最終話 一番大事なもの

 【天聖剣】を手に取り、俺はそれを【倉庫】に入れる。

 強そうな武器だし、迷惑料として貰っておくとしよう。


「じゃあ今日はもう帰るよ」

「あの……また明日来てくれますか?」

「どうだろう……」


 俺は聖堂を見渡し、そして壁に突き刺さっているケイロスバーン王を見る。


「ちょっともうケイロスバーンには来れないような気がする」

「気がするじゃねえ。もう来れねえよ」

「だよな」


 俺は苦笑いしリーシャを見つめる。


「悪いけど、もうここに来ることは無いよ」

「そうですか……」

「……でも、またこの世界には来る。森の奥にある小屋で待っていてくれたらまた会えるよ」

「……待っています。また明日も待っていますから」

「ああ」

「おい。後こいつらにオレたちの世界に来るなって言っとけ。来たら容赦はしねえ。その時はレオにマジで殺させるからな」

「え? 俺が殺すの?」


 真剣な表情でゴンは釘を刺しているが、リーシャは俺を見つめたま。

 話を聞いているのか聞いていないのか判断がつかない。

 だけど大丈夫だろう。

 こいつらが俺たちの世界に来ることはない。

 勇者として以前ほど機能しなくなったガーウィン。

 相手は俺とゴンだ。

 どう考えても勝てないと考えているだろう。


「じゃあ、帰るか」

「おう」


 【帰宅】のスキルを発動し、ゴンと共に生まれた光の中へと入っていく。


「…………」


 ついたのは自室。

 俺はゴンと共にベッドに座り込む。


「何か疲れたな……もうこのまま寝たい気分だよ」

「駄目だろ」

「え? 何でだよ?」

「飯がまだだ」

「…………」


 俺は真っ暗な外を眺め、時間を確認する。

 時刻は6時を過ぎたぐらいで、確かに晩御飯がまだのようだ。

 ってか、こいつはブレないなぁ。


「ってかさお前、あのお姫様とくっつくつもりか?」

「え? そんなつもりはないけど」

「そっか」


 なんだか心なしか、ゴンがホッとしているような気がする。

 俺はニヤッと笑い、ゴンに言う。


「何だよ、安心したのか?」

「まあな」

「ストレート! まさかそんな反応返ってくるなんて思ってもみなかったよ」


 ゴンは真顔のままで横になる。


「オレ、恋愛感情とかそういうのはよく分かんねえけどさ、レオとはずっと一緒にいたいと思ってるぜ」

「ま、まぁ、それは俺もそうだけど……」


 俺もゴンに対して恋愛感情を抱いてはいない。

 だってドキドキしないし、いつだっていつも通りだもの。

 こいつと恋愛をする自分なんて想像もできない。


 でも、ほんの少し離れれていただけで寂しかった。

 それは俺の本音。

 一緒にいるのが当たり前すぎて分からなかったけど、一緒にいてくれたらやっぱり嬉しい。


「……でもさ、オレの母ちゃんが言ってたんだよ。一緒にいてドキドキする相手も大事かも知れないけど、一緒にいて落ち着く相手はもっと大事だって」

「ふーん」


 ゴンは特に顔を赤くすることも照れることもなく俺を見上げる。


「レオと一緒にいたら落ち着くんだよ。オレは世間一般的な恋愛感情なんてものは抱くことはないけど、お前とはずっと一緒にいたい」

「……俺もそうだよ」

「…………」


 じーっと俺を見つめるゴン。

 やはりドキドキなどしない。

 落ち着く。ゴンといるとただただ落ち着く。

 ときめきはしないが、心の平穏と静けさが訪れる。


「俺もずっと一緒にいたいと思う……なんかそんな風に考えてたらお前とは一生一緒にいそうな気がしてきた」

「オレもそう思うよ。多分、オレはお前と結婚してずっと一緒にいるんだろうなって考えてる」


 同感……

 その言葉しか頭に浮かばなかった。

 俺は多分、これからもゴンとずっと一緒にいるんだ。

 魂が惹かれ合うというか……一緒にいるのが当たり前のような感覚。

 まるで運命の相手だ。


