桜の花びらはまだ見たくない

変態王子

第1話 

俺は4月1日病院のベッドで目覚めたらしい。


よくは覚えていないが周りのいい歳した大人たちが頬に涙を流していたような気がする。


どうやら俺は一ヶ月もの間眠り続けていたっぽい。


そして今日4月7日は高校の入学式だ。


本来ならば期待に胸を膨らませ制服の一人ファッションショーでも執り行っているところだ。


生憎、今日、いやここ3日悪夢にうなされているためとてもそんな気分にはなれない。


毎回若い女の声が聞こえてくるのだ。


「感性を養え。さすれば道は開ける。導かれよ。未来は其方次第だ」


正直意味が分からない。道ってなんだ。


戦国の時代ではあるまいし…。

この不気味なお告げのせいで俺は毎朝憂鬱な感情に満たされる。


ベッドから降りると全身の細胞が活気づくのがわかった。


元気一杯の仲間たちとともに朝の身支度を始める。

朝は兎に角忙しいなと感じながら手足をそそくさと動かした。


両親が玄関まで見送りに来てくれようとしたがそんな年じゃないから

と如何にも思春期真っ盛りな言葉を放つ。


まあ一ヶ月も眠っていたんだし心配になるのも無理ないか。

つくづく親不孝者だなと実感する。


自立した姿を見せるのが今の俺の夢であることは胸にしまっておこう。


勢いよくドアを開け朝一番の空気を思いっきり吸い込んだ。

ここは俗に言う田舎だから空気が美味しい。


家の前にある桜の並木道はまるで俺のことを祝福してくれてるようだった。

桜の花びらが踊っている。枝から地面まで一生懸命に。


そんな光景からまさか自分がこの先地獄に突き落とされるなんてこの時は想像できなかった。


緊張と不安、そして待望。これらが混ざり合ったしょっぱい気持ちを胸に校門を抜ける。


周りには同じ感情の人間が沢山いると思うと少し嬉しさを感じた。


~~~


入学式も無事に終わり自分が所属する教室に向かう。


「ここか」


足を踏み入れるときが一番緊張するんだよなと思いながら空間に入る。


30人ほどの男女がその教室にいた。


各々席に座って何かしていたり級友と話を弾ませていた。

その景色を横目に自分の席位置である窓際の最後列に座る。


よし、色々な人に話しかけてみよう。

そう思い立った俺はまず前の席の男に話しかけてみた。


「よ、よろしく!」


話しかけるのはとことん苦手だ。


「おう!こちらこそ!ところで名前は?」


顔の整った美少年と呼ぶにふさわしい風貌で返事をくれる。


「俺は弥生!弥生幸収!」


理由はわからないが場の空気が凍ったのがわかった。

まさか滑った?


いやそんなことはない、はず。


「あ、あー、よろしく、ね」


そう言って彼は前を向いた。

禁忌に触れてしまったかのような恐ろしさに溢れた表情だった。


その後も勇気を振り絞って何人かに話しかけてみたが誰もまともに会話をしてくれなかった。


なんで入学式で嫌われなくちゃならねーんだよ!!!



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桜の花びらはまだ見たくない 変態王子 @hentaiouji

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