コンビニ転生

東城

第1話

 コンビニの冷蔵庫は、異世界に続いているのかもしれない。


 異世界転生のラノベみたいなことをブツブツ考えている俺は、中2の男だ。ひょろっとした平凡な顔した陰キャのゲーマー中学生だ。


 学校帰りにコンビニに寄って、冷蔵庫のドアを開けオレンジジュースを選んだ。レジで金を払うとコンビニの前の駐車場で、ジュースをごくごく飲んだ。


 返却された中間テストの点数は相変わらずヤバかった。数学25点、現国35点、社会科36点,英語18点。まあ毎晩あんなけゲームやっていれば、成績も下がるわな。


 前方から、デブの40代ぐらいのオッサンがコンビニ目指して、ずんずん歩いてくる。

 まだ6月なのに汗だらだら垂らして、ハアハアしながら、垂れた腹をたぷんたぷん揺らして、存在自体が猛烈に暑苦しかった。もろ無職のニートといった風貌で、落ち武者みたいに頭のてっぺんが剥げていた。


 オッサンと俺との距離が2メートルに近づいたとき、オッサンの体臭がぷーんと風に乗って俺の鼻孔をついた。

 オエッ。

 油の腐ったようなカブトムシみたいなすえた臭いで、ゲロりそうになった。


 オッサンは、俺の前で停止すると、じっと俺を見る。


 なんだよ。なにじろじろ見てるんだよ。


 オッサンが言った。

「俺は、未来から来たお前だ」


 はああ??? 

 固まっている俺を残して、オッサンはスタスタとコンビニに入った。


 俺は、5分ぐらい思考停止になっていた。

 なんだよ。あのオッサン!!


 コンビニにオッサンを探しに入ると、ピンポーンピンポーンと電子音が鳴り響いた。

 狭いコンビニ店内にはオッサンの姿はなかった。狐につままれた気分だった。


 その夜、昼間の出来事を考えると眠れなくなった。


 あのキモオタのオッサンは本当に未来から来た俺かもしれない。やだよ。あんな風になりたくないよ。じわじわと絶望感が体を包み、寒くなってきた。


 あの日から、ゲームは止めて勉強するようになった。

 すると、成績もぐんぐんあがり、俺の頑張りぶりに親との関係も良くなった。

 3年に進級すると、スクールカースト上層部にランクインすることもできた。

 偏差値62の志望高校に無事合格して、俺は安心した。


 中学の卒業式が終わり、卒業証書を片手に帰宅する途中、前方から、スーツを着たぴしっとしたイケオジが歩いてくる。


 俺とすれ違う瞬間、その中年のおじさんは言った。

「私は、未来から来た君だ」


 呆然としている俺を残して、おじさんはコンビニに姿を消してしまった。


 ピンポーンピンポーンとコンビニの電子音がかすかに聞こえる中、俺は1年前の出来事を思い出していた。



【完了】

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コンビニ転生 東城 @Masarutojo

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