What a wonderful world ~この素晴らしき世界~

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第1話 この素晴らしき世界

 ぼくは幼い頃から、漫画を描いたり読んだりするのが好きだった。

 弟も同じように描くのが好きだったので、お互いに描いたり見せ合ったりして、それぞれ自分なりの世界を作り上げていった。

 弟は、ぼくにとってたった一人の読者だった。

 それは逆もしかりで、ぼくは弟にとってたった一人の読者だった。


 やがてぼくはコナン・ドイルの「シャーロック・ホームズ」シリーズを読み、自分でも何か小説を書いてみたい! という思いに駆られるようになった。

 中学生の時に生まれて初めて書いた小説、タイトルはうろ覚えだけど、確か「小さな名探偵」という名前で、フランスを舞台に少年探偵が悪の組織と対峙する内容だったと思う。

 終わってみると結構長い文章になり、当時小学生だった弟はさすがに読んでくれなかった。

 その後も漫画や小説は書き続け、当時嵌まったファミコンのゲームソフトの世界を題材にした長編小説を書いたりしていたが、読んでくれる人は誰もおらず、自分独りで書いたものを読んでは自己満足し、そこで終わってしまっていた。


 時は過ぎ、弟が友達と一緒に同人誌を作って販売するようになると、そこに乗っかる形で初めて漫画を自費出版した。

 出版した作品は、高校時代に描いた「書き下ろし」という、主人公の二柳にりゅうあおいが、友人が通う志望大学をめざして紆余曲折しながらも合格を勝ち取る話であった。

 弟から、なかなか面白い作品だし出版してみたら? と言われたのが挑戦したきっかけだった。

 弟が「書き下ろし」を当時住んでいた町のコミックイベントで販売したところ、何人かが手にとってくれたようであった。この時が、ぼくにとって初めて「読者」の存在を意識した体験だった。当時はまだWindows95発売前、インターネットがまだ広く普及しておらず、コミックマーケットがぼくたちにとって唯一の発信手段であった。


 それからぼくは就職し、時間に追われる中で漫画を描くことも、小説を書くことも無くなってしまった。

 しかし、最初に自費出版してから二十年以上が経った今、あの時に味わった気持ちをまた味わえる時が来るなんて、夢にも思わなかった。

 ちょうど仕事が忙しくなり、色々ストレスを溜め込んでいた時期であった。

 このままでは自分の中が全て仕事で埋め尽くされてしまう、仕事以外で楽しいと思えること、やりがいを感じることを渇望していた。

 その時出会ったのが、「カクヨム」だった。

 カクヨムに掲載されていた作品を片っ端から読むと、そこには百花繚乱ともいえるほど、沢山の作品、様々なジャンルの作品がひしめいていた。

 掲載されている作品のいくつかを試しに読むと、どの作品にも作家の思い入れが感じられ、

 そして何より、どの作家も思い描いた世界を自由に表現していると感じた。

 そこには、日常の生活で感じるがんじがらめのようなものが無かった。

 ぼくは、あっという間に「カクヨム」ワールドに引き込まれ、そして気が付いた時には、自分もここで書いてみたい!という気持ちが心の奥底からムクムクと沸き起こっていた。

 最初にどんな作品を書こうか?と色々思い巡らせてみた結果、二十数年前に書いたあの作品の続編を、小説として書こうと思った。

 そう、かつてコミックマーケットに出展した「書き下ろし」の続編である。

「書き下ろし」の登場人物について、書いた当時の設定をそのまま活かそうか?とも考えたが、あれから大分時が経ったこともあり、「登場人物の現在は?」的な設定で物語を書こうと決意した。

