○○になあれ
結葉 天樹
少し(S)不思議(F)は実現できる
「えっと、カメラモードにして……」
画面に表示されていたQRコードをスマートフォンに読み込ませ、クーポンを手に入れる。よし、後でお店で買い物をする時に使おう。
「へえ、便利だな」
私がスマートフォンを操作している姿を見ていたお爺ちゃんが感心してそう言った。
「お爺ちゃんが小さい頃はこんな便利なもの無かったからなあ。写真撮るにもいちいち現像に出さなくちゃならんかった。それがこんな薄っぺらいのでフィルムもなしでなあ……」
「写真だけじゃないよ」
そう言ってムービーモードにしてご飯を食べているドラ(飼い猫)にスマホを向ける。自分に注目が向いているのに気づいたドラはすぐにその場から立ち去って「なんじゃい」と言いたげにネコタワーの上から私たちを睨んだ。
「ほら、カメラ向けたら逃げるドラの姿もばっちり」
すぐに逃げるので普段写真が撮れないドラ。しかしムービーにして後で画像だけ切り取れば写真として扱える。
「ほー、こりゃ凄い。何でもできるんだな」
「うん、いろんなアプリがあるから地図も見れるしメモ帳にもなる。インターネットもできるし漫画も読めるからこれ一つで何でもできるよ」
「まるでオコノミボックスみたいだな」
「おこのみぼっくす?」
聞き慣れない単語をお爺ちゃんが口にした。私は同じ言葉で問い返した。
「ドラえもんの道具に四角いものなら何にでもなるものがあってな。テレビにもカメラにも冷蔵庫にもなるんだ。それを思い出した」
「へー……って、冷蔵庫!?」
「洗濯機にもライターにもなったな。何々になあれって専用のマイクに言えばそれになるって代物でな。ちょっと欲しかったなあ」
「何でもありだね」
ドラえもんはアニメでは長い間やっているけど、元は漫画だ。お爺ちゃんが読んでいたならかなり前になるんじゃないだろうか。
「え、ちょっと待って。それいつのこと?」
「ありゃあ……十何巻だったかな。昭和五十年代の時の話だ」
「昭和五十年代って言うと……え、四十年くらい前だよねそれ!?」
そんな昔にスマホみたいなものを考えていたの。作者さん凄いな。
「もしかしてこの中のアプリって、意外とドラえもんに出てきてる道具と同じ機能だったりする?」
「そうかもな。いくつか言ってみてくれんか?」
「えーっと、翻訳アプリは?」
「ほんやくこんにゃくだな」
まあそれは定番だろう。私も思いついたくらいだ。
「通話機能」
「糸なし糸電話がある」
「マップ機能」
「衛星スパイカメラ」
「GPS」
「トレーサーバッジ」
「画像編集」
「インスタント旅行カメラで二つ以上の画像が合成できたな」
「AR」
「宇宙探検ごっこヘルメット」
て、手ごわい。
「ネ、ネット検索!」
「情報を知りたいなら宇宙完全大百科端末器だな」
「これはないでしょ。動画配信アプリ!」
「インスタントテレビ局ってのがあったな」
「ええーっ!?」
何でもあるじゃん。恐るべしドラえもんの作者。
「逆にスマホの方が凄いとお爺ちゃんは思うぞ。ドラえもんでも道具一つ一つ出さなくちゃならないのに、スマホは一つで事足りる」
「四次元ポケットみたいだね、これ」
そっか、お爺ちゃんたち世代が憧れたドラえもんの道具。今じゃかなりの数が実現しているんだ。それじゃ、他の道具もそのうち実現したりするのかな?
「お爺ちゃんはどこでもドアとタイムマシンもスマホの機能になってくれないかと思うんだがね」
「いや、さすがに無理でしょ」
○○になあれ 結葉 天樹 @fujimiyaitsuki
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