天使の墓場 Angel Cemetery
RAY
天使の墓場 Angel Cemetery
★
「ザック、下層に行くなんて気は確かか!? ケガでもしたら治せる奴はいないんだぜ!」
重厚な
ザックは前を向いたまま、大丈夫だと言わんばかりに右手の親指をグッと立てる。
「ザックくん、横穴から別の
ブロンドの髪をなびかせてパーティの最後尾を追走する魔法使い・レベッカが、迫りくる
「階段を降りたところが最下層です! そこへたどり着けば秘宝が手に入ります! もうひと踏ん張りです!」
ザックはイスカンダルとレベッカを鼓舞するように叫ぶと、赤色の握りこぶし大の球体「
「見えました! 一気に階段を下ります!」
ザックの言葉が合図であるかのように、四人は最下層へ続く階段を駆け下りていった。
★★
ザックは上級盗賊のクラスに属する冒険者。弱冠十九歳ながらパーティのリーダーを務め、これまで二十の
ザックのパーティメンバーは全部で四人。怪力自慢で卓越した剣技の持ち主イスカンダル。炎・雷・水を応用した、強力な攻撃魔法を得意とするレベッカ。メンバーの治癒に加え人ならざる者の浄化に長けたクルーズ――三人とも上級クラスに属する
今回ザックたちが挑んだのは、東の果ての山岳地帯にある第二十一
一つは、古い文献から、最下層には「
もう一つは、わずかな帰還者の話から、
そんな話を聞くと、
この
ザックは
しかし、思わぬところで誤算が生じた。
十九階層に到達したとき、
そこにドラゴンが生息しているといった情報はなかった。当然炎の息の対策もしていない。その結果、
もし意図的に二人を狙ったとしたら、敵は一介の
ドラゴンが倒れた瞬間、それがわかっていたかのように
「僕のスキル
ザックが手に持った
「あの階段を下りましょう。イスカンダルはクルーズのことをお願いします。レベッカは炎魔法を使ってできるだけ
「おい、ちょっと待て!」
「ザックくん、置いていかないでよ!」
ザックが階段の方へ向かって走り出すと、二人が慌てた様子で後を追った。
★★★
最下層へ降りると、そこは十九階層以上に暗かった。
「よく見えませんね。マジックアイテムがあと一つ残っているので使います」
ザックは上着のポケットから取り出した
「あっ、あれは何かしら?」
二十階層のフロアに光が溢れた瞬間、レベッカが大きな目を細めてフロアの隅を指差した。間髪を容れず、他の二人の視線が指先の方を向く。
天井が高く、直径が三十メートルほどある、
「別の
「よっしゃ! そうと決まれば、一刻も早くお宝をゲットしようぜ!」
「
イスカンダルが石板の方へ歩を踏み出し、レベッカがその後を追おうとした、そのときだった。
コロシアムの周囲の壁にある、複数の横穴から四人の周りを囲むように何かが現れる。それは、おびただしい数の
「ドラゴンゾンビだと!? あいつは猛毒を吐く! あれを喰らったら即死間違いなしだぜ!」
「クルーズならあんなの一発なのにぃ~! あたしの炎もあいつにはあまり効かないのよ!」
「急ぎましょう! あれが攻撃してくる前に
三人は顔を見合わせて小さく頷くと、石板の方へと掛けて行く。
すると、その行動を阻止するように、
「ザック、急げ! 俺たちが時間を稼ぐ!」
「ザックくん、帰ったら大きなパフェご馳走してね!」
イスカンダルは、肩に担いでいたクルーズを石板の脇に寝かせると、身長ほどある大きな剣を振り回す。突風を
負けじとレベッカは真剣な眼差しで呪文を唱える。瞳が真っ赤に染まった瞬間、杖の先から無数の火の玉が飛び出し敵の頭上に降り注ぐ。
そんな二人を尻目に、ザックは石板の根元を調べる。
すると、予想通り、そこには大理石の引き出しがあった。呪文が書かれた呪符が貼られ、電気がショートするようにパチパチと小さな火花が散っている。
「ビンゴですね。では、僕のスキルで開けさせてもらいます」
ザックはニヤリと笑うと、息を吐き出すように短い言葉を口にする。
「
その瞬間、貼られた呪符が消し飛び、引き出しが音もなく開く。中には、手のひらに乗るくらいの三角形の石板が入っている。
「イスカンダル! レベッカ! 秘宝をゲットしました! すぐにこちらに来てください!」
「ザック、でかした!」
「良かった~! もう魔力ほとんど残ってないよ!」
二人は疲れた様子でザックの元へ走り寄る。どちらも限界が近づいているようだ。
不意にザックの顔が曇る。目を丸くして手のひらの石板をジッと見つめている。
「どうした、ザック?」
「ザックくん?」
心配そうに見つめる二人に、ザックは息を吸ったり吐いたりを繰り返す。
「これ……銀色ですよね?」
唐突な質問だった。ザックの言葉からは「否定して欲しい」という気持ちがひしひしと感じられる。ただ、それは誰がどう見ても銀色だった。
「確かに銀色だが、お宝に変わりはないんだろ?」
イスカンダルが力強く答える。その横では、レベッカが心配そうにうんうんと何度も首を縦に振る。
「秘宝には変わりありません。でも、少し違います。これは
「だから、何だよ!? わかるように説明しろ! 敵がそこまで来てるんだぞ!」
「そうだよ! 何が言いたいの、ザックくん!?」
声を荒らげるイスカンダルとレベッカに、ザックはポツリと言った。
「金なら一枚ですが、銀なら五枚を合成する必要があります。これまで
おしまい
天使の墓場 Angel Cemetery RAY @MIDNIGHT_RAY
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