……スマホ。それは一人ぼっちでない証。

大創 淳

第五回 お題は「スマホ」


 ――今日の帰り道、思考を張り巡らせる。お題についての執筆内容。……スマホ。



 見る。周りを、周囲を注意深く観察、ネタを散策する。揺れる電車内の模様。乗客の皆が皆マスク……息苦しくも前屈みでスマホを見る。走らせるスマートな画面タッチ。


 走る窓から見える景色にも、見向きもしないで、

 只管にスマホ画面。僕の傍らにいる梨花りか可奈かなも交わす言葉もなく、夢中も夢中。僕の存在を忘れている? もうスマホ三昧で……その向こうにあるものは何だろう? そう一瞬たる思考が過った時、流れ星のように過った時、ふと見える。無数の糸。


 でも、元は一本のように思える。

 懐かしくも、まるで糸電話なの。スマホという名詞は、今でこそだけど、


 ――スマートフォン。一応は電話で……じゃあ、携帯電話と何が違うの? あっ、それはガラケー。僕は多分、ガラケーでも良かったの。……でも、良くないの。



 見てみて! 窓から見える景色。


 ねっ、流れてゆくの。時の流れと同じ。モノクロではなくカラーに見える……見えるようになったの、あの日から。この進行方向とは逆に、糸は繋がる、糸電話のように。


 それは僕の、

 ……僕のスマホ。生まれてこの方、この一台。


 本当はというと、このスマホから、僕の物語が始まったといっても過言ではない。生も死も、その区別のないそんな世界観の中で、場所はウメチカ。このレールの端まで遡った場所。そこで出会ったの。僕の……僕の大切な人。とても大切な人になった。


 その人の名は、ティム……ティム・ウメダさん。


 その日は僕の、お誕生日。十三回目の。きっともう、精神的にも限界だった……お母さんに『あんたなんか生まなきゃよかったんだ!』と言われて、自暴自棄になってお家を飛び出した。絶望というイメージしかなかった日に。


 もう疲れて、倒れて……このまま野垂れ死にかと思った時に、介抱された。


 実は、その時なの。



 ――その帰り道だ。出会ってまだ間もないのに……ほんの数時間程度のものなのに、帰り車で送ってくれてお家に。――でねでね、その途中でひと悶着……というのか、


「ここお家違うよ、僕をどうするの?」

 と、再びの警戒心。誘拐? それとも、性的行為されるの?


「プレゼント。ボクトキミノレンラクシュダン。……キミノコトガシンパイダカラ。ボクハネ、キミニコレイジョウ、ナクコトヲシテホシクナイカラ」


 と、言うの。それも、悲しそうな顔をして……何で?


「何でそこまで? 今日、会ったばかりなんだよ? 僕たち」


 泣いちゃった。とっても温かいから――。でも、嫌な涙じゃなかった。同時に、この温かさがなくなることが、途轍もなく怖くなった。ギュッと、ギュッと手を握った。



「ダイジョウブ。モウスグ、ワラエルヨ」


 片言の日本語が、とても優しく聞こえた。……流れゆく記憶。今は不登校だけれど、登校していた頃は毎日いじめられていた。思い出したくないレイプまで……


 そして、お母さんからの虐待も。


 お金があったら、優しくしてくれるの? この先は、高額チケットを売って儲けたお金で、お母さんは優しくしてくれた。虐待の時とは、もう正反対にまで……



 そう。

 ティムさんが、僕にプレゼントしてくれたものは、スマホ。


 黄色のスマホだ。僕との連絡手段として買ってもらったの。――まずはお金儲け。それが一番に優先されること。僕の身を守るため。お母さんからの虐待から逃れるため。


 ……なら、不登校でも許されるから。


 僕は利用したんだ。日本に来て間もないティムさんを。


 ……ティムさんの優しさを。笑える日は来たけれども、やっぱり高額チケットを売ることは違法に変わりなく、女の部分を使って騙してもいたから……罰が当たったけど、


 それは、優しい罰だった。僕と瓜二つの梨花と出会うキッカケとなったのだから。


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……スマホ。それは一人ぼっちでない証。 大創 淳 @jun-0824

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