第31話
マチルダに教えてもらった店は、一見するとただ雑貨が並べてある店に見える。雑然としていて怪しさがないと言えばウソだが、スラムに前られている店なんてどこもそんなもんといえばそれまでだ。
「さて、どうやって切り出すのがいいと思う?」
僕は自称スラムに詳しい男にたずねる。
「そうだなぁ、先ずは子供と淑女を帰すかな?」
リンドウはそういうとヒナギクを意味ありげに見る。
「お~、ここか。姉ちゃんありがとよ。今度また指名させてもらうぜ」
リンドウが店主にちょうど聞こえるほどの声を出すとヒナギクは一瞬顔をしかめたが、意図を理解して踵を返す。
「じゃあ、またね。お兄さん。行くよ」
満面の笑みとともに、パズーを連れて店を後にする。
ちらっとこちらを伺うような視線をよこした店主の反応を確かめた後、両手を広げて笑顔で近づいた。
「はろ~、おじさん。俺ささっき店の子にいい話聞いちゃったんだけどさ。例の奴ってここで売ってるんだって?」
さも、それが何か知ってるかの如く話す。
「あんたみたいな大男が、おまじないか?」
店主は探るような言葉をかけてきた。
「ああそうさ。俺みたいな大男でも楽しめるとびっきりのおまじないを頼むよ」
堂々としたものだと感心する。
「で、どっち?上がる奴と、下がる奴」
上がる奴?僕には意味不明だったがリンドウにはピンと来てるらしい。
「俺は上がる奴がいいな。でも一通り試してみたいから、何種類かあるなら少しづつくれよ」
店主は返事の代わりに、カウンターの裏をごそごそと漁ると正方形の手のひらに収まるぐらいの紙をいくつか取り出した。すべてにあのマークに似た模様が描いてある。一応よく見れば色や模様に微妙な違いはあった。
「こっからこっちがアッパー、こっちはダウナー。素敵な夢が見たいならこっちだな。使い方は知ってるんだろ?」
知ってて当然の雰囲気でここまで来てしまった以上、今更知らないとは言えそうになりどうするつもりかとリンドウを見る。
「俺はな。でも、こっちの相棒は初めてだから教えてやってくれないか?」
上手いな。と少し感心する。店主はめんどくさそうにこっちに目を向けた。
「初めてならこれにしときな。使い方は簡単だ。指定された順番でこの紋章をなぞるだけ。一応三回ぐらいなら、これ一枚で遊べるぜ。マークは別にこの紙をなぞらなくても指定の順番で描け同じものどっか適当な別の紙書いてもを描けば効果はあるぜ。ただし、この紙が肌に触れてる必要はあるけどな。つまりこの紙をそのままなぞっちまうのが一番早いってことだが」
「なるほど、魔術ってことですね」
魔法陣が浮かんだ。誰かがここに魔術を込めているのだろう。体系ってやつだ。そして特定の正しい順番でなぞることで魔術が発動する。おそらく、精神を高揚させたりその逆を起こす魔術だろう。
「まじないだ」
店主はその言い方が気になったらしく言い直す。
「ってことだよ。さっさと持って帰って楽しもうぜ」
リンドウが明るい声で覆い隠す。僕たちはそれからいくつかのまじないを興味がありそうに物色した後、店を後にした。
「どんなもんよ?」
店の扉が背中で閉まると、開口一番にそう言ってくる。
「上手くやるもんだとちょっと感心したよ」
正直な感想を述べる。
「さて、カラクリはわかったことだし帰ったらさっそく試してみるか」
「は?おい、マジで楽しむ気かよ」
あまりの衝撃発言に思わず突っ込む。
「馬鹿か、お前そっちじゃねえよ。もう一つあるだろ?俺たちに残されたマークが」
リンドウはそう言いながら、手に持っていた紋章が書かれた紙を魔術で起こした小さな火で燃やす。
「そういうことか!」
一息遅れて僕は気が付く。
「院に戻ろう」
焦げ臭いにおいを後に残して、購入したおまじないは灰と化すと中をふわふわと漂うと、路地裏のどこかに溶けていった。
終幕のパキラ 53panda @namekoouzi
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