経験者は語る

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僕には日課がある。

別に大したことじゃない。その日に自分がしたこと、経験したことを書き、ネットにあげるのだ。

ただのブログと言ってしまえばそうなのだが、僕にとってこれはもはや人生の一部と言っていい。

　日記はあくまで自分のために書くものであり、他人に見せるものではない。ましてやネット上に公開して、不特定多数の人に見られるなど考えられない。こういった考えの人もいるだろう。

　しかし、僕の考えは違う。

　自分の経験したことを日記に書き、引き出しにしまっておく。それでは自己完結するだけにすぎない。記録と同じだ。自分が何をして、何を感じたのか、その経験や、考えを誰かと共有してこそ日記をつける意味があると僕は考えている。

　だから今日も僕は、僕がしてきたこと、感じたことを書き綴り、ネットにあげている。

そうはいってもこんな個人のブログ最初は誰も読みすらしなかった。閲覧数がゼロの日がしばらく続いていた。しかし、継続は力なり、というのは本当のようで書き続けていると、僕のような個人のブログでも少しではあるが、閲覧数が増えてきた。

　中にはコメントを残してくれる人もいる。“A太郎”というハンドルネームの人が特にコメントをマメに残してくれている。

　以前、もうブログをやめようとおもったことがある。その時にA太郎とこんなやりとりをしたことがあった。

「A太郎さん、いつもコメントありがとうございます。」

「いつもブログおもしろく読ませてもらっています!!次の投稿も楽しみです！」

「そのことなんですが・・・実はこのブログもそろそろやめようかな、と考えています」

「え！？なぜですか！？」

「僕のブログを応援してくれている人には本当に感謝しています。特にA太郎さんは毎回丁寧なコメントをくれて、それが僕としてもとても書く励みになっています。

しかし、もうそれも潮時かな、と思うことが最近増えてきました。もうブログはここいらでやめて、自分の人生、本業の方に集中するべきではないかと考えているんです」

「たしかに日々のブログの更新なんて自分の人生において、やってもやらなくてもどちらでもいいことかもしれません。しかし私はあなたのブログを読んで、感動したり、共感したりといった感情を揺さぶられるようなことを読んでいて何度も感じました。

あなたの経験したことをブログを通して私も経験できたような気がしたんです。

こんな素晴らしい経験は初めてです。本当に感動しました。

一読者のわがままだということは分かっていますが、でもやめないでください！

あなたの経験したこと、それが書かれることを心待ちにしている私のような人だっているんですから！」

　僕はこのコメントを読んでとても感動した。自分が今までしてきたことが全て報われた気がしたし、やめようかな、といった迷いも吹き飛んだ気がした。

　僕の書く物には読んでくれる人がいてA太郎さんのように心待ちにしてくれる人だっている。彼のような人は僕にとってかけがえのない仲間だ。

　世界中でたった一人でも自分を応援してくれる仲間がいれば書き続けられる気がする。

僕はそう感じながらこれからも日々経験したこと、感じたことをブログに書き続けていこうと心に決めた。

　警視庁サイバー犯罪対策課にて

二人の刑事が一台のPCを前にして話し込んでいる。

「例のブログの奴はどうだ、進展あったか？」

「はい、過去から現在までのブログを全て見直したところです。やはり間違いありませんね。こいつが犯人です」

「やっぱりそうか。最初見つけたとき、おかしいと思ったんだよな。犯人しか知り得ないような情報を書いていたから」

「ええ、それにしてもこいつもイかれてますね。自分がやった犯罪に関する情報をわざわざネット上で書き綴るなんて」

「さすがに直接的な表現は避けているがな。自己顕示欲の旺盛な犯罪者も多い、こいつもその手の奴さ。自分の犯罪に関することを日記のように書いてネット上に公開するなんてまともじゃない」

携帯の着信が鳴り、一人が話し始めた。しばらく話して切ると

「現場周辺から遺体も発見されたってよ」

「決定的ですね、これでようやく逮捕できます。余罪も多そうですしね」

「しかし、犯人が自己顕示欲の強い人間だとしても、よく情報を引き出せたな。

このA太郎ってのがお前が使っていたハンドルネームだろ？」

「ええ、それでも少し手間取りましたよ。途中犯人がブログをやめそうにもなったんですが、決定的な証拠が出るまで続けさせなければと思い、なんとかなだめすかして続けさせましたよ。豚もおだてりゃ～ってやつですね」