第二章・主観と客観(五)
「このクンジアさんは、市外の闇市に行くのは初めてではないでしょう?彼女は用心棒を雇ったことがないですか?」
「いいえ、今回は特別な状況だから、彼女はお前の助けが必要だと考える。しかも、お前を闇市へ現地調査に行かせたほうがいいと思う。わたくしはクンジアを信用できんから。」
ヴワディスワヴは溜め息をついた。彼にとって闇市というのは馴染みのものだが、彼はもう自由に闇市に入る身分を失った。そこで前の仲間たちに遭ったら…と彼は心配している。
この任務がまたヴワディスワヴの仕事になった理由は、アルドナは保安官として彼より闇市へ行きづらいから。しかも、偽装の技と言えば、スルツクではヴワディスワブの右に出る者はいない。
「また偽装の時間ですね。ちょっと考えます。どうやって自分を凶悪な様子に扮して、闇市の商人と他の客が私を注視することを避ければいいのか…」
「できるだけ沈黙を守ったほうがいいわ。お前は辺境のアクセントを持っておるから、ちょっと油断すると、他のやつらに疑われるのじゃ。」
「確かに。できるだけ他のやつらと話さないのは上策です。」
ヴワディスワヴは一個の爆弾をポケットに入れた。その爆弾は「砂漠の風」といい、効果は強い熱風を放出して敵の目を開かないようにするのだ。大量の敵に遭う際、逃げたいなら役に立つものだ。
「もっと裏袖の矢を仕込み武器として持って行ったほうが安全です。」
ヴワディスワヴは何本かの裏袖の矢をベルトの袋に入れた。
「ヴワデク、わたくしが闇市を捜査した時、気持ち悪いところだと感じたが、長い時間闇市にいて大丈夫なの?」
「極東には気持ち悪い所が沢山あるのですが、それはもう私の生活の一部になっています。」
ヴワディスワヴは言いながら、コートを着て軍刀をベルトに付けた。
「あのクンジアの監視をお望みですか?」
「まだ彼女は信用できぬ。でも、始終彼女を見る必要はない。闇市でできる限りコニチ家族の情報を探すのが一番重要じゃぞ。」
「承知しました。では、クンジアさんのほうへ向かいますね!」
ヴワディスワヴはクンジアの工房に来た。工房は三階建てで都心部に位置するので、見るとこれは普通の市民が住めないほど良い家だと分かる。
「ごめんください。」とヴワディスワブはドアを叩いた。
「はい、誰ですか?」
「アルドナ様が私をここへ来させたのです。」
「よかったです。お入りください!」
ドアが開いた途端に、ヴワディスワブはクンジアの赤い髪に目を奪われた。朝の日差しに当たる赤い髪はまるで燃えている焔のようだ。
「こんにちは。クンジア様、私はヴワデクと申します。アルドナ様の僕です。今日、衛士を務めさせていただきます。」
「こんにちは。ヴワデク。うちは貴族ですけど、クンジア様と呼ばれるとちょっと恥ずかしいから、名前だけでいいですよ~後で、アルドナ様にうちの感謝を伝えてください。」
クンジアは言いながら、ヴワディスワヴを連れて工房に入った。一階には革製の服、鎧、手袋など様々な革製品が置いてある。
クンジアは外見上ヴワディスワヴより年上だ。しかし、彼女は若い下僕に対しても敬語を使っている。これは貴族らしくないことだ。
「出発の準備はもう終わりましたか?」
「もうすぐです。売り物以外、私も武器を携えます。あとは防具を着るだけですわ。」
この時、若い妖精は目の前の美女が服を着ても存在感を隠せない巨乳を持っていることに気付いた。彼女の胸を観察せずにはいられなかった。
クンジアの胸は位置が高くて張りがあるようだ。下乳は特に豊かで前に突き出している。まるで自身の存在を見せびらかしているようだ。ヴワディスワブは股間が熱くなってしまうと感じた。
「ヴワデク、うちは奥の部屋に行って防具を取ってきます。ちょっと待っててください。」
「あ、あ…はい。」
ヴワディスワヴは太ももを叩いて、自分に冷静さを保て!と言い聞かせた。エウフェミアとアルドナと長く付きあっているおかげで、彼は一般的なスタイルの良い美女に対しては、もう抵抗力が身に付いている。しかし、クンジアの巨乳は美しすぎて、エウフェミアに勝るとも劣らないほどなので、抑えていた性欲はすぐに高まってくる。
今日は旅館に戻った後、性欲を処理しないと…と考えたヴワディスワヴは体力を無駄にしたくないが、我慢はもうすぐ限界になりそうだ。
「はい、準備できました。行きましょう。」
胸から太ももまで茶色の革製の鎧を着ているクンジアが部屋から出て来た。ヴワディスワヴはちょっと彼女を観察した後、話し始めた。
