もしキャラクターが読者の存在に気付いてしまったら?

夜野 舞斗

ねえ、見てるんでしょ? 読者のせいだよ。

「ど、どういうことだよ……僕達の運命はもう決まってるってわけ!? 読者という神様もいたってことかよ!? ってか、この冒頭小説の始まりなのにいいのかっ!?」


 ラブコメくんが得意のツッコミも交えて、大いに騒いでいる。無理もない。彼は自分がラブコメライトノベルの一部だと言うことに気付いてしまったのだから。

 今まで積み上げてきた恋もこれからのことも予想されていること。予想されていなくとも、読者が望む方向へと辛い道を歩かされることになるのだ。

 叫ばない方が違和感。そう思える程の絶望がラブコメくんを襲う。頭を抑えるラブコメくんの肩にミステリーの主人公である推理くんが手を置いた。

 慰めるためではない。


「君はまだマシだろう。作者の都合で旅行に行く度、死体に出くわすんだぜ! こうなりゃ、もう推理間違えて有給休暇もらおーって思っても、読者というのが許さないらしい。アイツら、正しい推理をしないとこの世界を終わらすんだってよ。こっちの方が事件じゃん! 殺人よりもヤバいよ! 警部、読者と言う奴を早く逮捕してくれよ!」

「読者って上級国民か何か?」

 

 ラブコメくんがその事実に呆れた顔をしながら、言葉を掛ける。推理くんも苦そうな表情でうんうんと頷いていた。


「ああ。だから警察組織は読者という存在が殺人を求めてる。読者が殺人を求めているってのに、逮捕はできないって言うんだ。ってか、捕まえたら自分達が消される羽目になるとか」

「読者って警察組織をも操作する暗殺者集団だったのかよ!」


 推理くんとラブコメくんが愚痴を話しているところ、近くにいた恋愛ちゃんも入り込んできた。彼女もまた事実を知ってしまった登場人物の一人。


「それだけじゃないわよ。恋愛を司る神様とかでね。私のやることなすこと、全て失敗にさせて。挙句の果てに厳しい女の先輩やらに眼ぇ付けさせられて。これもかれもこの裏側にいる人達のせいなのよね……」


 推理くん、ラブコメくん、恋愛ちゃん。三人は唸り合う。この事実を変えられないことを嘆いていた。

 ホラーちゃんは長い前髪を垂らし、登場する。ラブコメくんが最初に彼女へ一言。


「あれ、アンタ、ホラーの主人公とかじゃなく、お化けの方なの? えっ、こういうのって怖がりな主人公とかじゃないの?」

「あたしの方が……盛り上がるかも……ってことで」

「あっ、そうなのね。って初っ端からその手に何を持ってるんだ!?」


 ラブコメくんが言うと探偵くんもホラーちゃんの手を見る。


「おいおい。藁人形って呪いじゃねえか。せめて俺の世界をファンタジーと混ぜるなよ。読者からこの探偵ファンタジーの世界に行ったから謎解けるって言われてるんだぜ」

「呪いは……ファンタジーなの?」

「どっちも同じだ。呪いで事件が起きちまったら、俺の立場が色々危うくなるから。ほらほら、それは捨てて。読者を呪っちゃダメだ!」


 仕方なく藁人形を捨てるホラーちゃん。あんまり納得はしていないようで彼女の顔は終始曇っていた。そんなところに恋愛ちゃん。


「恋愛のおまじないとか教えてよ! 愛しの彼氏をゲットするための方法!」

「あら……分かったわ。ふふふ、役立つかどうかは分からないけどね」


 ラブコメくんはその二人のやり取りを見て、少々自分達が元のラノベで暮らしていたことを思い出した。友人の女子高生が二人。こんなふうに和気あいあいとやっていた。それで僕に話し掛けてきて。色々トラブルは起きるけれども決して嫌いではない日々。

 それがあったのも、読者のおかげではなかろうか。読者が楽しんだから、自分達の小説が続いているのではないか。

 今、僕のラブコメ仲間としている女の子も読者が人気ランキングで投票してくれなければ存在しなかったものだ。

 

 他のジャンルの人達の声を聞きながら、ラブコメくんは思った。

 読者、ありがとう。今、仲間がいて苦難を乗り越えられるのも一応、アンタ達のおかげだから、と。

 と締めたかったのだが、探偵が余計な一言。


「読者から死神呼ばわりされてるんだが、これはお礼を言っていいのか?」

「ううん……僕はラブコメ界隈だから良く分からないけど……それは何か、違うねぇ……」

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もしキャラクターが読者の存在に気付いてしまったら? 夜野 舞斗 @okoshino

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