#06

 そして、


「ここにいる全ての方達は、それぞれの人生というお話をもっている。そのお話の主人公なのです。その上で、お話が劇的であるか否かは、さほど重要ではない」


 フム。それは、なぜだか、分かりますか?


 答えは、


「それぞれの人生の中で、それぞれが必死で生きているという事の方が重要だからです。一見、平凡に見える人生とて起伏は激しいもの。その意味は分かりますよね?」


 あ……。


 そっか。


 僕も、必死で声をかけて友達になって欲しいと勇気を出して。


「フム。それこそがヒントとなります。では、あとは、ご自分で、お考え下さいね」


 と言うが早いか、目の前に並んでいた主人公軍団がぼやっとしたもやに包まれた。


 今までいた街角も白く霞んで消えてまう。


 あれ? なんだろう?


 もしかして……、今、僕が居たところはお話の中だったのか?


 そののち僕の視界が抽象画のよう歪んで揺れ、意識が遠のく。


 でもさ。


 そうか。そうだよ。なんとなく分かった。


 なんとなくだけどさ。灰色探偵ダニットのフーさんのヒントを聞いて分かったんだ。お話は人生だと。漫画や小説、映画などで描かれるものは全て誰かの生き様を切り取った人生に過ぎなかったんだ。自分なりに必死で生きた事の記録だったんだね。


 そうか。


 そうだ。


 僕を主人公にしたお話はつまらないものだって言ったけども。


 言っちゃったけどさ。


 ハハハ。


 滑稽なほど見事を通し越してゆくフラグ回収をしちゃったよ。


 そうだね。そうだな。


 今、主人公を探して、さ迷ったのも僕を主人公にしたお話だったのか。勇気を出して必死な思いで声をかけたのも……、みんな、みんな、僕の生き様を記した冒険記。ハハハ。そうだ。つまらない人生なんてないんだ。みんな、必死で生きて……、


 笑って、泣いて……。


 そうか。


 だからフーさんは言ったんだ、ここにいる全ての方達と……。


 アハハ。


 この世に、つまらない人間なんていない。


 モブなんて、いない。


 みんな、一人ひとりが劇的な人生を必死にもがき生きている。


 それが、その人なりのお話で、その中の主人公こそが、その人自身。ああ、大きな勘違いをしていたみたいだ。うん。僕は、僕が生きている事で紡ぎ出す、お話の主人公になればいい。今回のように。大丈夫。きっと面白いお話の主人公になれる。


 いや、面白い、つまらないなんて他人に決めさせちゃダメだ。


 僕が、必死に生きれば、それだけでいい。


 それだけでいいんだ。


「フムッ」


 なんてあの探偵のおじさんの口癖を真似て意識が消え去った。


 不可思議な空間を浮遊しつつ漂いい、そっと意識を手放した。


 その耳に聞こえた。温かく優しい鳴き声。


 空を舞うノビタキのピリリッという声だ。


 僕は、ありがとうなんて気持ちで応えた。


 また、たのしい物語を紡ぐぞと心新たに。


「てかさ」


 と、イタコが、不満たらたらに口を挟む。


「友達、いいですか? なんて言うなよ。こっ恥ずかしい。友達なんて、いつの間にかなってるもんだわさ。てか、あんたとは、もうすでに友達だけどね。フハハ!」


 こっ恥ずかしい事を口にできる勇気があるのを見直したから。


 これから、よろしく。


 ただし、地獄だがな。


「……というかッ!!」


 俺(僕、私)ら、全員、もうすでに友達だぜ(ださわ、だろう)。分かったかッ!


 この野郎。アハッ!!


 うんッ!


 ありがとう、みんな。


 本当にありがとうッ!


「フム。もちろん、わたくしもなのですが……、いくらか歳が離れすぎですかね?」


 アハハ。

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ナチュラル・サンクス 星埜銀杏 @iyo_hoshino

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