第二章・主観と客観(四) (裸の戦闘シーン有り)


 「ヴワデク、もう旅館に戻ったの?」


 ヴワディスワヴは入口でアルドナを待っていた。新しい情報を伝えることを待ちきれなかったから。


 「私は商館を少し観察しました。彼たちが売っている商品の中で、珍しい薬材と毛皮は少なくないです。そういうものを取りたいなら、反抗軍と協力するのが良い方法です。」


 「じゃ、次は彼らの仕入先を捜すってことじゃね…」


 アルドナの話が終わらないうちに、ヴワディスワヴは彼女に「待って!」というジェスチャーを作った。そして、彼は素早く走って、向かいの民家の屋上に登って行った。


 「逃げるな!私たちの話を盗聴していたか?」


 「誰と話しておるの…!!」


 アルドナは視線に集中して、やっと黒いマントを着ているやつが屋上に立っているのを見た。あいつは上手く街燈の光を避けて闇に隠れた。そして、彼はヴワディスワヴに発見された後、すぐ短刀を抜き出した。


 「お前は普通の泥棒じゃないみたいね…」


 ヴワディスワヴは目の前の敵を見続けている。身を低くして近づいてくる姿を。


 敵が斬撃してきた時、冷静な妖精戦士は迅速にそれを躱してパンチを打った。だが、敵はパンチを受け流した。二人は手と手を交えた後、少し後退った。


 アルドナはヴワディスワヴの腕が冷たく光を放ったのを見た。さっきの彼のパンチはただのパンチではなく、鋭い手裏剣の刺撃だった。敵の腕にはもう血痕が付いた。


 「さすがヴワデク…攻撃の動作が軽くて精確じゃ。狭いところではそう戦えばいいのじゃ!」


戦う時、足捌きも手の動きも重要だ。しかし、屋上では足を踏める範囲が狭いから、少し油断したらバランスが崩れる。しかも、雨が降ったせいで屋上は滑りやすい。二人は短兵器で戦う時、全ての足捌きに気を付けなければならない。


 今、元素使いであるアルドナは一発のファイアボールか石の弾幕で相手を落とせる。しかし、ちょっと外れれば屋根を吹き飛ばす恐れがあるから、彼女はまずヴワディスワヴの表演を観賞しようと決めた。


 ヴワディスワヴは懐中から何かを取り出すと、閃光が二回走った。だが、黒い服の怪人は素早く跳び、そして、片脚立位で降りた。まるで鶴のように優雅に仕込み武器を避けた。


 アルドナは驚いた。ヴワディスワブの仕込み武器は彼女が弩の矢を改良した「裏袖の矢」だ。五メートル以内では速くて精確な仕込み武器のはずだが、敵はそれを避けられた上に、平気で屋上に立ち続けている。


 アルドナは集中して、焔の力を掌に集めている。


 ヴワディスワヴはまた裏袖の矢を投げた。今回は全く黒服の怪人に休む機会を与えなかった。敵が跳ぶのを見ると、彼は素早く近づいた。敵が降りた後、彼と敵の距離はもう一メートル以内になっている。そして、彼は次々とパンチを打って、敵の喉と胸を刺した。


 あと少しで黒服の怪人を傷つけられる…が、敵は後ろへ跳ねて攻撃を避けた。ヴワディスワヴは敵がマントの帽子の陰で口角を上げて遅いな~とばかりに嘲笑する顔を見た。


 黒服の怪人は頭を回してアルドナを見て手を振った。そして、縄が付いているフックを投げて、瞬間に三軒の家を飛び越えた。


 「そんなに容易く逃げさせると思うのか!」


 アルドナはあの挑発の動きに憤慨してすぐファイアボールを投げた。だが、黒い服の怪人は手でサインを作ると、ファイアボールは途中で爆発した。まるでエネルギーウォールにぶっつかったようだった。


