第2話 猫カフェデートと二人の関係

「いつもの猫カフェ!」


 こうちゃんに一息にそう言ってみた。


「ああ、「エスプレッソ」ね。賛成、行こう!」

「こうちゃんは、なぎささんが目当てだったりしないよね?」


 渚さんは、私達の近所に住んでいる十歳程年上のお姉さん。

 昔からの知り合いであり、猫カフェ「エスプレッソ」の店員さん。


「そんなことはないって。渚さんは、昔からだから気安いだけ」

「それならいいんだけど」


 私も本気で心配してるわけじゃない。

 単に、どういう反応をするか試してみたいだけ。

 でも、お付き合いするようになってからというもの、こういう物言いにも全然動揺しなくなっちゃった。彼女としては嬉しいんだけど。


◇◇◇◇


 というわけで、午後の授業をねむねむの頭で聴いて放課後。

 私達は、猫カフェ「エスプレッソ」に来ていた。


「どうも、いらっしゃいませー。って、宏介君と風香ちゃんか」

 

 渚さんは、同性の私から見ても、とても綺麗で、物腰柔らかな人だ。

 長く伸ばした髪が、メリハリのついた体型にあってて、羨ましい。

 私はどうにも寸胴ずんどうというか、身体つきにはそんなに自信がない。


「もうちょっと接客、ちゃんとしてくださいよ」

「でも、宏介君たちも、かしこまられるより、こっちの方がいいでしょ?」

「それはそうですけど」


 こんな掛け合いもいつものこと。

 というわけで、前払いで支払いを済ませて、猫ちゃんたちが居る幸せ空間へGO。


「あー、幸せ。猫ちゃんってなんでこんなに癒やされるんだろ」


 癒やしオーラを体全身に浴びている気分。

 こうちゃんと抱き合っている時とは、また違う良さがある。


「僕も同感だけど、寛ぎ過ぎ」

「今の時間帯、他にお客さん居ないからいいじゃない?」

「それはそうなんだけどね。って、ダージリン、僕に登ろうとするのはよして」


 必死でこうちゃんをよじ登ろうとしている様子を見て、笑ってしまいそう。

 猫ちゃんたちには、コーヒーや紅茶関連の名前が付けられている。

 

「こうちゃんは、猫ちゃん人気が高くて羨ましいよー」

「ほんと、なんでだろね。って、アッサム。やめてやめて」

「こうちゃんの様子だけで癒やされそう」


 実のところ、この猫カフェに通っている理由のもう一つはそれだ。

 猫と戯れているこうちゃんを見ているだけで、和む。


「癒やし系というなら、僕よりも風香の方でしょ」

「そこ、未だに実感が湧かないよ。普通にしゃべってるだけなのに」

「声質かな。風香と一緒にいると、やっぱり落ち着くんだよ」

「それは、こうちゃんも?」

「僕は……昔から癒やされて来たかな」

「嬉しいこと言ってくれちゃって」


 少しだけ照れて、こういう言葉をくれると、ほんわかとした気持ちになる。

 こうして、猫とこうちゃんと戯れる至福の時間は過ぎて行ったのだった。


◇◇◇◇


「楽しい時間は、過ぎるのが早いもんだね」

「うん。もっと居たかったよー」


 結局、二時間滞在してたっぷり猫ちゃんたちと戯れてしまった。

 夕暮れの秋空が、もうすぐ夜になることを知らせてくれている。


「でも、幸せ♪」


 少し寂しい気持ちを埋め合わせるように、顔を寄せてみる。


「うん。僕も」


 それだけ言って、黙って抱き寄せてくれるのが心憎い。


「でも、私達、いつからこうだったのかな」


 こうちゃんにプレゼントしてもらったペアリングを見ながら、ふと、気になった事を聞いてみることにした。


「お付き合いがってこと?」

「うん。別に、告白もしてないし、付き合おうか、とかも言ってないよね」


 でも、私達がしている事は紛れもなく恋人同士の行為だし。


「うーん……いつからだろ」


 何やら目を閉じて考え込んでしまった。


「たぶん、毎朝、ハグするのが当然みたいになってからかな」


 続けて、


「あれって、何かきっかけってあったっけ?」


 こうちゃんに問われて思い出そうとしてみる。

 初めてハグした時……ハグした時……あ!


「確か、最初にした時は寝ぼけてたんだ!私!」

「ええ?あれ、凄くドキっとしたのに。寝ぼけてたの?」

「何となく、抱き枕に抱きつくみたいな感じだった……かも」


 記憶が曖昧だけど、そんな気がする。


「僕は、あれで、僕からしてもいいんだ、って思ったんだけど」

「私も、元々、いつでもして欲しかったよ?だから、嬉しかったな」


 わざわざ毎回は言わないけど、朝のあの時間は私にとって至福の一時。

 そのきっかけが、私が寝ぼけて、だとは苦笑いしてしまう。


「そっか。まあ、結果オーライっていうことで」

「そうそう。結果オーライ」


 しばし、私達の間に沈黙が満ちる。でも、苦にならない。

 

「ところで、恋人同士ですることで、なんとなくためらって来たことあるんだけど」


 ちらと私を見つつ、恥ずかしげなこうちゃん。


「まさか、エッチなこと?さすがに段階は踏んで欲しいんだけど……」

 

 と言いつつも、そんな事じゃないのはわかってる。


「そんなわけないでしょ。キス、だよ」

「き、キス。そう、だよね」


 わかってはいてても、少しドキっとしてしまう。

 でも、私もなんとなくタイミングを逃していただけだった。

 なら……。


「ん」


 ギュッと、彼を抱きしめて、顔をついと近づける。

 流れに任せるまま、目を閉じると、ちゅ、と小さな音がした。


「ふう。キスって言っても、意外と平気、だったね」

「そんな事言って、こうちゃん、顔赤いよ」

「風香もでしょ」


 ハグが癒やされるとしたら、キスは逆に興奮する気がする。


「もう一度、してみる?」

「ああ」


 今度は、もう少し感触を味わおうと、舌でも触れ合ってみる。

 身体が熱くなって、ドキドキが激しくなるのがわかる。


「キス、初めてだけど。なんだか、凄くいい」

「ハグみたいに、毎朝はさすがに、僕は心臓持たないんだけど」

「ええ?私は、してみたいなー」


 慣れるまで、しばらくかかりそうだけど。

 そこまでしてくれたら、もっと幸せな気分になれそう。


「わかった。色々、勉強しとく」

 

 何赤くなってるんだろう。


「勉強って……こうちゃんの、むっつりスケベ」

「上手く出来た方がいいでしょ」

「上手いとか下手とか気にしないよー」


 いや、本当に。


「でも、僕としては、上手くしたいし」

「こうちゃんも、変なところ、頑固なんだから」


 でも、こうちゃんなりに、私を幸せにしたいんだろう。

 もう、十分幸せだけど、その心遣いが嬉しい。

 だから。


「大好き。こうちゃん」

「僕も。大好き、風香」


 たぶん、初めてになる、告白の言葉をお互いに送りあったのだった。


☆☆☆☆あとがき☆☆☆☆

ある意味進みすぎた(?)二人の物語でした。


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☆☆☆☆☆☆☆☆

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告白してないのに、気がついたら幼馴染と恋人になっていた 久野真一 @kuno1234

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