徹夜執筆/KAC20216作品「私と読者と仲間たち」
麻井奈諏
第1話
「終わらない……終わらない……」
「頑張れー」
「自分だけ先に終わらせて高みの見物なんて!」
「宿題は先にやっちゃうタイプなので―」
カタカタとタイプ音を響かせている横でポリポリとポテトチップスを頬張っているのを横目に締め切りに追われた小説を打ち込んでいく。
「わ、わたしは内容重視だから!」
「未完成の名作より完成した駄作ですよー」
「完成するんだから!!」
必死になっても文字を打ち込む。ふと、更新の手をとめてしまう。
「手が止まってるよー」
「……うーん、やばい。煮詰まった」
「もう、また?すぐこれなんだから」
「そんなこと言わないで一緒に考えてよ」
「仕方ないなどんな場面で詰まったの?」
「少年が少女に告白するシーンなんだけど」
「ほうほう」
「少年って、なんで少女のことが好きなんだろうね」
「物語のキモじゃない。考えてなかったの?」
「作者はその作品の対して内容考えてないと思うよ」
「そんなことないよ!だから、プロット書いてから書いた方がいいっていつも言ってるのに」
片方の少女は肩をすくめ、もう片方の少女は物語の内容を考えるように紙へと案を書き出していく。
「この子が好きになったのは……一目惚れとか?それとも優しくされたら好きになっちゃった、はたまた別に好きじゃなかった。なんて物語として面白くなるかもしれないね」
物語を考える時は一度正反対のことを考えてみる。好きじゃないけど好きみたいな行動をとる。そうやって考えると次はなぜそうするのかを考えて物語のイメージを膨らませる。
「好きじゃないけど告白するのかぁ……いや、面白いけど。ちょっとそんな練ってる時間は無いかな」
「それは残念。でも、理由なんて案外なくたって読者はいいと思うよ」
「一目惚れにしておけってこと?」
「そうだね。だって、人を好きになるのに理由が必要なんてなんだが可笑しな気がしない?そういう合理的な何かで好きがわかるんだったらこれからの恋愛作品は全て数字のパラメーターでキャラの感情を書いていくよ」
「あー、昔のギャルゲって好感度わかったけど、今だと全然見ないもんね。そんな感じかぁ」
「うん、全然違うけど。それでいいや」
くだらないそんな漫才のような話をするといつの間にか作品の進捗状況はどんどん良くなっていく。本当は書いてる時に何か喋って書きたかっただけっだったのかもしれない。
お互いがお互いの作品のファン一号でいいところもわるいところも知り尽くしてそんな相手だから、自分の作品をいいものにして相手に見せたいという気持ちが出る。そうやって、雑談をしながらあーでもないこーでもないと作品を良くしていくのだ
「よし、わたしも完成!」
「じゃあ恒例の読み合いしよっか」
「望むところよ」
お互いの原稿を読み合い時折付箋を貼ったりしていく。
ゆったりとくつろぎながら原稿を読むが実際自分の原稿の反応が気になって気が気ではない。それでも、相手にそれを気取られるのが気まずくて相手の方は見ないように相手の原稿に穴が開くほど熱心に見つめる。
「よし、読了!」
「あー、こっちはまだ読み終わってないからもう少し待って」
「はいはい、いつもどうり誤字は数個あったよ、あと誤謬っぽいのもいつも通り付箋に書いたから」
「えー、またあった?まぁ、いいや。あとで話そうか。夜はまだまだ長いんだから」
「締め切りは朝までだけどね」
二人は投稿してから寝るまで、「ここが面白かった」「ここのギャグは寒い」等感想を言い合って。「誤字だ」「わざとだ」と報告し合った。なんてことはないこれが作者で読者で仲間の二人の徹夜執筆。
徹夜執筆/KAC20216作品「私と読者と仲間たち」 麻井奈諏 @mainass
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