第5話(File.5) 「Dr.Yoshihiro」


「はくしょん!!」



 銃声のような大きなくしゃみの音が聞こえた。誰かがこのショットガンの噂をしたらしい。



 アメリカ・カルフォルニア州のとある大学病院の一室に一人の男がいた。その男は高級そうなスーツの上に白衣を着て、黒縁の眼鏡をかけている。そして、足を組みながらソファーに座ってコーヒーカップを手に持っている。


 この男はあの超有名ドクターだ。手術を愛し(怖い、怖い)、娘と息子を愛する男、三越 吉弘みつこし よしひろ、またの名を、ドクターYoshi!(実際そう呼んでいる人は一人もいない)


 ちなみに吉弘は少しハゲているである。(誰得?)


 吉弘は足を組み直してコーヒーを一口飲んだ。


「あははーん!ディス、コーフィーイズ、ベリーベリーナイス」


 そう、この下手くそな英語を話すこの男こそが涼太の父親だ。英語の発音はあまり良くないが手術の腕は超一流である。


 吉弘は周りのドクターたちから歓声と拍手の雨を浴びた。


 外国人のテンションや笑いどころはイマイチよくわからん。この光景は日本人からしたらただの変人たちの集まりだ。


「先生、記者会見の準備ができたようです」


 そう言ってタブレットを持つ女性が入ってきた。肩らへんまでの髪を後ろで結んでいて、いかにも冷静沈着そうな顔をしている。


伊勢 茜は吉弘の秘書?いや違う。助手?いや、弟子というべきなのだろうか。弟子だろうか?秘書でも助手でも弟子でもある。ざっくり説明すると仕事仲間である。(大雑把すぎしょ笑)

 茜は二十代前半だが東大医学部を主席で卒業している。ネクストジェネレーションス・タ・ー・ドクターなのだ。(何だそりゃ)



「ハロー、エブリワン」



 そう言いながら、吉弘はフラッシュの音と光に焚かれながら登場した。そして椅子に座った。



「ディス、オペ、ワズ、ベリーベリーイージー!!」



 報道陣から再び歓声が聞こえた。


 外国人の笑いのツボはやはり理解できない。


 記者会見は無事に終わった。



「先生、36分後に空港への車が到着します。」


「茜君、まだ車が迎えに来るまで時間があるからそんな固くせず休みたまえ」


「で、でも」


「休憩は労働よりも大切だ。近くに美味しいカフェがあるからそこでパンケーキでも食べなさい」


 そう言って吉弘は茜にカフェのサービス券を渡した。




 カフェの窓から目をキラキラさせながらパンケーキを食べている茜の姿が見えた。




 そして30分ほど経った。


ーー「さあ、行こうか」


「はい」


 茜はパンケーキを食べたからなのかわからないが、今までの固い表情ではなく、口元がうれしそうに少し歪んでいた。


 吉弘は知っていた。茜が甘い物が好きだということを。





吉弘と茜の旅はまだまだ続く。

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ラブコメで結ばれるのはメインヒロインとは限らない 豆腐ピーナッツ @tttttofu

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