泥酔している幼馴染が数十秒おきに「エッチしよ?」と言って来るんだが、俺はどうしたらいいんだ?

真木ハヌイ

酒とギャルと陰キャとイチャイチャ

 誕生日というものは世間一般ではお祝いしなくちゃいけないものらしい。


 まあ、あくまで世間一般の話だ。ぼっちのプロの俺には関係ない。今日でちょうど二十一歳になった俺だが、お友達と楽しく誕生日会なんてやったことは今まで一度もない。むしろそういうことするパリピって本当にいるの?都市伝説じゃない?と、軽く思ってるくらいだ。


 そう、たとえ今日が誕生日だろうと、俺はいつも通り、ソロプレイで大学と家を一往復して過ごすだけだった。時折登録しているサイトから「お誕生日おめでとうメール」が来るが、変化はそれだけだ。


 だが、その夜、そんな俺の家に突然一人の女がやってきた。


「誕生日おめでとー、ヒロト!」


 そう言って俺にケーキが入っている箱を差し出してきたのは、俺の幼馴染の女、クミだった。歳も俺と同じ二十一で、高校までは一緒の学校だったので何かと顔を合わせたが、それぞれ違う大学に入ってからは疎遠になっていた相手だった。


「なんだ、お前? こんな夜遅くに?」


 そう、すでに時刻は夜十一時を過ぎていた。


 しかも、クミの顔はよく見ると赤い。どうやら酔っぱらっているようだ。どこかの店で酒を飲んできた帰りだろうか。


「なによー、その態度? どうせ誕生日でも一人でさみしく過ごしてるんだろうと思って、私がお祝いに来てやったんじゃないの」


 クミはむっとした顔で俺をにらんだ。世間的にはクミはかなりの美人に入るんだろう。いわゆるギャル系の外見で、長い髪を茶色く染めていて、ピアスやマニキュアなんかもしている。今はタートルネックのニットのセーターに、ホットパンツという格好だ。タイツは履いておらず、生足だ。


「お前、よくそんな服装で出歩けるよな」


 今何時だと思ってるんだ、この酔っ払いめ。


「うん、生足だとさすがにちょっと寒かった。ヒロト、あっためて」


 と、玄関先でいきなり俺にもたれかかってくるクミだった。酒くさいな、おい。


「とりあえず、今は水でも飲んで落ち着け。後で俺が家に送るから」

「え、泊めてくれないの? なんでー?」

「うち、予備のふとんねえし」

「ヒロトと一緒のおふとん使えばいいでしょ?」

「やだよ、酒くさいし」

「あ、なーんか今、やらしーこと考えたでしょ、ヒロト?」

「なんで今の話の流れでそうなるんだよ!」

「私、ヒロトなら別にいいよ?」

「何が?」

「エッチ」

「え……」

「いいじゃん、今日ヒロトの誕生日だし、一緒にしちゃおうよ。お祝いエッチ」

「バ、バカなこと言ってんじゃねえよ! 早く酔いを覚まして帰れよ!」


 俺はすばやくその酔っぱらいを台所に運び、コップに水を注いで飲ませた。


 しかし、水を飲んだだけで酔いがさめるわけはなく、


「ねえ、ヒロト。エッチしよ?」


 と、言って、やたらと俺に絡んでくるのだった。


 くそう、どうしよう、この酔っぱらい。


 俺はそんなクミの態度にドギマギせずにはいられなかった。ぼっち街道を突き進んでいる俺には、自慢じゃないが彼女なんか一度もできたことがないんだ。童貞なんだ。


 それに、クミは外見こそちょっとチャラいけど、美人なんだ。幼馴染の腐れ縁とはいえ、俺だってそのう、まんざらじゃない感じの異性なんだ。酒が入ってない状態でこんなことを言われたら、即お願いしますと答えてしまうだろう。


 しかし、やはり今はダメだ。こんなに酔っぱらって、頭がパーになっている状態の女とヤるのはさすがによくない……よくないよなあ?


「ねえ、ヒロトってば私のこときらい? だからエッチしないの?」

「べ、別にお前のことは嫌いとかじゃねえけど、お前今酔ってるし、そ、その状態でエッチは健康によくねえだろ?」

「あっはー。健康とかバカみたいー。うっけるー」


 クミは空のコップをテーブルに叩きつけながら、げらげら笑った。


「心配ないよぉ。私、超健康だもん。見て見て」


 と、クミはそこで何を思ったのか、すっと立ち上がり、上に着ていたセーターを脱いでしまった!


「お、おい、お前何やって――」


 俺氏、童貞なのでこういうときどんな顔をすればいいかわからないの。クミのやつ、一瞬でホットパンツとブラジャー(ピンク)という格好になってしまったし。スレンダー体型だが、意外とおっぱいでかいし。Cはありそうだし。


「見て、ヒロト。私の肌ピッチピチでしょ? 超健康でしょー?」


 クミはそのまま、再び俺にもたれかかってきた。うわ、Cカップおっぱいが俺の胸にあたる! おっぱいが!


「ね、だからしよ、エッチ?」

「い、いや、お前はともかく俺はそういうことはあまり得意ではないので、きっとお前様のご期待には沿えないと思いますよ?」


 なんかもう胸がどきどきして謎敬語になってしまう。はよ服着ろ。


「エッチが得意じゃない? あ、もしかしてヒロトってまだ童貞?」

「そ、そうですが、何か! 何か!」


 童貞なめてんじゃねえぞ、この遊び人のギャルめ!


 と、俺が目の前のリア充を威嚇していると、


「そっかあ、実は私もまだ誰ともエッチしたことないんだよねー。同じー」


 などと意味不明なことを言っており……って、えええっ!


「お、おま、そんなチャラい格好してて、まだヤったことないって、どういう人生設計で生きてるんだよ?」

「えー、見た目とエッチの経験は関係ないよー」

「た、確かに」


 酔っぱらいに論破されてしまったでござる。


「だからさー、お互い初めて同士ならちょうどいいじゃん? ね、エッチしよ?」

「は、初めて同士なら、お互いもっと相手を選んでだな――」

「選んでるよぉ」

「え?」

「私、ヒロトのこと大好きだもん」


 と、さらに俺におっぱいを押し付けながら、うっとりとした赤ら顔で言うクミだった。


 こ、こいつの今のこの顔……俺に告白しているから赤くなってるのか? 酒のせいなのか? 俺はますます混乱してしまった。今日で二十一回目の誕生日を迎える俺だが、こんな経験は生まれて初めてだったし。


「ヒロトは私のこと、好き?」

「え、まあ……どちらかというと」

「好き?」

「あ、はい……」

「わーい、よかった! 私たち両想いじゃん! エッチしよ?」

「い、いや、今はしないから!」

「じゃあ、後で?」

「そ、そうだな……」

「約束よお……えへへ」


 と、幸せそうな顔でそう言いながら、やがてすぐにクミは俺の胸の中で寝てしまった。やっぱりめちゃくちゃ飲んでいたらしい。


 こいつ、朝になって、今言ったこと覚えているかなあ?


 その寝顔を見ながら、心配なような、そうでないような、もやもやした気持ちでいっぱいになる俺だった。

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泥酔している幼馴染が数十秒おきに「エッチしよ?」と言って来るんだが、俺はどうしたらいいんだ? 真木ハヌイ @magihanui2020

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