第2話LOVE LOVE! LOVE?

「先輩のこと、好きなんですよ!」

涙目の女の子が唐突に言い出した。


…好きだってさ。

嬉しいこと言ってくれるねぇ。

後輩に愛されるなんて幸せだね。

えっと、確か、吉原さん…だったっけな?

1年生の子だよな。

でも確か歳はハタチ。なんだっけな?

正直、よく覚えていない。

4年生と1年生の関係とはそんなものだ。


 一応、このサークル的には3年生で引退。

ということになっている。

だがしかし、沙織を始めとした連中は、4年生になってもちょいちょい顔を出していた。

軽音楽サークルの居心地の良さ、バンドの楽しさにどっぷりつかり、就活が終わるとすぐに部室に入り浸っていた。

そんなこんなで、一応彼女とは面識はある。

部室で鉢合わせた時に、初心者の彼女に簡単なレクチャーをしたことがあったはず。

ただ、それぐらいの関係だった。

そんな彼女の言うとは、先輩として好きだということだろう。


 かく言う私も、大学でベースを始めた口だ。

暇つぶしに沙織と一緒に興味本位で部室を覗いたのが全ての始まり。

時の部長の口車に乗せられ、まんまと入部してしまった。

「君は背が高いからベースが似合う!」

なんて唆されて、自分の意思が無いままに始めたベース。

それが、沙織と同じバンドで4年間ワイワイ続けてしまったんだから、人生って面白い。

音楽センスが無い自覚があった私の特技は、”とにかく楽しく演奏すること”だった。


少々の失敗はスルーして、飛んで跳ねてはじける!


それが私のポリシーだった。

見る方に楽しさが伝われば良い。そんなスタイルが、吉原さんに伝わったんだろう。

それが嬉しかった。酔った身体に染み渡る。

「えー、好きなのー?」

「もー、泣かないの。」

悦に浸った私は、吉原さんの頭をなでなでした。

上機嫌な女は、すっかり調子に乗ってしまっていた。

その結果、あんなことになるとは…

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

スケアクロウに憧れて ごぼうのobjet @riverfield0848

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