大大大好き

@m_etoile

第1話アイアム神様

「俺の彼女さー、まじ俺の言うことなんでも聞くの!」

「ひでーだろwモラハラ彼氏?」

「調子乗りすぎじゃない?アイちゃん可愛いのにさぁ、、」


私、なんでも言うこと聞く彼女。


「も〜なんで?すげードMとか?」

「レオが御主人様なの?ワンって言ってみてよw」

「おいおいやめろよw」


「ワン。」



深夜1時。

帰り道、レオくんはコンビニで500mlの缶ビールを買って黙って歩いた。私はだるそうに歩く彼の腕を掴んで、道端の雑草に花が咲いてるなあ、とか思っていた。

「おい。」

急に呼ばれたのでちょっとびっくりして、私より20センチ高い彼を見上げると、だらだらと持ってたビールを逆さまにして私にぶっかけてきた。

「なんだよ、さっきのアレ。」

3月の夜、ビタビタなのでちょっと寒い。

どうしたんだろう、と思って適当なことを言う。

「ビール、飽きちゃったの?」

「は?おまえ、プライドねえのかよ。」

......

「なんか言えよ。しょうもねー女。」

......

レオくんは酔っ払って火照った顔に冷たい目で私を見下ろしてきた。

ないよ、プライドなんて。私にはない。

しばらく困って見つめていると、

「何ぼーっとしてんだよ、行くぞ」

レオくんはすぐ私から目を逸らして背中をドン、と押してまた歩き出した。


好き好き好き好き好き!大好き!

星が綺麗。多分、彼が生きている間は星が輝き続ける。彼が生きているから花が咲くし、私の世界はそうやって回っているのだ。



「え?あれぇ〜、なんだあ、ただのメンヘラのファンかと思ったらさあ、可愛い顔してんじゃん。」


レオくんと出会ったのは、8月。

いや、出会ったのは、もっとずっと前だけど。

彼が私を知ったのは8月。8月のアングラなライブ。


「ね、彼女んなる?」


世界一ギターが似合う、世界一かっこいい歌を歌う。世界一かっこいい。

好き好き好き好き好き!大好き!



「きょ、今日のライブ...かっこよかった...っ」

「あー?いいから。一発抜いて、疲れてっからさ」


私が、私なんかが、

レオくんと、レオくんに、

こんな風な、こんなこと、私が。


19歳。友達はいない。趣味もない。

やりたいこと、なりたいもの、ない。

やってること全てに意味はない。

プライドなんか、有る訳ない。


レオくんの家。このビーズが大きくてごわごわする枕、痛くなるけど好き。

レオくんの声、ちょっと特徴的な低い声。

レオくんの匂い。好き好き好き。隣にいるのが嬉しくて首に吸い付く。

レオくんは、なんだよ、って吸ってたタバコを渡してこっちを見た。

「きょとんとすんじゃねーよ、タバコってのはな、2口目がうまいの。ほら。」

私はタバコが嫌いだけど、彼が良かれと思ってやっていることがたまらなく嬉しくて笑ってしまう。

「レオくん...のさ...LINEの文面好き....」

「あー?なんだそりゃ、嘘だろ。」

ううん。本当。あとね、焼き鳥の食べ方とかも好きだし、あと、右足の小指の爪が小さいのも好きなの。レオくんはため息をついて、

「お前ホント俺の超細かいとこまで好きよなあー。なんかすっげ見てくるし。」と言った。

そうやってちょっと冷たい目だけど、八重歯見せて話すところも好きなの。

「かわいいけどさ、ちょっと怖いわ」

レオくんが目を見て言ってくるから、嬉しくて、えへへ、 と抱きついた。

「ほめてねー」

私の下から手回して頭をくしゃくしゃにして、ちょっと笑う。

好き好き好き好き!!!愛してる!!


12月、レオくんは、音楽をやめようかなって言った。


1月、レオくんが、他の女の子と飲みに行くって言った。最近毎日連絡取ってる女の子だって。


「なんなのお前。なんで怒んねーの。」

壁ドン。私、人生初壁ドン。

「なににやついてんだよ、俺のこと好きじゃねーのかよ。」

「大好き」

「は、もう意味わかんねー。男いるだろ、お前」

なんで?なんで笑ってくれないの?

「いない」

レオくんは目をつむって大きくため息をついた。

「もう知らねー。」



3月、私にはプライドなんてない。

「クソしょうもねー女。」

なに、言ってるの?私、貴方が好きなだけなのに。ね、そもそも

「わ、私...前から面白かったことないよ」

「あ?おまえは俺といておもろいんだろーが」

なに、面白いって、何。おでこ、汗かいてて好き。

「てかそんなこと言いてんじゃねーよ。おまえさ、伝わって来ねーの!」

何が?私、こんなに好きなのに。好きだよ、ねえほんとに大好きなのに。

「もっとぶつけて来いよ、こうキモチをさ、俺もおもろくさせろよ、適当にすんな!」

レオくんは私よりだいぶ高い背を屈ませて目線を合わせて言った。


怒ってる。レオくんは、こういう風にはあんまり怒らないの。怒らせたってしょうがないのに、ごめんねって思った。私馬鹿なの。今になって怒らせたことに気付くし、でも私には無理だよ。だって私には貴方のようなコンテンツ力もなければ、プライドすらないんだよ。

レオくんがずっと見つめてくるので、ドキドキした。


わかった。今初めて、私と対等になろうとしてくれているんだね。




「レオざまぁ〜〜〜wwww」

「だから調子乗りすぎだったんだって!あんなに可愛い子あんな扱いしたら他の男行くに決まってんじゃん!」

「前々から不満だったのかもよーw」

「そんなんじゃねえって」

「負け惜しみーwwwwww」

「ホント、そんなんじゃ、ねえから。」



レオくんはね、神様なの。

だからこんなところまで降りて来ないでください。


「レオくんは一生私の神様でいてください。」

「さようなら。」





8月、大都会、歩く。

信号を渡った先のビルに映る世界一ギターの似合う男の子。大好きな歪んだギター。特徴的な低い声。


「アイアム神様 一生神様」



愛してる!

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