二十一回目は楽しみにしてる。

夕藤さわな

第1話

「……よ」


 久々に会った翔太はスーツ姿。


「……よ」


 そう返した私は晴れ着姿。

 中学の卒業式に別れて以来、一度も会っていなかった元カレと再会したのは成人式の会場でのことだった。


 野球部で丸坊主だったヤツが、なんでシュッとしたモデルみたいな感じになってんの!? と、最初は動揺したけど――。


「え、翔太が大学生……? そんな頭の悪いやつばっか集めた大学が日本に存在するの……? うそ、やだ……怖い」

「てめえ……俺が高校時代にどれだけ努力したかも知らないで!」

「ナマケモノに謝れってくらいに怠け者だった翔太が、ど、努力……? うそ、やだ……怖い」

「だから、てめえ……!」


 ふたを開けてみれば、やっぱり翔太は翔太だった。

 ぎこちなかったやりとりも、三十分もしないうちに元通り。付き合っていた頃と変わらない、口喧嘩のようなやりとりになっていた。

 居酒屋に集まった同級生たちが、呆れ顔で見守っているのにも全然、気が付かなかった。


 ***


 翔太と別れたのは高校受験が原因。

 同じ高校は難しいけど、せめて近い高校に行こうねと約束していたのに。勉強が苦手な翔太は公立に落ちて、私立に行くことになった。

 私が通う高校から、とても遠い私立の高校に――。


 落ちて悔しいのは翔太なのに、私は翔太を責めて、そのまま別れてしまった。


 ***


「あのときは、ごめん……」


 みんなと別れて、翔太に家まで送ってもらいながら、私は夜空を見上げた。首に巻いた白いもこもこのショールの毛が頬にあたってくすぐったい。


 成人式は二十歳になって、一応は大人の仲間入りをしたことを祝う行事だ。

 一応と、付けてしまいたくなるくらい。大人になった実感なんて少しもなかったけど……昔と比べたら少しは成長したらしい。


 翔太はちらっと私の顔を見たあと、


「いや、俺の方こそ……」


 照れ笑いを浮かべてぽりぽりと頬を掻いた。


「受験勉強、そこそこ頑張ったつもりだったんだけど。思っていたよりも頭が悪かった……って、言うか。周りも俺と同じか、それ以上に頑張ってるってのがあの頃はわかってなかったんだよな」


 翔太は空を見上げると、はーっとため息なのか、なんなのか。白い息を吐き出した。


「だから、高校時代は頑張ったんだ。後悔しないように」


 後悔してくれてたんだ。

 不覚にも嬉しくなって、ふわふわのショールを口元に引き寄せた。


「四月になったら二十一だよな、お前」

「五月になったら翔太もでしょ」


 誕生日を覚えていてくれたらしいことが嬉しくて、私はますます深くショールに口元を埋めた。


「記念すべき二十回目の誕生日は祝えなかったけど、二十一回目とそれ以降の誕生日はずっと……と、いうのはいかがでしょう」

「いかかでしょうって、なんだそれ」


 苦笑いしていると、隣を歩いていたはずの翔太がいなくなっていた。慌てて振り返ると、翔太は足を止めて、真っ直ぐに私を見つめていた。


「十六回目も、十七回目も、十八回目も、十九回目も……二十回目の誕生日も。俺はバースデーメッセージを打つだけ打って送れなかった腰抜けです。でも……」


 笑っている場合ではなさそうだと思い直して、私は慌てて背筋を伸ばした。


「二十一回目のバースデーメッセージは胸を張って送りたいです。……戸田 美咲さん。もう一度、俺と付き合ってくれませんか!」


 翔太は勢いよく頭を下げたかと思うと、やっぱり勢いよく顔をあげて。ビシッ! と、私の前に手を差し出した。


 外見は大人びて、垢抜けて、ずいぶんとかっこよくなったのに。

 告白の仕方は中学二年のときと変わらない。子供っぽくて、垢抜けなくて、ちょっと……言うと怒られそうだけど、かっこわるい。


 でも、変わってないという安堵感に胸がふわっと温かくなった。


「いや、十六回目の誕生日の時点で送って来いよ」


 バシッ! と、翔太の手のひらに自分の手のひらを叩きつけて、


「二十一回目の誕生日は楽しみにしてる」


 私は翔太の首にしがみついた。

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二十一回目は楽しみにしてる。 夕藤さわな @sawana

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