第14話ムスカリ
俺たちは夢幻の訓練場に案内された。そこは広く、戦うには十分すぎるほどの広さだった。ガルシアスとティナには上から見てもらうことにした。幻式の使用は禁止にし、剣と脚の戦いになった。俺は早速カーヴェから買った剣のを使う。ミホノはというと、ツインターボのターボエンジンとスラスターのないような見た目の武器を使っていた。
「私は手加減できませんので。全力で来てください」
「わかってるよ。お前に全力を出さなかったら死んじまうからな」
試合開始のブザーが鳴った。俺は早速間合いを詰め、一振する。手に馴染む重さと長さ、こだわった柄の素材、カーヴェの職人技が合わさり、初撃から最高の一振ができた。ミホノは素早く脚で剣の軌道を逸らし、距離をとる。
「確かに、剣を持ったあなたは強いですね。では次は私から行きましょう!」
瞬歩で一気に間合いを詰められる。そこから膝蹴り、ローキックとテンポよく攻撃を繰り返してきた。あの時なら間違いなく喰らっていた。だが今は剣がある。俺は足元に剣を指し、それを軸に回避をした。
「なるほど、あなたに同じ攻撃は二度も通じないということですか。」
「まぁターボやスラスターによる加速がない分避けやすいのもあるがな!」
だがこの剣はいくら無理な軌道をさせようと、いくら体重をかけようと折れる気配がない。この剣に何が宿っているとでも言うのか。
「ガルシアスさん。この状況どうみますか?」
「そうだな、ツインターボによる加速がない分ぜフィスの方が優勢だ。だが、足技の多様性を使いこなすミホノも優勢に見える。」
ガルシアスは顎を擦りながら見ていた。2人は観望室て戦いを見守っていた。
「ゼフィスの動きテレジアの時よりもキレがあるように見えます。以前使っていた剣よりもあの剣の方が使いやすいんですかね?」
ティルナシアは考え込んだ。テレジアで成長したのか、単純に剣が使えることに喜びを抑えきれていないのか。未だわからなかった。
「確かあの剣には魔石が使われているんだよな。まてよ、俺わかったかも」
ガルシアスは顎をさするのを止め、手を力強く握った。
「多分あの剣は……」
さっきから一振一振が楽な気がする。決して手を抜いているわけではない。単純に手に馴染みすぎているのだ。
「仕方がありません。父の言う通りあなたに連撃をし続けるのは意味がないようです。ならば力には力で!」
カーヴェ師匠そんなことまでわかっていたか。ミホノは瞬歩を繰り返しながら移動を繰り返し、間合いを詰める。そして勢いを殺さずに回し蹴りを繰り出す。俺は合わせるように剣を振った。が、
バキ!と鈍い音がした。
「お、折れたー!」
折れた、剣が折れちまった。ミホノも驚きを隠せなかったらしくその場で直立しながら固まっていた。まさか10年間の劣化と、この試合での扱いの悪さが折れる原因だというのか?まさか買って数時間で折ってしまうとは。すまないカーヴェ師匠……
「ッ!?ゼフィス!剣を見てください!」
観望室からティナの驚く声が聞こえる。折れた剣を見ると柄に向かって動いている。そして気づけば折れた部分が集合し修復された。
「ゼフィス、恐らくその剣は魔剣だ!お前の魔力を燃料に修復したんだ。」
ガルシアスが叫ぶ。魔力を燃料に修復?だが俺は普通の人間だから魔力なぞ持っていない。何かの間違いでは?
