告白してないのに、気がついたら幼馴染と恋人になっていた
久野真一
第1話 告白もしてないのに、実質恋人な彼ら
「ふう……これで、今日の弁当は出来た!」
僕、
先程まで作っていたのは、幼馴染である
こうして、週に一回、持ち回りでお互いのためのお弁当を作るのがいつしか僕たちの間での暗黙の約束になっていた。
「今朝はまた、お弁当作ってたの?」
朝食の席にて、母さんからの質問。
「そ。週一回の例の日」
「そういうの、微笑ましいわねえ」
「風香も喜んでくれるし、僕も料理の腕を磨けるし、Win-Winだよ」
もちろん、それだけじゃないけど。
「お付き合いは自由でいいけど、節度は弁えるようにな」
と父さん。
「別にふしだらな事はしてないよ。健全なお付き合いだよ」
言ってて、僕たちのお付き合いというのも不思議だと思うけど。
「なら、いい」
こうして、いつものように朝食を終えたら、次は風香の事だ。
【風香ー。起きてるー?】
ラインでメッセージを投げてみるけど、反応がない。
仕方ない。音声通話をタップして、反応を見る。
「ふわぁー。どちらさまですかぁ?」
「僕だよ、僕」
「僕々詐欺なんて初めて聞いた……」
「僕々詐欺って何言ってるの。それ言うなら俺々詐欺でしょ」
「ネタにマジレスしないで欲しいんだけど、こうちゃん」
「……」
「とにかく、おはよう。こうちゃん」
こうして、風香のモーニングコールをするのもいつものこと。
寝起きの舌っ足らずな声が可愛らしい。
「風香、そろそろ起きないと」
「こうちゃんが起こしに来るまで寝てるー」
「君ねえ。じゃあ、十分後くらいに行くから」
「うん。それじゃあ、待ってるー」
通話が切れた。すっかり、僕が来るのが前提だ。
僕もこんなやり取りが好きなんだから、仕方がない、か。
登校の準備を整え、「いってきます」と家を出る。
風香の部屋は僕の住む7Fの一階下。
階段で下ってわずか一分足らず。
「一文字」の表札があるドアのインターフォンを鳴らして返事を待つ。
「おはようございます。宏介です」
「はい、一文字ですけど。こうちゃん、いつも悪いわね」
「いえ、いいんですけど、
「そうね。あなた達の間の特別な呼び名だものね」
「……」
図星を突かれてしまった。
全く、家庭同士の付き合いが長いと色々と筒抜けで困る。
いつものように、風香の部屋の前に立つ。
「おはよう、風香。起こしに来たよ」
「うーん。眠い。直接、起こして?」
「はいはい」
受け流して、扉を開けると、すっきりと整理整頓された部屋。
風香は昔からあまり物を溜め込まない方だ。
ベッドの他には勉強机に、化粧台、など最低限のものしかない。
つかつかと歩いて、風香の元に歩み寄る。
彼女は、穏やかな寝息……いや、起きてるから狸寝入りか。
そんな様子で、呼吸に合わせて胸を上下させていた。
秋も深くなって来たので、冬仕様の厚手のパジャマ。
猫があしらわれているのは、猫好きの彼女ならではか。
整えられていなくて、ぼさぼさのセミロングの髪も可愛い。
胸はやや小さめ(本人談)だけど、気にしないでいいと思う。
女子にしては少しちっちゃ身長の彼女は、寝ていると、何時にも増して
愛らしい。
僕に気づいたのか、のっそりとした動きで、彼女が身を起こした。
「んー。ハグー」
まだ寝起きのぽやぽやした声で、手を大きく広げられる。
「はいはい」
パジャマ姿の彼女をぎゅうっと抱きしめる。
朝のこの瞬間は、とても心が満ち足りた気持ちになる。
「んー。やっぱり、癒やされるー」
目を閉じたまま、幸せそうな声だ。
「昨日、テレビで見たんだけど、ハグには免疫力高める効果があるんだって」
「眉唾じゃない?」
「そうかも。でも、ハグして悪いことはないよねって」
「こうちゃんは回りくどいんだから」
「別にいいでしょ?」
「いいけどね。そういうところも可愛いし」
こんなやり取りが、ここ一年以上続いている気がする。
◇◇◇◇
「「おはよー」」
2ーCの教室に、二人揃って入って、元気よく挨拶。
教室の一番後ろにある席に、隣り合って座る。
