最終話、どうか幸あれ。
とある某所のビルの中の応接間で、
「と、まあこんな感じの話でして...。」
俺は少し緊張しつつ話をしていた。
「はぁ~...。」
中年の男性はあからさまに呆れた風にため息を吐く。
「あの...、どうでしょうか?」
俺は手に脂汗を滲ませながら恐る恐る中年に聞く。
「はっきり言ってボツだね。
所々良く日本語が出来てないところもあるし、誤字脱字が酷い。
それに今さら異世界物の小説はもうごまんと出ているんだよ。
君の話は目新しい事もないし、これじゃ話にならないな。終わり方なんて何?それが人生って恥ずかしいくない?」
「え?い、いや。じ、自分は必死に...。」
「あぁ...、皆そう言うんだよ。
必死にとか、これは自信作です!とかね。
まあ、殆どが駄作なんだが。
採用されたければ、もっと刺激的で今までにない物を書いてくれたまえ。
私は忙しいからこれで失礼する。
それじゃあ...。」
そう嫌みを言うと、中年はおもむろに席を立ちそそくさと部屋を出ていった。
俺は書いた原稿を片付け、悔しさで涙を滲ませながら部屋を出ていき階段を下りてビルを出た。
外に出ると雪がしんしんと降っていた。
「世知辛い世の中だぜ。俺にもっと才能があればチクショウ...。
.....。
.....。
こんな時はいつものあれだな...。」
俺の足取りはいつもの飲み屋に向かっていた。
酒はいい。嫌なことも全部忘れさせてくれる。
そんなのは一時でしかないのは重々承知だ。
それでもこの嫌な気持ちを少しでも払って欲しい。
そして俺は暖簾をくぐり店に入る。
入るとおかみさんと馴染みのお客さんでいっぱいだった。
俺は席に座り、隣どおしなったお客さんと飲みながら話した。
そして何時間たったのだろう?
あまり覚えてはいないが、彼女が来ていた気がする。
おかみさんが気を回して呼んでくれたみたいだ。しかし、今はどこにも居ない。
多分俺が酔っぱらって何か文句でも言ったんだろうな...。
俺は最低だ。
もう何でもいいか...。
少し眠い...。
俺は目を閉じる。
不思議とふわふわとして気持ちいい。
何かに包まれている感じだ。
そんな中声が聞こえた。
「******、*****?」
何言ってるんだ?
俺は聞いたことのない言葉に思わず返した。心の声だけどな。
「*****...あ、あぁ~。ひょっとしてこっち言語かな?あの~、通じてますか?」
あぁ...。聞こえているが。誰だ?
姿も見えないし...。夢なのか?
「良かった~。やっと通じた。この世界の言語難しいんだよ~、全く。」
コイツ、全然人の話を聞かないな...。
まるで俺が書いた小説の神みたいな奴だな...。
「あれ?僕、神なんて名乗ったっけ?」
は?
俺はその言葉に呆気に取られる。
いやいや、ここは現実だ。こんな事があるはずがない。これは夢だ。うん、夢で間違いない。
俺は夢だと確信付けて納得をしたが、神と名乗る者の言葉を聞いて血の気が引いた。
「夢じゃないよ。君は死んだんだ。」
は?
いやいやいや、さっきまで居酒屋で飲んでて...。
飲んでて...どうなったんだ?
全く記憶がない。嘘だろ?
「嘘じゃないよ?そんなに信じられないなら、これを見なよ。」
そう言うと神なる者が俺の目の前にモニターの画面を出した。
「君が居酒屋?って言うの?良くわかんないけど、お店から出た後のからかな。」
モニターを見ていると男がフラフラと千鳥足で歩いている。
うん、あれは間違いなく俺だ。
そして、恥ずかしい事を色々叫んでいた。
「ハゲの中年の癖に調子に乗りやがって!!何が頑張ってくれたまえだ!!糞が!!」
そんな事を大声で叫んでいた。大人なのに恥ずかしい。あぁ...。穴があったら入りたい。
「え!?そうなの!?だからか...。」
神が意味深に言う。
俺は不安になりながらもモニターで続きをみた。
フラフラと歩きながら工事現場の方に近づき、ガサゴソと股間辺りをまさぐってズボンをさげている。
そして用を足し終わりズボンを上げないまま動き出した。
足がズボンに引っ掛かって転んだ。
ただ転んだ先にマンホールがあってそこに落ちていった。
頭から...。
工事中だから蓋が開いていたのだろう。
落ちた俺はピクリとも動いていなかった。
ケツを丸出しにしながら...。
「あっはっはっは~!!面白い!!君、最高だね!夢、叶っちゃったね!穴があったら入りたいっていう夢が!」
神が大爆笑している。俺は殴りたい気持ちが込み上げているが拳の感覚がまるでない。
「怒っちゃった?ごめんね~!君、死んでて今は精神だけの存在なんだよ。だから僕を殴りたくても殴れないのさ!」
マジで死んでいるのか...。
「いっぱい笑わせてくれたお礼に生き返らせてあげてもいいよ。その為に来たんだけどね。」
生き返る?そっか...。ありがたいけど、起きたらマンホール...。まあ、戻れるならいいか。
「違う違う!!この世界では生き返れないよ!もう精神と肉体の鎖が切れちゃってるもん。いくら神だからってそれは無理。」
そ、そんな。両親や彼女、それに友達とかにも挨拶もしてないのに...。
「いやいや、死は突然でしょ?挨拶なんかできないよ。そんな人は沢山いるんだから。」
確かに一理ある。では、生き返るとは?
「僕の世界で生き返ってみない?剣と魔法の世界だよ!君、そういうの好きでしょ?」
好きだ!夢にまで見てた異世界転生のやつだ!!って...あれ?これはどこかで...?
「まぁまぁ、細かいことは気にしない。好きってことはオッケーって事で。」
ちょっと待て。俺はまだ行くとは一言も...。
俺が話している最中、急に神の声が低くなりドスの聞いた声で。
「待てないよ。
もう転生の手続きは終えたから。
新しい僕の世界『クラウディア』行ってもらうよ...。
コウ・タカサキとしてね。」
はっ!?
コウ・タカサキって!!ちょっと待てって....。
そのまま光に包まれて男は消えていった。
「フフフ。
君が僕を
そう言い神は不適な笑みを浮かべた...。
俺は目を開けるとそこは森の中だった。今にも何か出て来そうな感じだ。
「...マジか?本当にここは異世界なのか...。
こんな時はあれだな。
ステータスオープン。」
俺の目の前に青いモニターが浮かぶ。
そして、名前の欄には
コウ・タカサキと書いてあった。
「っていうか、俺の名前は
森の中に俺だけの声が響いたのだった。
この先、彼がどうなるのかはここから始まるのだ。どうか幸あれ!笑
完
なぜか俺だけモテない異世界転生記。 一ノ瀬 遊 @ichinose1120
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