「幻式を使っていた時に体内に流れた魔力の残滓が残っていたと推測します」
ミホノは考え込むように行った。魔力が体内に残るか。ありえない話ではない。生成した魔力を毎度毎度使い切っているわけではない。使い切らずに幻式を外せば体内に魔力が残る可能性だってある。しかし、魔剣か。剣に含まれる魔石が体内の魔力と反応することで修復されるということなのか?待てよ?もしかしたらあれも出来るかもしれない。魔法の杖に使われる魔石は魔力の増幅ができる。それをこの剣に応用すれば。俺は剣に残りの魔力を集めるように集中した。
「さあ、第2ラウンドと行こうじゃないか」
剣に炎が帯びる。魔力を剣に集中させ、火属性魔法に転用する。そうすることで剣に炎を帯びさせることができる。多分。
「あとどれくらい魔力が残っているか知りませんが厄介ですね。その剣」
ミホノは自慢の脚力で素早く後方に周り、かかと落としをしてくる。剣の重心や、重さを最大限活かしながらの防御に入る。訓練場に金属と金属がぶつかり合う音が鳴り響く。
「熱、もうそろそろ終わりにしましょうか」
「ああ、次の一振で決めてやる」
俺たちは間合いを取った。俺は居合の構えをしつつ、雷のイメージを剣に集中させた。ミホノはクラッチングスタートの構えをし、突撃の体勢を固めた。
「「行くぞ!」」
掛け声とともにミホノは駆け抜ける。俺はそれを受けるように居合の構えを取り続けた。ギリギリまで近づける。この一振が体力的にも最後の一撃になる。待つ時間がたった数秒にも関わらず、長く感じられた。そして間合いにミホノが入る。彼女はサマーソルトを繰り出した。
雷切……
心の中で呟き、鞘から抜剣し、切り裂く。剣には雷が帯びていた。雷はミホノに感電し、勢いよく煙を上げる。俺はサマーソルトをもろに喰らい、その場に倒れた。
「勝者……いや、両者ダウンで引き分けだな」
「とりあえず、助けないと!」
ティルナシアとガルシアスのふたりはゼフィスとミホノに駆け寄った。そして医務室まで運び、目覚めるのを待った。
「良かったぁ、ふたりとも軽傷で」
「まあ、ミホノは感電、ゼフィスは思い切り顎を蹴り上げられたんだが。耐久高すぎるだろ」
ふたりは笑った。お互いが全力を出し合た結果が引き分けだ。これで幻式ありだったらどうなるのだろう。そう二人は思った。
「っ……は!」
「おはようございます」
高い声だった。しかし、しゃがれた声だった。
「ガルシアスのおっさんよぉ、あんたがやると気持ち悪いからいつも通りで頼むわ」
「は、目の前に人がいるだけありがたいと思うんだな。おはよう、ゼフィス」
俺は顎を抑えた。痛かった……助走とミホノの脚力が合わさった攻撃は今まで喰らってきた武術の中で1番と言っていいほどの強さだ。
「そういえばふたりは?」
「別室だよ。男と一緒の部屋になるわけないだろ。そういえばあの剣どうだった?」
今までにないほど手に馴染む剣だった。そして耐久面も魔力による自己修復があるため問題がない。
「一番いい剣だった」
「そうか、そりゃよかったな。で?名前は?」
名前?そういえば決めてなかったな。以前使っていた剣にも名前はつけなかった。何かいい名前はないだろうか。俺は机の上にある花を見た。ムスカリか。花言葉は「絶望」とか「失望」などバッドな意味がある。誰がが死んだのだろうか。ここは病室。恐らくモンスターによって殺された人が使っていたのだろう。
「嫌なら下げてもらおうか?」
「いや、ムスカリにはまだ花言葉がある。それは『通じ合う心』と『寛大な心』だ。そうだ、この剣は『魔剣ムスカリ』と名付けるか」
「安直じゃねえか?」
剣を振るう以上絶望も失望も降りかかるだろう。だが剣には通じ合う心が必要だ。なによりこの花は寒さに強い。植物にとって寒さは敵だ。そんな敵に立ち向かえるこの花が俺は好きなのだ。
「そういや、お前の体の中に魔力が残ってただろ」
「ああ、それが何か?」
「いや、もしかしたらお前にもあれが宿るかもな」
宿る?何が?俺はガルシアスの言葉に疑問を持った。だが彼はこれ以上喋ることはなく、ただひたすら机に飾ってあるムスカリを見るのだった。
後書き
「ここは?」
「ミホノさん、起きましたか。はぁ〜良かったぁ」
ティルナシアさんは私を見て安堵した。なぜ?私はさっきの試合で勝ったはずでは?
「あの後、感電して気絶しちゃったので心配しました」
え?あの試合負けたのですか?あの人に幻式が使用禁止とはいえ負けるとは不覚です。
「ゼフィスは?」
「あなたに顎を蹴られて気絶しました。まぁ、両者引き分けって感じですね」
彼女は笑った。なぜ笑った?仲間が負けたと言うのに。私には理解できなかった。
「あ、りんご剥いたんですけど食べます?」
「ま、」
「ま?」
「ママ……いえ、母さんと呼ばせてください」
「い、嫌です」
「せ、せめて姉さんと!」
「いーやーでーすー!」
私はついに見つけました。私のためにリンゴを剥いてくれる姉さんを!
ARCADIA BLUES. Sdevil @Sdevil
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