 「それならば、大きいのを贈る!二個目のは無料じゃぞ!」


 「アルドナ様、ダメです…」


 二個目のファイアボールは更に強い上に、温度の高い黄色と白の焔が燃えている。今回、エネルギーウォールはもうファイアボールを止められなかった。爆発すると、一部の火花は黒服の怪人に飛び散って火を点けた。だが、彼は動きを止めず、体についた焔と共に遠くの闇に隠れた。


 「ちくしょう!やつのマントは火を防げるようじゃ!」


 「早く氷の魔法で、この辺りの建物の火を消してください!」


 ヴワディスワヴはこう予想した。ファイアボールが爆発して、近くの建物に火がついてしまうと。残念ながら、彼はアルドナを止めるのが間に合わなかった。この誇りを持つお嬢さんは、嘲笑されると、敵を炭化させたくなってしまう。


 「…冷たい風よ、わたくしの周囲で叫べ!」


 寒風はすぐ火を消したが、アルドナの心の怒りの焔は消せなかった。


 「申し訳ありません。私は敵を…」


 ヴワディスワヴはアルドナに謝ろうとしたが、止められた。


 「今回はわたくしの魔法がまだ未熟なせいじゃ。またあの黒まみれのやろうと会ったら、この手でやつを真っ黒に焦がしてあげるわ!」


 「私たちはもっと気を付けないと危険な目に遭います。誰かが私たちを監視しています。裏で操っているのは市長、或いはコニチ家族です。」


 「あいつ…まさか私が宴会から出た後、ずっと尾行しておったのか…?」


 この時、ベルの音が二人の耳に入った。そして、マスケットを構えている市衛兵が現れた。衛兵たちは念のためにアルドナたちと距離を保っている。直接銃口を向けてはいないが、既に銃を構えて、臨戦態勢をとった。


 「貴方たち誰ですか?なぜ深夜に元素魔法を使ったんですか?」


 「お前たちの市長の賓客で、スルツクの保安官であるアルドナですじゃ。さっき、盗賊に尾行されておりました。お前たちは市長にここの治安に心を配るように伝えるべきですじゃ。」


 「あの盗賊は身軽に屋根から屋根へ伝って行って、一弾指の間に消えることができますので、きっと老練家でしょう。」


 「分かりました。もっと詳しく説明してもらえますか?」


 「さっき、市長が開いた宴会から旅館へ戻ったところだったのじゃ。旅館の入口でわたくしの下僕は向かいの屋上に監視者がいることに気付きました。わたくしは魔法であいつを阻もうとしましたけど、あいつは逃げてしまいました。」


 アルドナはヴワディスワヴがあのスパイと戦闘したことを省略した。衛兵が彼を下僕かと疑うことを避けるために。


 「あの盗賊は黒いマントを着て、短刀を携えていました。フックで建物の間を飛べます。」


 「はい、承知いたしました。よろしければ、警備所へ行って通報してください。私たちは盗賊を捕まえるように努力します。勿論、市長様にも報告します。」


 「はい、行きましょう!」と言いながら、アルドナは手でおでこの汗を拭いた。彼女は強い魔法を使った後、ちょっと疲れを感じた。


 ヴワディスワヴとアルドナは、多くの戦争を経た戦士であっても、闇に隠れている敵に遭ったら、用心深く任務を行うほかにない。



 暗殺事件に遭ったエウフェミア


 昨日、私は魔法石でアルドナに注意事項を詳しく伝えた。今はラヨスが密輸入事件と掛かり合っているかどうか確認できないから。


 その上、私はまだ完全にヴワデクを信用できない。もし彼は過去の戦友と会えば、再び裏切るかもしれない。アルドナは私より他人を容易く信じるから、ヴワデクに注意し続けられるのか?