「申し訳ありませんが、クンジアさんが着ているのはただの革製の鎧ですね。それはルインに強化されたものであっても、防御力は足りません。」
「闇市は確かに危ない場所ですけど、そこでは全身に鎖帷子や板金鎧を着ているお客さんはいませんわよ。」
「いえ、私たちは更にデザインが良い鎧を持っています。」
ヴワディスワヴはコートのボタンを外して、裏側に縫いつけてある鋼鉄の小札を見せた。
「このコートは三層のタイプです。外層はなめし革、第二層は棉、裏は鋼片が付いています。それで多くの攻撃が防げる上に、他人の目も惹きません。」
クンジアは顎を触りながら、この格別なコートを見詰めている。
「うん、これらの鋼片はちょっと大きいから雑な感じがするが、縫い方は繊細ですね。鋼片が壊れてもすぐ替えられます…」
「このような薄片鎧を持っていますか?なければ、チェイン・シャツもいい選択です。」
「いいえ、私は防御力より速度を重視していますから、革製の鎧だけでも色んな敵と戦えます。」
「どの武器が使えますか?すみません、守る相手の武術のレベルを把握したいですから。」
「基本的には、軍刀、長剣、ハンマーを使うのは問題ないです。うちは民兵隊に参加した経験がありますよ!」
「承知しました。それでは、自衛のために兵器を二つ持って行ってください。それ以外にも闇市のやつらと交渉したことがありますか?」
「はい、あいつらがどんな者かと分かっていますわ。」
クンジアは自信満々な笑顔を作りながら、軍刀とハンマーを腰に付けた。
「あまり心配する必要はないわ。お金が稼げる時に喧嘩したいやつは極少ないです。」
「私たちはどうやって闇市に行けばいいですか?アルドナ様の馬車にでも乗りますか?」
「いいえ、馬に乗ればいいですわよ。うちはポニーを飼っています。」
「私は馬で来たので、クンジアさんが荷物を準備できた後、闇市へ向かいましょう。」
疑わしい少女と再会するヴワディスワヴ
クンジアさんが乗ったポニーは、大きさは私の馬の半分ぐらいだが、ちょっと見てもそれが値段が高い名種馬だと分かった。多分ゼマギティヤかツーキヤから買ったものだろう。こういうポニーは背が低くて小さいが、森林と沼を走ることに優れていて、体力もある。
今は朝八時ぐらいだ。吸血鬼の血を持っている住民たちはもう家に帰る途中だ。私たちは守衛に「狩りに行く」という嘘を吐いた後、守衛は疑わず私たちを外へ行かせた。
「次はうちが道を案内しますね。北西の森林へ進みましょう。」
「はい、お願いします。」
私の予想通り、昨晩の雨で道はもうジメジメしているが、ポニーはあまり影響を受けず軽快に走れるようだ。それは私の大きい馬にはできないことだ。
「森林に入った後、私たちは秘密の道に沿って洞窟に行きます。闇市は洞窟の中に。」
「この森林では何か危険な怪物がいますか?」
「いるはいるが、深夜にしか現れません。しかも、闇市の商人たちは昨晩安全地帯を作ったでしょう。」
「闇市の商人たちは確かに安全を重視していますね。良い集会所は見つけにくいですからね!」
私たちはやっと闇市の洞窟に着いた。途中で二体の愚かな森林トロールが樹叢で涼んでいた姿を見た以外、本当に他の怪物には遭わなかった。
「暗号は?」
鉄門の後ろには凶暴そうな顔をしている屈強な男がいる。彼は血管が浮き出ている両手で二本の槍を持っている。この森林の野獣も彼を見たら、遠へ避けたがるだろう。
「闇市は闇の夜に開けない!」
「どうぞ。」
「あと、ウラジスラウのばかやろう!」
それを聞いて、私はビックリした。「ウラジスラウ」は私の本名の白ルーシ語での呼び名だ。クンジアはなぜ突然私を罵った?
あ…違う。彼女が悪口を言った相手は白ルーシの大公だ。彼は私と同じ名前だ。クンジアさんは大公に多くの税金を払わされたから、不満が溜っているのかな?
守衛は鉄門を開いた。その後ろは闇市かと思ったが、何もない。床にある木造の扉しか見えない。
クンジアさんは木造の扉を開いて、梯子を降りた。私は静かに彼女に従って降りた。
「壁のサインに沿って、迷子にならないように。」
ここの闇市の商人は、一体何を売っているのか?私はこんなに「安全な」闇市に来たことがない。
裏切りは私の身に付き纏っている 地獄公爵 @Kniazpolski
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