第14話 ウェルダン・ウィッチは明日も煌き。
「あ、あの——皆さん‼」
「「「「……?」」」」
「先程は本当に申し訳ありませんでした‼ 私、皆さんの事を……危うく殺してしまう所で」
「私……私は……」
「そういうのいいから。アタシら、アンタを迎えに来たんだ。それなりの怪我くらいする覚悟はあったさ」
「ひひっ⁉ わわわ私はは……スススキマの中でで見てるだけのつもりででした……けど、ととと友達、ですからら……けけけ怪我もしてませんししっ‼」
「……クライスラーやディンナの言う通りだ。そして——我も念願であった魔の頂きの片鱗を垣間見れた……ふっ、文句など言い様も無い結果だ」
「そうだキリアさん‼ キリアさんって今日から学生寮で生活するんだよね? 私も寮で生活してるから案内させてね‼」
「皆さん……」
「アタシは、次はアンタらを止められるくらい強くなりたい。その……魔導っての、今度ちゃんと教えなよ」
「我が盟友は魔人である。そして奇人だ。ふふっ、これから如何ほどに魔の深淵と友との騒乱に身を浸す事になるか……きっと楽しみは尽きないだろう」
「わわわ私もも……え、あいや……なんでももないです……ひひっ‼」
「「「いや、なんか言えよ」言おうよ」言うべきだろう」
「——……」
「……ねぇルーガス。別に無理に教職に着かなくても良いさね。あの賭けはイカサマだった。それに気付かないアンタでも無いだろうがね」
「……黙ってな、クソババア。私は負けた、そんな駄目な女で構いやしないさ」
「愛想尽かしてアタシの元から離れた方が、あの子も気張ろうとするだろうよ。スラム育ちのアタシもそうだったからね、そういうやり方が一番だって思っちまう」
「ふっふ。確かに、アンタほどの反面教師はそうは居ないねぇ」
「——ああ、そうだルーガス。もし次、ババアにクソを塗ったら百次元向こうに送り込んでやるからね」
「ふーっ。たかが百秒で帰って来れる距離、脅しにもならんねクソババア。あの魔導兵器を壊すのにアタシら利用しやがって、この借りは高くつくよ。覚えときな」
「ふん……学院は全面禁煙だからね。そっちこそ肝に銘じておきなよ。それから遺跡の修復代と弟子が壊した正門の修復、アンタにはその分キッチリ働いてもらうからね」
「……アンタの何処が『善』の魔女なんだか、未だにアタシにはサッパリ解かんないよ」
「アタシは遺跡に置いてきた酒を取りに行ってくるから、さっさとあの馬鹿弟子を連れて帰りな。オルマテリア」
「あっ‼ 師匠‼ 何処に行くんですか⁉」
「ちっ……本当に空気の読めないガキだね‼ ちょっとションベンに行ってくるだけさね‼ 朝から酒飲んでりゃ、そりゃ随分溜まってるって話さ‼」
「そこは花を摘みに行くとでも言いなよ……アンタにゃ似合わん言葉だがね」
——。
「師匠……逃げ出さないでしょうか。心配です」
「うーん、たぶん流石に、きっと大丈夫なんじゃないかな……所でさ、キリアさん。あの魔族の二人はどうしたの? もしかして——……」
「え、ああ……あの二人ですか。私と師匠の勝負に巻き込まれて瓦礫の下敷きになったんじゃないですかね。直接は殴ってませんし、たぶん生きてますから大丈夫ですよ」
「……なんつーか、悪い奴なんだろうけど可哀想だな」
「あんなのに同情は駄目ですよクライさん! 特にクライさんは実害を受けているんですから!」
「因果応報……時に——我が盟友クライスラーよ。今更ではあるが、バフォメットに打たれた箇所は無事なのか?」
「ひひっ、わわわ私……すす少しなら治癒ゆ魔法うう……つかかかえますけどどど……」
「いいよ。死ぬほどの痛さじゃねぇ……アタシのも因果応報って奴なんだろうし……」
***
「な、なんとか……助かりましたね……ボロイ様」
「うむ……一時はどうなる事かと思ったがな……」
「申し訳ありませんでした。私の監督が行き届かないばかりに、中級悪魔が友人を傷つけ、キリティア嬢の機嫌を損ねる結果に——」
「いや、そもそもキリティア嬢に汚名を与える作戦自体に問題があった……どんなに人間社会からはじき出されようと彼女にはルーガス・メイジという規格外の居場所があるのだからな」
「君に彼女らの性格や関係性を的確に把握させぬまま、確認を怠り作戦指揮を一任した私の不手際だ」
「いみじくも、拳の魔女の指摘通りにな……」
「——拳の魔女、噂以上に異常な人物でした。まさか指を動かす事すらままならないとは……」
「一度、魔王城に戻り報告をせねば……今回の致命的な失態、恐らく私の処分は免れんだろうが、君はこれを教訓に次の機会に備えたまえ」
「そんな‼ 今回の失態は全て私の未熟さ故に——ボロス様のお優しいお言葉ですら私には勿体ない……今回の処罰は私が全て受けます。いえ、受けるべきなのです‼」
「ねぇ——アンタらさぁ……」
「「⁉ るるるルーガス・メイジ‼」」
「もう魔王なんかに仕えるの辞めて、駆け落ちでもしなさいな。行く当てが無いってならアタシんトコのホームで暫く匿ってやるさね」
「……な、なにを申します‼ 我らが偉大なる魔王様を裏切るなどある訳がない‼」
「でもねぇ……キリティアは、アンタんトコの魔王に一ミリも興味ないどころか、嫌ってすらいるんだよ? どうやったってあの魔王の満足の行く結果にはならんと思うがね」
「それだけは、まかりなりません‼ キリティア様は……あの無欲な魔王様が初めて心より欲せられたお方‼ 如何なる手段を用いても我らの王の妃として迎えさせて頂きます‼」
「——……如何なる手段を用いても、かい?」
「ぁ……」
「あまりアタシの癇に障る事を、言い間違いでも言うんじゃないよ……」
「今回の件だって、ガキたちの手前……割と我慢して穏便に済ませようって話にしたんだ」
「なんでも酒の席の与太話で済みゃ、世の中こんなに楽で平和な事は無い……違うかい?」
「ち、違いありません……」
「……まぁいいさ。次は寸止めじゃ済まないって事だけは言っといてあげるよ、ボロイ」
「それから……魔王に伝えときな。酒は確かに貰ったが、惚れた女を酔わせるのはアンタ自身だってね」
「……は、はい。確かに、承りました」
「まったく……手間の掛かる可愛い弟子だよ。二、三日くらい仕事サボったって許されると思うんだがねぇ……」
「ぷはぁ——良い日和だ。酒が旨いったら無いよ」
「入学オメデトウ——馬鹿弟子」
その時——赤髪の魔女は震えた。長い旅路の終わり、一陣の風に震えた。
その風が冷たく感じたのは——きっと風が冷たかったのではなく、彼女の心が様々な人の温もりで満たされていたからに違いない。
心に温かな灯が通る——ウェルダン・ウィッチ——じっくりと明日の煌きの中で彼女は更に強く優しく成長していく事だろう。
完。
ウェルダン・ウィッチ 紙季与三郎 @shiki0756
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