朝、鏡の前で

白木錘角

異端

 彼は迫害されていた。

 今まで誰にも迷惑をかけることなく、慎ましく生きてきた。なのに皆は軽蔑の目を向け、彼を馬鹿にする。

 周りと違うこの体さえ無ければ。何度そう思った事か。


「まだいるのかよお前」


 今日もまた、悪意に満ちた声が彼にかけられる。


「なぁ分かってんのか? 俺らは寄り集まって暮らしている。お前みたいな奴が混ざっていると見栄えが悪くなるんだよ!」


 彼だって出来る事ならこんな所から出ていきたい。だが、そんな選択肢は最初からなかった。


「が、それも今日までだ。ついに来たぜ? 裁きの時が」


 その言葉に顔を上げると、はるか上から巨大な何かが近づいてくるのが見えた。


「見えにくい場所だから今まで気づかれなかったが、これでお前も終わりだ」


「終わり! 終わり!」


「みっともないのが消えてせいせいするわね」


 周囲からの罵声は、もう彼の耳には届かない。ようやくこの生き地獄から抜け出せるのだと、彼の頭にはそれしかなかった。

 下りてきた二本の柱は彼を掴み――。


「は? お、俺じゃねぇよ、ふざけんな、離せ!」


 否、彼のすぐ隣から、そんな叫びが上がる。彼をずっと罵ってきたそいつは、抵抗空しく柱に掴まれ上に消えていった。


「待って私じゃないの! この異端者を……!」


「助けて、誰か助けて!」


 奴だけではない。今まで彼を馬鹿にしていた周りの連中が、次々と上に消えていく。

 それを見て、彼は思った。神があいつらに天罰を下したのだ。裁かれるべきは異端の自分でなく奴らだったのだと。






「げ、またやっちまった。やっぱ誰かに取ってもらうべきだったか……」


 しばらく粘っていたが、諦めた方がよさそうだ。俺はそう考え、間違えて抜いてしまった黒髪をゴミ箱に捨てた。

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朝、鏡の前で 白木錘角 @subtlemea2

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