「ふわぁー。私、授業始まるまで寝てるから。あと、お願い」
「はいはい」
くたっと突っ伏してしまった風香。
「風香ちゃん、フリーダムよね」
声をかけて来たのは、高校からの友人である
穏やかな性格で常識人なので、風香の扱いにいつも苦労している。
「昔からそうだったし、今更変わるものでもないよ」
「そうね。今の席も、私と交換したものだし」
「風香の奴がごめんね。一番前の席って、先生に当てられやすいのに」
最後列の席で隣同士になっている僕と風香だけど、偶然ではない。
最前列の席になった風香が、祥子ちゃんと席交換を持ちかけたのだ。
理由は……僕と隣同士の席がいいから、だそうだ。
「いいよ、いいよ。風香ちゃんの幸せそうな顔見てるの嬉しいし」
「だね。本当、寝顔まで可愛いんだから」
すやすやと風香が寝ている様子を眺める。
ゆったりとした呼吸で、安らかな寝顔を見ていると、とても落ち着く。
「なんか、いいよねー。宏介君と風香ちゃん」
「何が?」
「ずっと仲良しなところが」
「祥子ちゃんとも仲良くしてるつもりだよ」
「そういう意味じゃなくて……宏介君みたいな彼氏が居たらなーって」
「祥子ちゃんは誰か好きな人いないの?」
「居るんだけど……別の高校なのよね」
「そっか。少し大変そうだね。ガンバ!」
「勝ち組に上から目線で慰められても」
冗談半分で言われるけど、今の僕たちはクラス公認カップル。
僕たちの関係は自分で言うのもなんだけど、不思議だ。
お互いに告白したわけでもない。
お付き合いしましょう、という宣言があったわけでもない。
いつの頃からか、スキンシップや、二人きりでのデートが増えて。
なんとなく、「付き合ってるっぽい」間柄になっただけなのだ。
でも、今更「僕たち、付き合ってるよね?」と聞くのも馬鹿らしい。
◇◇◇◇
淡々と授業を受けて、今は昼休み。
「じゃ、お昼たべよっか。風香」
と言ったのだけど、首を振って、教室の外を見る仕草。
ああ、なるほど。
「おっけー。空き教室で、ね」
実質、公認カップルだというのに。
ま、だからこそ、二人きりでということもある。
「はい、風香。おべんと」
「今日の献立は?」
「ご飯に唐揚げ、レタスのサラダに卵焼き、って感じかな」
「唐揚げとか時間かかるのに、ありがとね」
ニッコリと微笑んでお礼を言われると、いつもの事でも嬉しい。
「風香が作って来る時も、手間かかるのあるでしょ。お互い様」
少し恥ずかしい気持ちになりつつ、ご飯を食べ始める。
「うん。おいし!唐揚げ、前より美味しくなってない?」
「そうかな?僕なりに色々勉強はしてみたけど」
「うん。本当、美味しい!前よりジューシー!」
和気藹々と、あっという間にご飯を平らげてしまった。
僕もだけど、彼女もご飯を食べるのが早い。
「ごちそうさま。美味しかったよ、こうちゃん」
「いえいえ」
「それで……お礼、してあげたいんだけど?」
ニヤリと小悪魔めいた笑みの風香だけど。
「風香がしたいだけでしょ。それ」
「むー。こうちゃんはしたくないの?」
「いや、そりゃ、したいけど」
「じゃあ……」
席を立った彼女に後ろから抱きしめられる。
「こういうのは、さすがに教室じゃ出来ないよね」
吐息が首にかかって、少しくすぐったい。
後ろから抱きつかれるのは、また違った良さがある。
首元に寄せられた顔とか、色々。
「バカップル認定間違いなしだろうね」
「うん。別にバカップルじゃないと思うんだけど……」
「いや、絶対、バカップルだと思う」
しばし、二人きりの時間を過ごした後。
「あ!午後の授業まであと十分!」
腕時計を見て、何やら気づいたらしい。
「じゃ、そろそろ戻ろっか」
「うん。って、あ、そうだ!」
「どうしたの?風香」
「放課後、デートしない?」
「デート?いいけど、どこに?」
これまで、デートは色々なところに行って来たけど。
「いつもの猫カフェ!」
満面の笑みを浮かべて、風香はそう言ったのだった。
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