 俺はゴン相手に恋焦がれるようなこともないし、のめり込んだりするようなこともないだろう。

 だけどゴンの言う通り、一緒にいて落ち着くんだ。

 これ以上大事なことはないんだと思う。

 素直に俺はそう感じる。


「恋愛にしても人生にしても人それぞれ。オレたちはこんな感じでいいだろ」

「だな。俺もなんかそれでいいような気がしてきた」


 俺はゴンの手を握りしめる。

 ゴンは抵抗することなく、逆に俺の手を握り返して来た。


「…………」


 そのまま自然な流れでゴンとキスをした。

 ゴンは黙って俺のキスを受け入れ、目を閉じている。


「…………」

 

 目を開け、お互いに見つめ合う。


「……やっぱときめかねえな」

「女の口からそんなこと聞きたくはないな……」


 ちなみに初めてのキスは鶏肉の味がした。

 こいつ、異世界で鶏肉食ってたもんな……

 なんか微妙な思い出になってしまいそうだ。

 

「でも、幸せだとは思う」

「だな」


 ゴンは可愛げのない笑みをこぼす。


「こんな気分はお前以外とじゃ味わえないんだろうな。お前とはキスするのも嫌じゃねえし」

「裸も抵抗なかったからな」

「だから言ってるだろ? レオ相手なら見られても平気だって」


 少しばかり恥じらいは持ってほしいものだが……それもまぁゴンらしいっちゃゴンらしいか。

 そうだよな。

 俺たちは俺たちらしく行けばいいんだ。

 他の誰かの真似じゃなく。

 世界に満ち溢れた当たり前じゃなく。

 俺たちらしい、俺たち同士であり続ければいいんだ。


「それで、これからどうする? ケイロスバーンには行けないけどさ」

「うーん、そうだな……向こうの世界で冒険も続けたいし、武活動大会の地区予選も興味ある」

「オレもだ。向こうでもっとモンスター食いたい」

「お前はそればっかだな」


 俺は呆れながら、ゴンの顔を見る。

 そこはかとなくもう一度キスがしたくなり、ゴンに顔を近づけた。

 彼女も同じ気持ちなのか、目を閉じる。


「玲央ー、帰ってるの!? ご飯よ! 愛ちゃんもいるなら下りてらっしゃい!」

「はーい」

「いてっ!」


 ゴンが勢いよく起き上がり、頭同士がぶつかり合う。

 俺は痛みに頭を押さえるが、ゴンは気にせず部屋を出ようとする。


「ほれ。飯行くぞ」

「……お前は食事が一番大事なんだな」

「アホか」

「誰がアホだ誰が」

「お前だよ、お前。一番大事なのはレオだよ」

「……そうか。俺もお前が一番大事だよ」

「おう。ほら。早く行くぞ」


 俺はやれやれとベッドから起き上がり、ゴンと共に部屋を出る。


 ああ。 

 俺たちはきっと、こんな調子でずっと一緒にいるんだろうな。


 やんわりとした幸せな気分と込み上げてくる笑み。

 俺は笑いをかみ殺しながら自室の扉を閉めた。


 おわり

 

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 最後までお付き合いいただきましてありがとうございます!


 レオとゴンの物語はどうでしたでしょうか?


 いきなり終わったと感じる方もいるかもしれませんが……最初からここまでを想定しておりました。

 また彼らの物語が降りてきたら、書くかもしれませんが、とりあえずはこれにて完結です。


 こんな物語でしたが、皆さんに楽しんでいただけていたらな……と思います。

 それでは本当に、ありがとうございました!


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外れスキル【帰宅】は役立たずだとばかり思っていた。そう絶望していたのだがこのスキルはどうやら異世界を行き来できる能力だったようで、俺はその世界で最強になり現実世界で無双する 大田 明 @224224ta

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