが続いたために、私の頭の中は△や×が浮かんでは消えるようになっていた。

ちょっ、×はここにかぶってこないで、よく見えないでしょ。


「とまあ、僕の時間はともかく精神には限界があるからな。このくらいにしとこう」


「こ……こんなに知ってるなら私の最初の説明だって必要なかったんじゃ……」


必死に頭の周りの△や×を追い払いながら尋ねたら、不機嫌な顔になって彼は答える。


「それは最初の言葉や説明の間にツッコむと大泣きされることが多いからだ。この日を夢見てずっと準備してたのにってな。それをはじめて言われたのは4回目の転生の時だが、それ以来同じ苦情が相次いで面倒なので最初だけ聞いてやることにしている」


「はぁ……」


彼の謎の気遣いはまあ、よしとして、私の体は教育訓練(?)が終わったっぽいことに喜び打ち震えていた。

これで、私は自由だー!


「それでは、能力の付与にうつってくれ」


「へ?」


終わったと思ったら次は何?

いやよ、私、もうおべんきょできない。


「おいおい、能力の付与だよ。異世界に行く前にチートをくれるんだろ。早くくれよ」


彼に催促されて思い出す。

そうだった。

これは女神の才能と込める女神の生命エネルギー、マナによって能力が決まる、女神の力を試される一大イベント!

これでいい能力がついたら他の女神に尊敬されるのだ。


「よーし、やるぞー!」


私は魔法陣の中央で彼の頭に触れて、女神のマナを流し込む。

いけっ!

ピコンと通知音が出て、能力付与が成功したことがわかる。

玉座の横にある能力解析ツールから何が付与できたか確認する。


「お宝取得率アップと、生命エネルギー増大よ! なかなかいいものがついたんじゃないかしら」


ふふんっ、と勝ち誇ったように笑ったのもつかの間、後を追ってきた彼の質問が飛ぶ。


「レベルは?」


「い、いち……」


「話にならんな。せめてレベル3くらいじゃないと気休めにもならん」


そうして彼は先ほどの位置に戻ってピシッと背中を伸ばす。


「限界まで注げ。それがあの世界を救うことになるんだぞ」


そう言われて私はもう一度彼の頭に触れ自らのマナを注ぎ込む。

ぴこん、通知音。

確認しようとしたところを彼の声に呼び止められる。


「あー、いや、そうか。こんなものかー、これじゃ世界は救えないなぁ」


「ユラだったらあの世界を救えたのになぁ、残念だ」


「こんなんじゃ僕最初の村で死んじゃうよ、あーあ、担当女神が優秀だったらなぁ」


そうやって何度も何度もあおられ、限界まで体中のマナを彼に注ぎ込む。

ぴこん、ぴこん、ぴこん……

解析ツールは幾度となく鳴っている。

それでも彼の言葉にしたがって、マナを流し続けた私は。

倒れた。


意識を失いかけながらかろうじて頭を上げると、能力を得た彼が腕をぶんぶんと調子良さそうに振りながら、解析ツールを一人眺めている。


「まあ、ユラよりは弱いが最低限なんとかなるか。おいお前なに倒れてる情けないぞ。まあいい、時間の無駄か」


そう言って21回目の転生の彼は慣れた手つきで、転生の間の扉の一つ、『救出世界への扉』を開けた。

行ってしまったかに思えたが、ぴょこりと頭だけ出すと連絡事項だ、と伝えてきた。


「おい、次俺がまた転生なんぞしなきゃいけなくなったら、必ずユラを担当にすること。神様に伝えとけよ? 俺勇者として呼び出してるのはアイツなんだから」


そう言って、扉を閉めていなくなる。

転生の間には静けさが広がった。

っていうか、サラっと女神の間でも最重要機密である勇者選定についてあの男話してなかった? 神が選んでるとか……。


まあ、いっか。

と、機密事項のことは忘れよ、と転生の間でごろんと横になる私。


初仕事、とんでもなかった。

そりゃあんなのが相手じゃ、体調崩したり、早期退職したくなっちゃうよね。

てか、ユラ先輩、毎回こんなのの転生担当していたの?

そりゃ、お腹痛くなるだけで済んでるの奇跡だよ! 神に愛されてるのかもね。

女神のマナ+精神力を根こそぎ持っていかれた私はしばらく転生の間で時間を過ごしたとさ。

おしまい!


これが私の初仕事のちょー大変だった記録でしたっ!

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