押し入れの中のマアチ

忍野木しか

押し入れの中のマアチ


 押し入れの中のマアチ。

 お顔が大きい。手足は小さい。

 お人形さんのような黒髪。おでこでぴっと揃えてある。

 押し入れの中のマアチ。

 スイカの様な、まんまるおめめ。

 夜は歌を歌って、朝は襖からこちらを見てる。

 母は居なかった。マアチはずっとそばにいた。

 ランドセルを背負って玄関に行くと、廊下に頭を半分出して僕を見つめる。

 夜更かしすると、マアチのおっきなおめめはつり上がった。

 押し入れの中のマアチ。

 お口が小さい。お化粧は苦手。

 炭のような黒い歯。まんまる眉毛は桜の形。

 押し入れの中のマアチ。

 虫の巣の様な、凹んだおはな。

 昼は涙を流して、夕は襖の奥で横になる。

 父が死んだ。マーチは目から血を流した。

 居場所が無くなった。マアチはずっとそばにいた。

 お縄を背負ってお山に行くと、木陰に顔を半分隠して僕を見つめる。

 木にぶら下がると、マアチのおっきなおめめは赤くなった。

 押し入れの中のマアチ。

 もう、歌うのはやめて。

 押し入れの中のマアチ。

 部屋の隅に僕が居て、押し入れの中にはマアチがいる。

 

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