 でも、アルドナにヴワデクを注意しなさいと伝えたくはない。私がこの可愛い妹を鍛えて、自力で任務をやり遂げる能力を彼女の身につけさせないと、将来、彼女はボレスワブ兄様に重んじてもらえない。


 また寝る時間になった。先ずはメイドにお茶を持って来させるわ。


 私がベルのボタンを押した後、メイドはすぐ部屋に来た。私はカップを持ち上げ、少しだけ飲んだ…この熱さはちょうどいいわ。体を温める上に、飲みにくくもない。


 この時、メイドが手を懐のポケットに伸ばしたのを見た…途端に彼女はギラリと光る短剣を出して、私を刺そうとしてきた。


 幸い、私は素早く身を回して攻撃を避けた!お茶は床に零してしまった。


 彼女は止まらず高速で短剣を振って私を殺そうとしてきた!


 私は左手を振り、魔法ミサイルで彼女を阻もうとしたが、刃が一閃して、彼女はスムーズに短剣でミサイルを粉砕した。あの光っている短剣は、強い魔法が付いている真銀の武器のようだから、油断できないわ!


 私は壁に掛けられている軍刀を、魔法で自分のへ飛ばす時、彼女はまた攻めてきた。魔法が完成する時間はない、どうしよう!私は裸のままで防具を着ていないからとても不利な状況だ……


 落ち着いて…彼女と距離を保って、この寝室は十分に広い…


 暗殺者は私の考えを見透かしたようだ。彼女の短剣は光が強くなり、何回も鋭いエネルギーブレードを撃った。私は急いでシールドを作って防御した。


 肩から血が流れたのを感じた。先のシールドは攻撃を完全に阻めなかった…


 「逃げられないよ!くそ吸血鬼。」と表情がない暗殺者は短剣で私を指しながら宣言した。


 「迅雷よ!敵を追撃せよ!」と私は二個のライティングボールを作って、暗殺者に向けて飛ばした。


 彼女は短剣を振って、ライティングボールを砕きたいようだ…よし、そうすれば彼女は電撃を受けることになる!


 ダメだ!彼女の短剣は雷電も吸い込んだ!これは一体どういうことだ!


 暗殺者はまた駆けてきた。私は躱しても躱しても反撃の時機は伺えない。


 「この短剣は元素魔法を吸い込める…吸血鬼の貴族を招待するために作られた武器だよ。」


 私に余裕がない一方で、彼女には攻撃しながら話す余裕がある。ちくしょう…


 私は後ろへ跳ねて距離を保った。今回は既に準備をしていた。跳ねると同時にシールドを作って、丁度剣気を防げた。


 こいつは朝を選んで攻めてきてとても賢いわ。今は一日で私の体力が一番弱い時だ。でも、私はようやくこいつの攻撃の技を見透かせた。彼女は斬撃で目をくらまして、私の腹を刺撃するのが目標だ。


 彼女はまた攻めて来たが、私のほうが速かった――私は暗殺者の右手を掴んで、手痛く肘打ちで彼女の腹に打撃を与えた。そして、二回重いパンチを食わせた。


 暗殺者の武器が手から落ちた。彼女は沢山血を吐いて倒れた。彼女の肋骨は私に断たれたようだ。


 「くそ…あたしが負けるなんて…」と彼女は頭を傾けて血を吐いて、大理石の床を赤く染めた。


 「私は貴女が刺撃した時、いつも私の腹を狙っていることに気付いた。私が巨乳を持っているからでしょう?」


 私の巨乳は広くて乳肉が厚くて、天然の鎧のようだ。彼女の短剣の長さは足りないので、もし私の胸を刺したら巨乳に埋もれて動けなくなる可能性が高い。その上に、私の巨乳は揺れまくって狙いにくいので、腹を攻めるしかなかった。


 この巨乳は運動の時にすごく負担がかかる。しかし、思わぬ防御の効果があった。


 「くそ…その邪魔な巨乳がなきゃ…あたしを殺せ!」


 「私のような貴族を暗殺しようとしたら、貴女は楽に死ぬことができるとも思うのか?」


 私は彼女に愉快な笑顔を見せた。私は長い時間酷刑で他人を苛む楽しみを味わっていない…ヴワデクを臣服させてから。

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