 こうしてぼくは「書き下ろし~青春のリグレット~」を完成させ、カクヨムに投稿した。

 さて、どんな反応が返ってくるのか……ワクワク、ドキドキが止まらなかった。

 しかし、何度マイページをチェックしても、何の反応も無し。

 アクセス数を見ると、確かに何人かは読みに来ているようであったが、評価を示す星印はおろか、「いいね」を意味するハートマークすら無かった。

 その時ぼくは、これが現実なのかな?と、途方に暮れた。

 でも、自分の書きたかった「書き下ろし」の続編をこのカクヨムに掲載できたことは嬉しかったし、今もその選択は間違いじゃなかったと思っている。


 その後ぼくは、ここで満足せず、多くの人たちに読んでもらうためにはどうすればいいのか?と考えたが、自分の出した答えは「とにかくひたすら書いて、書いて、書きまくれ~!」という、何とも愚直なものであった。

 まずは、自分の身近にあるものを題材にしようと思い、当時飼っていたメダカを題材にした「メダカのキモチ」、海沿いの町に住んでいるので、海を題材に書いてみたいと思って作った「海の声が、聞こえるかい?」そして、丁度お盆の時期に書こうと思い立ち、自分としては初めての長編となった「一瞬の夏」。

 この「一瞬の夏」を連載している最中、ぼくがフォローしていない作家さんからコメントが付けられていた。

 その作家さんはぼくなんかよりもずっと多くの作品を書き、何十万字にも及ぶ長編を書き、星印の数はどの作品も100以上をマークしていた。作家さんが書いていたエッセイを読むと、強烈なほどの個性やポリシーがあり、ぼくには到底及びもしない強固な世界観を作り上げていた。そんな方からコメントを頂けるなんて、夢のようであった。完結後には、レビューまでいただいてしまった。

 この経験が、その後の創作活動に影響を与えたのは事実であった。


 そしてぼくは、当時開催されていた「カクヨムコン」にも応募した。

 自分の実力がどこまで通じるか、試してみたくなった。

 その後押しをしてくれたのも、「一瞬の夏」でレビューして下さった作家さんだった。ぼくは短編数作品を投稿し、一作品が中間審査を突破した。初めて自分の書いた作品が認められたことは、大きな自信になった。

 そして「カクヨムコン」で、ほくは個人的に興味を惹かれた多くの作品を読み、このことは多くの作家さんと出会い、交流するきっかけにもなった。

 この時ぼくは、自分の書きたいものを「カク」だけじゃなく、他の作品を「ヨム」ことも自分の作品力を上げるために必要であると感じた。

 コメントを付けた作品の作家さんから逆にぼくの作品にコメントを付けてくれたり、自分の作品を客観的に見ることもできるようになったし、どうしてこの作品は多くの読者を惹きつけるんだろう? って、研究するきっかけにもなった。


 そして気が付くと、ぼくはカクヨムを始めて3年ちょっとの間、実に多くの作品を投稿していた。

 まだまだ未熟で、星マークの数も少ないけれど、いただいた分だけ自分の励みになっていると感じている。

 そして、ぼくの作品にコメントやレビューをして頂ける作家さんの言葉には、ここまで強く背中を押してもらってきたような気がする。

 カクヨムの作家さんには本業も作家では?と思しき人も、プロを目指す人達も、主婦やぼくのようなサラリーマンも、そして中学生や高校生もいる。

 みんなが同じ環境で、同じように作品投稿を楽しんでいる。

 そしてみんなが「カク」ことも、「ヨム」ことも楽しんでいる。

 ぼくが好きな曲に、ルイ・アームストロングの「What a wonderful world~この素晴らしき世界~」があるが、創作好きな自分にとって、このカクヨムという場所はまさしく”素晴らしき世界”である。

 幼い頃や若い頃のあの楽しかった思い出を、この素晴らしき『カクヨム』という世界で再び体験できたことに心から感謝したい。

 そして、ぼくのまだまだ未熟な作品達に、多くの方が評価やコメントをしてくださっている。そんな皆さんへの返事に、ぼくはいつも「ありがとうございます」と付けさせていただいている。

 これからも、この気持ちを忘れずに、多くの作家さん達とカクヨムで切磋琢磨していきたいと思う。


※ちなみに幼い頃にお互い描いた絵を見せあった弟は、今でも趣味としてデッサンを習い、たまに絵を描いてるみたいです。


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