21回目に君を思い出す

うめもも さくら

君に伝えたかった言葉

1回目

「それじゃあいってきます!」

あぁ……あの日の俺は「いってらっしゃい」と言わなかったな。

2回目

「ごちそうさま!はぁ、今回は美味おいしくできてよかった!」

あぁ、あの日の俺は「ごちそうさま」なんて言わなかったな。

作ってくれた料理をただ黙々と食べていただけで。

3回目

「今日は初めてこの料理作ってみたの!美味しくできるといいんだけど……」

あの日の俺は「うまい」とは言わなかった。

実際、あんまり美味しくなかった。

口が嫌がるご飯をただ口に運ぶことに集中してた。

4回目

「人の手料理って、なんかあたたかいと思わない?

私ね、料理は得意なの。ほら、めしあがれ!」

あの日だって「いただきます」とも言わないで黙って箸をとって食い始めたんだ。

初めて食べた手料理は不格好だったけれどなんかあたたかかった。

箸を止めることなく次々と運ばれていく料理はすぐに消えてった。

5回目

「離れたくない……行かないで……話をしたいの」

珍しく悲しそうな顔で手を引かれた。

すごく冷たく静かな空気だったのに触れている肌はあたたかかった。

熱いくらいのその熱にのぼせたみたいであの時はなんて答えたのかもなんの話をされたのかも忘れてしまった。

10回目

流行りの恋愛映画を見て二人で泣いたっけ。

俺は泣き顔を見せたくなくて仏頂面ぶっちょうづらしたままそっぽ向いて歩いた。

不意に後ろからつつかれて振り向けば、俺より先に泣き止んでて笑っててまた映画に行こうねって言われたんだ。

その後に見に行ったのは、めいっぱい笑えるやつにしたんだ。

あれ?

君はどんな声をしていたっけ?

15回目

まだ朝も早くて、俺たちの他には誰もいない海だった。

二人で波で足を濡らしながら楽しそうに微笑わらう。

子供のように駆け寄ってくる君を抱き上げた。

あれ?

君の重さはどのくらいだった?

20回目

ずっとひとりだった。

ずっと寂しかった。

全部がどうでもよかった。

君に出逢うまでは。

あれ?君との出会い方はどんなだったっけ?

あれ?君は何をしていたっけ?

あれ?君は何が好きだった?

君をなんて呼んでいた?

君はどんな顔でどんな声でどんな香りでどんな風に笑ってた?

俺は君とどう生きてきたんだ?

忘れちゃいけないのに何も思い出せない。

思い出したいのに何も思い浮かばない。

忘れたくないのに何もない。

俺は君に何か言いたかったんだ。

俺は君に何て言いたかったんだ……。

「あ……ぁ……」


「──っ!!」

大きな声で叫ぶ人たちがいる。

慌ただしく走る足音がする。

誰かが近づいてくる。

ふんわりと優しい香りがした。


21回目

「あ……あぁ……」

君だ。

あの日映画を見た日に見た君の泣き顔だ。

君が横たわっている俺に抱きついて泣いている。

あの日海で抱き上げた時の重さを感じた。

頬に触れる涙はあの日、君に触れられた手の熱と同じ温度だった。

どれだけ眠っていたんだろうか。

上手く今の状況をのみこめてない。

ただたくさん夢を見てたくさん後悔をしてたくさん君に逢いたかった気がする。

だんだん記憶がさかのぼっていってだんだん声も思い出せなくなっていってだんだん何もわからなくなっていった。

けど最後は真っ暗になる前に君の姿が見えた気がしたんだ。

あれは走馬灯そうまとうってやつだったのかな。

ゆっくりと鮮明に急速に見ていた夢が現実に戻ってくる。

「あの……ね……よかっ……た……」

夢の中でだんだん思い出せなくなっていった君の声が聞こえて君の体温を感じて君の笑顔を見て俺はずっと言いたかった言葉を思い出したんだ。

「いってらっしゃい」も「ごちそうさま」も「うまい」も「いただきます」も「そばにいたい」もたくさん言いたかったけれど。

今なによりも言いたいのは

「……あ……」

ありがとう。

「愛している……」

突然の愛の告白に君は目をまたたかせて、顔を赤く染めて涙を零しながら、微笑った。

「知ってる……ずっと前から……知ってるよ」

君の顔に手を添えて零れ落ちてくる涙をそっと拭った。

俺の話下手は変わらないかもしれないけれど、すぐには変われないかもしれないけれどきっと俺たちにはこれからがまだあって、それは奇跡みたいなことなんだ。

どれだけ俺が変わっても季節が変わっても時代が変わっても今日伝えたこの言葉と君を想うこの気持ちだけは変わらない。

21回目に君を思い出して、やっと伝えられた恥ずかしくなるくらい必死な愛の告白はもうずっと前から知られていたらしい。

ずっと前から知っていたと言う彼女は涙を零しながら嬉しそうに微笑った。


「思い出してもらえてよかったね」

君の横に昔のままの君が立つ。

君がふたりいて驚いたけれどこれも夢だと思った。

まだ夢の続きを見ているんだ。

現実は夢より眩しくてあたたかかった。

昔のままの君が君に笑いかけた。

「おばあちゃん!」

「本当……目を覚ましてくれて、もう一度笑ってくれて……いつか名前で読んでもらおうかしら?昔みたいに」

幸せそうに微笑う君の横顔にまた恋をしながら君をみつめていた。
























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