ダレカ

よすが 爽晴

俺は犬派だから

「……これ、俺のスマホじゃない」

 きっかけはそんな、本当だったらもっと早くに気づくべき内容だった。

 全く同じ機種の、全く同じ色。カバーをつけていないからこそ気づかなかったそれは、外装こそ俺のだけど明らかに中身が違う。だって俺、よくよく考えればロック画面も猫じゃないし。

 パスワードのかかっていない画面を撫でながら、すいとホーム画面を立ち上げる。普段と変わらないはずと思っていたのに、思い出すとこの並びもなんだか違う。なるほど、俺はどうやら趣向の似ている人とスマホが入れ替わってしまったらしい。

 ひとまず、このスマホの持ち主を探さなきゃ。探して、戻さないと。部屋の明かりを付けながら、俺はスマホの画面を眺めた。

 まずは個人情報が載っている設定部分。ここに自分の名前が書かれている場合があるから。元の機種は同じだから操作には苦労せずに、画面を進んでいく。

 開いた先書かれていたのは、『みるみるのスマホ』という言葉で。なるほど、このスマホはみるみるさんの――

「いや、明らかに偽名だろ」

 いわゆるハンドルネームだろう、人の名前とは少し考えにくい内容に方を落とし次の一手を考える。 

 SNSもみるみるでやっているこのスマホの持ち主は、どこにも個人を特定できるようなものがなかった。パスワードがかかっていない辺りは不用心だなと思ったけど、ここまで情報がないと徹底してるようにも思えてしまう。

「後は……」

 もう手はない気持ちだ。IMEIから確認するためにキャリアショップに持っていくかと考えたけど、確か本人しか受け付けてもらえないはず。かと言って交番がテッパンだとは思ったけど、今回はただの落し物ではないのだからそれでは俺のはどこにいったのだという話になる。

「どうするかなぁ」

 人様のスマホを、ふざけながらタプタプと操作する。

 特段個人情報も手がかりのないスマホが、ここまでくるとなんだか不気味に思えてしまう。

 だって、そもそもの話だがこの人の生活感が見えてこないから。捨て垢のSNSと、登録が誰もされていない電話帳。なんだろうか、背筋を冷たいものが流れていく。顔が見えないのはもちろんだけど、交友関係もわからない。

「もしかして……」

 ふと考えて、俺もやっているゲームを開く。

 すべて同じラインナップのそれに不気味さを覚えながらも開くと、どれもやり込んでいないチュートリアルの段階やそれ以前に開いてすらいないのか利用規約の画面が出るものもあった。なんだよ、それ。じゃあ、このスマホの持ち主はやらないゲームを入れていたのか。

 そんなまさか、俺と同じゲームを。

「……えっと」

 他でもない俺自身が、なにかがおかしいと叫んでいる。わかっている、わかっているさそんな事は。

 若干の恐怖の中で試しに他のアプリを見ても同じようなものばかりで。

「なんだよ、これ……ん?」

 他に、他におかしい事はないか。

 そう思うと、あるアイコンがついているのに気づいた。マップの位置情報を示すアイコンと同じそれは、スマホにほとんど搭載されている機能。

「GPS、ついている……?」


 ピンッポーン


「…………」

 一瞬が、長い静寂に感じる。

 誰だよと思いつつ、ゆっくりと。

 恐る恐るインターホンのモニターを見ると、そこにいたのは俺と同じスマホをカメラに向けながらにこやかに笑う女性で。


「みーつけた」


 これはスマホに言った言葉か、それとも――

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ダレカ よすが 爽晴 @souha

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